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小型双眼鏡で星空散策・2000冬編
タンクローは遠い銀河の夢を見るのか

 双眼鏡の使い道というと、バードウォッチングと天体観察というのが定番です。
 冬になって夜空が澄み渡り、星を見上げるには絶好の季節がやってきました。
 早い時間だと、空の真上で木星と土星がプレアデス・ヒアデスと揃い踏みをしています。
 アンドロメダ銀河、オリオン座大星雲、カシオペア座二重星団と見所は尽きません。

 遠くに行かなくたってかまいません。
 玄関先からでも十分に楽しむことが出来ますし、近場でも暗めの公園なら なお結構。
 ちょっと着込んで夜空を見上げてみませんか。
 肉眼でも見える星雲星団もありますが、ちゃんとした双眼鏡をお供にすれば小さなやつでも何倍も楽しめます。

 よく皆さんが気にされるのは、小さな双眼鏡でどんな天体が見えるのかということです。
 確かに、星を見る双眼鏡というと、口径の大きな製品ばかりがもてはやされます。
 天体観察のガイドブックはそもそも天体望遠鏡向けに書かれていることが多いですし、双眼鏡向けに書かれた物でも50mmクラスを念頭に書かれていることがほとんどです。
 最も家庭に普及している20mmクラスの双眼鏡については「天体用には力不足」とばかりに全く触れられていません。

 しかし、双眼鏡の魅力は気軽さと汎用性です。
 口径が小さくても、肉眼よりは集光力がありますから、その効果はあるはずです。

 ここでは天体観察にはあまり適していないと考えられている20mm〜30mmの小型双眼鏡を使ってどんな天体が見えるのか試してみましょう。
 皆さんもいっしょに、小さな双眼鏡で宇宙の入り口を覗いてみませんか。

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     選手紹介

 まず、小さな双眼鏡といって思い浮かぶのがペンタックスのタンクローでしょう。

 多くのガイドブックで入門用双眼鏡といえば必ず名前の挙がる製品です。
 我が家のあるのは8X24で一世代前の製品です。
 普段は出張や通勤のお供として、鞄に入れてある双眼鏡です。
 出先の景色や小鳥を眺めるのが主な使い道で、これまで夜に使ったことはありませんでした。
 皆さんの家にある双眼鏡も大体こんな感じの製品でしょう。
 もっとも小さいクラスの双眼鏡の代表と思ってください。

 次に小さい双眼鏡というと口径30mmクラスの商品になります。
 こちらは我が家の機材の関係でキャノンの10X30ISで実験してみましょう。

 我が家でも最も使用頻度の高い双眼鏡で、バードウォッチングや旅行に活躍しています。
 それでも、夜空に使ったのは数えるほどで、月や木星を眺めただけでした。
 8X32や7X35といったバードウォッチングや野外活動用に普及している中型双眼鏡と同じ口径に当たります。
 ちょっと大きめの双眼鏡の代表と考えてください。

 対して、天体用に普及している双眼鏡としてはビクセン・アルティマ10X44EDを使って見ましょう。

 50mmクラスに比べて一回り小さく軽いことから、最近では7X50に変わって7X42など40mmクラスが人気を集めています。
 本来であればもう少し倍率が低いほうが望ましいかとは思いますが、天体に適した中型双眼鏡の代表と考えてください。

 さらに天体に特化した双眼鏡としてニコン18X70IFを比較してみましょう。

 70mmクラスは三脚固定は欠かせませんが、入門天体望遠鏡を凌ぐ眺めを提供してくれます。
 初めての双眼鏡としてお勧めできる代物ではないものの、天体にのめり込んだら欲しくなる製品と考えてください。


    それではまず月から

 観察は12月中旬に行っています。
 もちろん、遠出なんかせずに家の玄関先から、近くに家の屋根を避けるように動き回りながら星を眺めています。
 我が家は北関東の都市部からちょっと外れた住宅地にあります。
 その辺の道には水銀灯が輝き、光害の影響を受けています。
 中でも南東の方向はショッピングセンターの影響で空が白んでいるほどです。
 まあ、都市部の平均的な星空と考えても良いのではないでしょうか。
 要害が少ない地域だともう少し見えが改善すると思ってください。

 以下の文章での評価は全て主観的で相対的なものです。
 基準は10X44EDあたりを念頭に置いています。

      

 まず、目慣らしに明るい天体から眺めていきましょう。

 明るい天体といって真っ先に思い当たるのは月です。
 この日は月齢20、半月より若干膨らんだ月が出ています。

 まず、タンクローで覗いて見ましょう。
 口径は小さくとも8倍の双眼鏡、コペルニクス・ケプラー・アリスタルコスといった主だったクレータはくっきりと観察可能です。
 初めての方だと十分に感動できる眺めでしょう。

 次に、10X30IS。
 倍率のメリットからか月面南部の小型クレーターが少しずつ見えてきます。
 タンクローより滲みが抑えられくっきりとした眺めが味わえますが、口径のメリットは感じられません。
 10X40EDも同じような感じです。

 18X70では高倍率のメリットが実感できます。
 小型クレーターが集まって出来た山脈など見飽きない観望を楽しむことが出来ます。
 ここまで双眼鏡で見えるとは想像しにくい眺めでしょう。

  口径   8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   とても楽しめる とても楽しめる とても楽しめる 絶品!

    惑星を観察してみましょう

 次に明るい天体というと惑星になります。
 この時期だと、金星・木星・土星が見頃でしょうか。
 観察をはじめるのが遅かったので、金星を見ることは出来ませんでしたので木星からいってみましょう。

      木星

 この時期の木星はヒアデスとプレアデスに挟まれるように輝いています。

 まず、タンクロー。
 木星自体は面積のある天体として見ることが出来ます。
 縞模様は残念ながら見ることが出来ません。
 8倍でも本来であれば並んだガリレオ衛星をとられることができるのですが、光学系の暗さが災いしてかなり目を凝らさなければ見つけることが出来ません。
 木星の周りに滲みが出てしまうのも見えを損ねてしまっています。

 次に、10X30IS。
 これでも縞を捉えることは出来ません。
 替わりに、一直線に並んだガリレオ衛星をはっきりと眺めることが可能です。
 10X44EDも同様に縞こそ見えませんが、大きな惑星であることを実感できます。
 ガリレオ衛星も綺麗に見ることが出来ます。

 18X70では、かなりまぶしいのですが白い星がオレンジの腹巻をしているように見ることが出来ます。
 ガリレオ衛星もまぶしいくらいに輝いているのを眺めることができるでしょう。

  口径   8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   まあまあ 楽しめる 楽しめる とても楽しめる

 

      土星

 次に明るい惑星といえば土星です。
 輪のある天体なので最も見栄えのする星といっても過言ではありません。
 今は木星と並んで輝いています。

 タンクローでは面積のある天体であることが分かりますし、丸ではなく楕円の天体のように見えます。
 土星といわれてみれば、輪のように見えるかもしれませんが・・・。

 10X30ISでも楕円形の天体として見えます。
 タンクローよりはくっきり輪が見えるような気になりますが・・・。
 10X44EDでも同じように見えてきます。

 18X70では、三脚の固定が十分で揺れが収まれば輪の存在を確認できます。
 惑星本体の後ろで輪に影が出来ているのも見えてきます。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   楽しめる 楽しめる 楽しめる とても楽しめる

    星雲・星団を探してみましょう

 夜空に目がなれてきたところで、次は星雲星団を探してみましょう。

      M31銀河

 まず、早い時間であればアンドロメダ銀河(M31)を探してみましょう。
 目が慣れてくれば、肉眼でもぼんやりとその存在が見えてきます。

 タンクローでは肉眼よりもくっきりとその存在を確かめることが出来ます。
 10X30ISになるとより一層大きなシミのように見えてきます。
 10X40EDでは口径の大きさが有利に働きさらに一回り大きく見ることが出来ます。
 条件がよければ 中心部が明るく 次第に淡くなっていく様子が見えるかもしれません。
 18X70では星雲の大きさが大きく感じられ光の変化を楽しむことが出来ます。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   楽しめる 楽しめる とても楽しめる とても楽しめる

      M33銀河

 アンドロメダ座でM31と対を成すのが、M33銀河です。
 時間が早ければまだ観察可能です。
 条件がよければ肉眼でも観察可能ですが、我が家では双眼鏡を使わなければ見えないように思います。

 タンクローでも見回していると光にシミとして捕らえることが可能。
 10X30ISでも印象は替わらない、若干大きく見える程度。
 10X44EDでは辺縁に掛けて若干淡くなっていく様子が捉えられます。
 18X70でも面積が大きくなる程度、M31のような迫力は望めないようです。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   まあまあ まあまあ 楽しめる 楽しめる

      二重星団(ペルセウス座)

 カシオペア座周辺に目を転じれば、有名な二重星団があります。
 タンクローでも隣り合わせた星団の存在を知ることが出来ますが、見える星の数が少なく星団としては迫力不足かもしれません。それでも、タンクローで眺められる星団としては良いほうでしょう。
 10X30ISでは確認できる星の数が格段に増え、はっきりと「星団」と分かります。
 10X44では星の粒粒感を堪能できてきます。口径の大きさがありがたく感じられます。
 18X70では文句なしの眺めとなります。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   まあまあ 楽しめる とても楽しめる 絶品!

      M45星団

 明るい星団といえばおうし座のプレアデス星団(M45)も双眼鏡には最適の星団です。
 場所は肉眼でもはっきりと捉えられます。
 タンクローでも青く輝く大粒小粒の星々をはっきりと分離します。
 10X30ISではそれぞれの明るさの違いが際立ってきますし、18X70では輝きが一層華やかさを増しますが、小型の双眼鏡でも十分と思わせる美しい星団です。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   とても楽しめる とても楽しめる とても楽しめる とても楽しめる

      ヒアデス星団

 おうし座といえばプレアデスと並んでいるのがヒアデス星団です。
 プレアデスほどの華やかさはありませんが、双眼鏡でぜひとも覗いておきたい星団の一つでしょう。
 その広さゆえに高倍率をもてあます天体でもあります。
 タンクローでもその星々の広がりを楽しむことが出来ます。
 口径が大きくなるにしたがって視覚的な華やかさは増しますが、18倍では視野から星がはみ出してしまいます。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   楽しめる 楽しめる 楽しめる はみ出し

      M42星雲・M43星雲

 ここまで秋の星雲星団を見てきましたが、時間がふけるにしたがって冬の星雲が姿をあらわしてきます。
 まず、忘れてはならないのがオリオン大星雲(M42・M43)でしょう。
 肉眼でもその存在が見える天体ですから、前述のM31と並んで双眼鏡での観察に適しています。
 タンクローでもその存在をはっきり捕らえることが出来ますし、こうもりのような形をしていることも分かると思います。
 10X30ISでははっきりとベールのように広がった星雲を眺めることが出来ます。M43もそれらしくみえるような気がします。
 10X44EDになるとM43の存在がはっきりします。18X70ではトラペジウムが分離して観察可能です。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   楽しめる 非常に楽しめる 絶品! 絶品!

      M78星雲

 オリオン座といえば、もう一つ忘れていけないのがM78星雲です。
 これ自体は双眼鏡向けの天体とはいえないのですが、ウルトラマンの故郷ですから一応覗いて見ましょう。
 タンクローでは天体の存在は確認できますが、恒星状で星雲であるとは識別できません。
 10X30や10X44でも同様です。
 ガイドブックなどでは18X70では恒星との識別が可能と書いてあるのですが、住宅地の悪条件かでは判別不可のうでした。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   厳しい 存在のみ 存在のみ 存在のみ

      M41星団

 さて、オリオン座を眺めていると近くで明るく輝く星が目に付きませんか。
 そう、おおいね座のシリウスです。
 我が家では最も条件の悪い南天に、それでも爛々と光を放っています。
 シリウスから少し下のほうには散開星団(M41)が隠れています。
 光害に最も邪魔されているせいか、我が家ではタンクローではぼんやりとその存在がわかるのみです。
 10X30では数個明るい星が見えるものの全体としては星雲状で、10X44EDになってはじめて散開星団として捕らえられます。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
  評価   まあまあ 楽しめる とても楽しめる とても楽しめる

      M36・M37・M38

 今度は条件の良い天頂付近を捜してみましょう。
 天の川の付近に明るくぎょしゃ座のカペラが輝いているはずです。
 その近くを探すとM36・M37・M38と三つの散開星団が並んでいるはずです。
 が、タンクローではM38はどうにか識別できるもののM36・M37は判別できません。
 10X44EDをつかって位置を確認してもM36・M37はどうしても見つけることが出来ませんでした。
 10X30ISではM37は星団として確認できますが、M36・M38は星雲のようにぼんやりと存在を知ることができる程度です。
 10X44EDでは全て星団として識別可能で、M36は中央部が明るくM37は暗いが星の数が多いなど、それぞれの特徴をどうにか理解できます。
 18X70では文句なしの観望が楽しめますが、残念なことに天頂付近は直視型の大型双眼鏡には鬼門のような場所になってしまいます。

  口径  

8X25 10X30 10X44 18X70
M36 不可 まあまあ とても楽しめる 絶品!
M37 不可 楽しめる とても楽しめる 絶品!
M38 まあまあ まあまあ とても楽しめる 絶品!

 

 他にも双眼鏡で除ける星雲・星団はあるのですが、寒さのあまり1時を回ったところで筆者は睡魔に襲われてしまいました。
 また、別の機会にチャレンジすることにして、今日のところはこれで一休みといたしましょう。


     まとめ

 もし手元に20mm程度の双眼鏡しかなかったとしても、月や土星はもちろんM31・M33・M42・M45・ヒアデス星団のような星雲・星団は十分に楽しむことが出来そうです。
 写真で見たことがあっても、M42のような星雲ははじめて自分で見ると感動も大きいものです。
 「良い道具がないから星が楽しめない」と考えず、手元のもので星探しをしてみると新しい発見に出会えるのではないでしょうか。
 夜空が楽しいと思えたらもう少し大きな道具に手を伸ばせば良いのですから。

 本当に星を観察しようと思えばより口径が大きいほうが有利なのは言うまでもありませんし、正直な所、 実際に覗いていると小口径の不利は強烈に意識させられます。
 もし、これを読んでいるあなたがこれから双眼鏡を選ぼうとしているのであれば、そして少しでも星に興味があるのであれば20mmクラスではなく、30mm程度の製品を考えられることをお勧めします。
 たった1cmの違いですが、見え方には格段の差があるのは上記のとおりです。

 いずれにしても、双眼鏡は気軽に周りのもの全てを楽しむための道具です。
 口径に縛られず楽しい観察をしてみませんか。
 タンクローにはタンクローの星空があるはずですから。

 


 

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