双眼鏡の性能(8)
数字化されない性能を考える
ここまで双眼鏡の性能について見てきましたが、使い勝手を左右するのは数字の性能だけではありません。
野外で使う双眼鏡であれば防水性能は気になりますし、ケース・レンズカバー・ストラップといった小物も、私たちには選べないものですが 出来・不出来が使いやすさに影響します。
ガイドブックには ほとんど書かれないところですが、筆者なりの考え方をまとめてみましょう。
ピントの合わせかた
何を書き始めるかと思われるかもしれません。
双眼鏡のピントといえば、真ん中のダイアルを回して合わせる印象があるでしょう。
確かに、最も一般的なのは「中央繰出し式(CenterFocus)」と呼ばれる方式です。
中央のダイアル一つで左右のピントを合わせる方式で、普通に見かける双眼鏡はこの方法でしょう。
細かく見れば、CF方式でも 対物レンズを動かす方式、接眼レンズを動かす方式、内部にピント合せ用のレンズを備える方式がありますが、何より使いやすいので、普通はCF方式以外の双眼鏡を見かけた事がないかもしれません。
対して、左右のピントを別々に合わせる「独立繰出し式(IndividualFocus)」といわれる方式も存在します。
使うときは、左右の接眼分を持って同時に同じ方向に動かしながらピントを合わせていきます。
少し面倒なのですが、耐久性能を高めやすいので防水双眼鏡で多く採用されています。
私は荒く使える双眼鏡が好きなので IF方式の双眼鏡を多く手にしてきました。
慣れればほとんど苦にならないんですが、小枝の小鳥などにすばやく合焦させたいときに若干の不利は否めませんし、人に貸すのはためらわれてしまいます。
天体用の大型双眼鏡は多くがIF方式ですが、ピント合せの回数が多くないので不便は感じないでしょう。
視度調整の方法
視度調整は、左右の目の視力差(正確には屈折率の差)を調整するための機能です。
詳しい方法は説明書やガイドブックに出ているはずです。
ほとんどの双眼鏡では、左右どちらかの接眼部に 調整環がつけられているでしょう。
このように接眼部に付けられることが多いのは、機構が簡単で 信頼性が高く コストが安く済むことが大きいのでしょう。
ただ、目に接する場所にあるだけに使用中に動いてしまうことが多いのが難点です。
昼間だと そう気にならないのですが、暗い中で星を見ている最中だと もうお手上げです。
調整するときにはスムースで、必要の無いときには動かないという矛盾した用件を求められる場所でもあります。
理想的には、ライカやタンクローのように 中央軸など接眼部以外の場所に移してしまうのが一番です。
中央に飛び出しているのが 埋め込み式の視度調整ダイアル
もちろん押せば中に引っ込んでしまう
使いやすさでも この方式が良いのですが、複雑な機構を考えると すべての双眼鏡に採用されるには無理がありそうです。
じつは、従来の方式でも ちょっとした工夫で使い勝手はだいぶ向上するんですけど。
ツァイスの視度調整環
0位置に 触っただけではっきり分かる工夫がされている。
暗闇で動かしてしまったとしても 素早い復帰が可能。
こういう細かい工夫は 国産メーカーにも見習ってほしいものです。
防水性能を考える
双眼鏡に限らず
普通の光学機器は水や湿気に弱いものです。
が、双眼鏡は海事用や軍用にも使われていますから、高い防水性能を持つ機種も存在します。
普通は
雨の中でまで双眼鏡を使う機会はさほど多くないでしょうが、観察の途中で雨に降られることは珍しくありません。
水濡れや結露を心配しなくて良い分、防水双眼鏡は気楽な存在です。(重さを除いて)
窒素ガス封入防水型
もっとも高度な防水性能を持つのが、鏡筒内に窒素ガスを封入された防水型の双眼鏡です。
この手の製品は水深1m〜5m程度までの防水性能を持ち、一般的な使用では完璧な耐水性を誇っています。
多くの製品は海事・軍事・監視業務用に設計された双眼鏡ですが、各社の最高級双眼鏡では これと同等の防水性能をもたせていることが多いようです。
このような双眼鏡は航海やマリンスポーツで使われることが多いため、双眼鏡を誤って水に落としても本体が沈まないようにする「フローティング・ストラップ」がフジノン・ライカ・シュタイナー等から発売されています。(使い勝手は最悪ですが・・・)
勿論「防水型」といっても水中での使用は出来ませんし、本体に水が入らなくてもボディーは錆びたり汚れたりしますから使用後の手入れを怠ってはいけません。
また、内部に封入された窒素ガスも時間とともに抜けてしまうといわれており、十年程度でオーバーホールが必要となります。
私もこの手の双眼鏡を好んで使っていますが、欠点は本体の重量がかさんでしまう点です。
冬の時期の天体観察での結露やカビを心配しなくていいのは大変便利ですが、普段用に持ち歩くのは荷が重く感じます。
7X50で言えば、通常の双眼鏡が600〜800gなのに対して、窒素ガス封入型は1Kgを超えてしまいます。
ここ一発用の双眼鏡は完全防水型が理想ですが、気軽に使いたいのであれば自分がどれだけハードに使うのかを考えて選んでください。
また、この手のポロ双眼鏡の多くがIF方式のピント合せを採用しているのも、大きなマイナス点です。
高額なダハ双眼鏡では内部レンズによるフォーカシングを採用して防水性能とCF方式を両立させたり、小型機では対物レンズの前に防水カバーを嵌めて対物レンズ移動式のまま防水性能を持たせたりしています。
生活防水型・防滴型など
完全防水型ほどではなく、簡易な耐水性を持たせた製品です。
メーカーによって表現に違いがあり、多少水に漬かる程度に耐えられる物から、水しぶきに耐えられる程度の物まで性能は様々です。
基本的には、「生活防水」と言えば軽い水濡れに耐えられる程度で、完全な浸水は保証外となります。
まあ、私たちの使用で双眼鏡を水没させてしまう機会がどれだけあるかを考えれば、十分な性能といえるでしょう。
カビや結露に対する効果は弱いでしょうが、キャンプや登山では保険代わりと考えれば安心感があります。
業務用ではなく一般向けに設計された製品が多く、小口径の双眼鏡にこのタイプが多くなっています。
ポロ双眼鏡でもCF方式が多いのも便利な点です。
余談になりますが、某社の防滴を謳う双眼鏡を営業マンが水浸させたのを見たことがあります。
勿論双眼鏡は無事だったのですが、営業マンは「本当はいけないのですが」と断っていました。
メーカーも、多少は、安全マージンを取っているのでしょう。
欠点は、完全防水双眼鏡ほどではないにしても、通常の双眼鏡より高価で重くなってしまう点です。
たとえば、通常のタンクローG8X24が16000円・270gなのに対して、生活防水のタンクローWR8X24が20000円・330gになっています。
普通の双眼鏡は量販店での安売りは期待できますが、防水型はあまり見かけないのも欠点といえるでしょう。
ごく普通の非防水双眼鏡
普通の双眼鏡は水に弱い存在です。
といっても、私の経験では小雨で少し濡れる程度であれば、すぐに手入れをすれば問題を起こすことは少ないようです。
工作精度が上がっていることも関係しているのでしょうか。
キャンプで雨が降ったら ビニールに包んで防水袋に入れて 浸水に備えていました。
普段の野外観察であれば、レインウエアの中に入れたりカバーを掛けたりといった少しの気遣いで破損のリスクをぐっと減らせるでしょう。
ちなみに、一度双眼鏡を完全に浸水させてしまうと、内部のレンズやプリズムに汚れがついてしまい分解修理が必要になります。 小型双眼鏡だと、ほぼ確実に全損コースでしょうか。
7X35を水浸しにして約2万円を請求され修理を断念した例がありますから、油断は禁物です。
付属品を考える
双眼鏡を買うとついてくる付属品。
主なところではケース・レンズキャップ・ストラップ。
中で最も使い勝手に響くのがストラップでしょう。
小型の双眼鏡では丸紐でも、大型双眼鏡ではカメラ顔負けの平織りクッション付きストラップがついてきます。
カメラの世界では重さ1kgあたり1cm幅のストラップが必要だといわれているようです。
これより細い紐だと提げていて疲れが倍増します。
上から、タンクロー(ビニール平織り 約1cm)・ビクセンアルティマ(約3cm)・ツァイス(クッション内蔵)
重さの違い以上に価格の差が出ている。
ストラップはコストダウンがモロに出てしまうところなので、貧弱な紐しか付いてこないようならカメラ用品に交換してしまうのも一法です。
せっかく良さそうなストラップを買ってきても取り付け穴が少し小さかったりすることが無い訳ではありませんが、中型以上の双眼鏡であれば多くは流用可能なはずです。
高い双眼鏡を買わなくても、ストラップを高級なものに交換するだけで 格段に使い勝手は向上します。
ケースも価格が露骨に出てくるところでしょうか。
メーカーによっては「ケース別売」なんてこともあるようですが・・・
大型の双眼鏡の多くはハードケースがついてきますが、小型双眼鏡ではソフトケースが多くなります。
大型双眼鏡のハードケースと中型双眼鏡のソフトケース
高いものほどデザインに凝っている。
フィールドでは持ち歩かないことが多い(私は・・・)
耐久性や収納を考えればハードケースが有利にみえますが、持ち運びや家で閉まっておくときは不自由する物です。
フィールドではケースを持ち歩かない訳ですし、収納だってカビ防止のために防湿庫を使っているので、どのようなものがついてきても私は気にしないのですが、街中を持ち歩くことが多い小型双眼鏡ではおしゃれで目立たないケースだとありがたいですね。
大型双眼鏡だとケースは車の中や部屋に置きっぱなしにして、剥き身で持ち歩くのがラクでしょう。
長年、双眼鏡を使われている方を見ていると「ケースを使わない」派がずいぶん多いようです。
レンズキャップも物によって千差万別です。
小型双眼鏡では接眼レンズキャップだけで対物キャップは付かないことが多いようです。
対物レンズでピントを合わせる機種ではキャップの付けようがないためでしょうし、普段は対物レンズを下に持ち歩くので必要性が少ないという考えからでしょうが、無いよりはあったほうが嬉しいものです。
中型双眼鏡では接眼・対物ともキャップが付くことが多いのですが、フィールドでなくしてしまう危険性も高くなります。
私のような慌て者には、対物キャップが本体につけられていたり、接眼キャップと対物キャップがいっしょになった製品がありがたく感じられます。
もし、双眼鏡のキャップをなくしてしまったら、お近くのカメラ屋さんで取り寄せてもらうことが出来ます。
以前、N社の接眼キャップを無くしたときは片側60円でした。
見口の形を考える
双眼鏡を覗き込むとき、目に当たる部分はゴムやプラスチックで出来ています。
「目当て」とか「見口」と言われている部品ですが、眼が直接触れるだけに双眼鏡の印象を大きく左右するところです。
一般的には、円柱状のゴムがつけられ、眼鏡着用時は折り曲げて使用します。
折り曲げるのはちょっと手間がかかりますし、長いこと使っているとゴムが切れてしまうのが欠点です。
このため、最近は高級機だけでなく 一般的な価格帯の商品まで下で述べるようなスライド式の見口が採用されるようになりました。
破損したら部品を発注すれば百円程度で入手可能です。
最近よく見かけるようになったのが、下の写真のようなスライド式の見口です。
眼鏡を使うときもワンタッチですから、他の人と共用するには便利です。
理想的には、裸眼で使用したときにも誤って引っ込んでしまわない構造になっているのが良いでしょう。
といいつつ、双眼鏡を見口で選ぶわけにはいかないのが残念です。
業務用の双眼鏡で、眼鏡での使用を切り捨てている製品では、写真のような角型の見口が使われていることがあります。
長いアイレリーフを持っていても、私のような人間には不自由ですから、普通の見口に変えて使っています、 裸眼の人間には最も使いやすい見口でしょうけど。