双眼鏡の性能(3)改訂版
双眼鏡の視野を考える
双眼鏡の性能を考える上で、視野の広さは非常に重要な要素です。
視野が狭い双眼鏡は対象を見つけ出すのが難しくなり、使い勝手が悪くなってしまいます。
動きの激しい鳥を追いかけるバーダーはもちろん、そんな用途でも広い視野は便利な物です。
視界は 非常に大切な数字ですが、カタログに出ている数字は幾つかの表現方法が混在しているため、一見すると分かりにくく感じられるかもしれません。
ここでは、双眼鏡の視野について、順を追ってみていきましょう。
視野の広さって何でしょう。
ここに2枚の写真があります。
ツァイス 7X42 ClassiC にて撮影 実視野 約8.6度 |
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鎌倉光機 7X50 BIF にて撮影 実視野 7.1度 |
どちらも同じ倍率の双眼鏡で見た視野の再現ですが、見えている範囲は 上の写真の方が視野が広く、下の写真の方が狭くなっています。
視野の広さが 双眼鏡の使いやすさに大きな影響を与えるのは、上の写真だけでも理解していただけるでしょう。
ちなみに、肉眼で同じ景色を見ると・・・
では、双眼鏡で見える範囲はどのように表現されているのでしょう。
写真の左にカタログの数字を挙げておきました。
「実視野」と「1000m視界」という数字が、実際に見える大きさを表しています。
「実視野」は双眼鏡を動かさなくても見える範囲を角度で表し、「1000m視界」は1Km先で実際に見える距離を表しています。
上の双眼鏡の実視野は8.6度、下の双眼鏡は7.1度 と たった1.5度の差ですが、1000m先での見える範囲には約30mもの差が生じてしまうのです。
国内のカタログでは、実視野と1000m視界の両方が記載されていることが多いのですが、海外の製品は1000m視界だけしか記載されていないことも多いです。(アメリカではヤード/フィート法になりますが・・・)
「見掛視界」って何でしょう
では、次の例として実視野が ほぼ同じ双眼鏡同士を較べてみましょう。
キャノン 10X30IS にて撮影 実視野 6度 |
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ペンタックス タンクロー8X24 にて撮影 実視野 6.2度 |
写真を見ても 写っている範囲はほとんど同じなのに、上の双眼鏡では広々とした印象を受けるのに対して、下の双眼鏡では狭苦しい感じがしてしまいます。
同じ広さの実視野が得られるのであれば、倍率の高い双眼鏡のほうが 覗いたときに感じる広さが大きいのです。
この広さのことを「見掛視界」と呼んでいます。
見掛視界は (実視野)X(倍率)で計算できます。
通常の双眼鏡は 見かけ視野が50度前後で設計されていることが多く、65度を超えるものは「広視界双眼鏡」とか「ワイド双眼鏡」と呼ばれます。
まあ、普通は 見掛視野60度程度で十分に広い感じがすることでしょう。
視野は広ければ広いほど偉いのか?
双眼鏡にとって視野は非常に大切な数字なのですが、ただただ数字が大きければいいというものではありません。
某社 10X50 双眼鏡にて撮影 実視野 5度 |
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某社 10X25 双眼鏡にて撮影 実視野 5度 |
カタログ上は、どちらも実視野5度の製品なのですが、同じ視野の広さとは思えません。
下の写真では、周辺視野に行くにしたがって 光量の低下が目立ち、周辺視野はほとんど使えない状態です。
このように、視野はただ数字が大きければいいのではなく、視野の辺縁まで最低限実用的なものでなければなりません。
上の写真は比較的まともな双眼鏡で撮影したものですが、視野の端に行くにしたがって歪曲が増し 光量が落ちていきます。
物理的に このような現象は避けがたいのですが、無理やり数字だけ広い視野をでっち上げられた双眼鏡は これの比ではありません。
多少、歪んだり暗かったりしても 無いよりはマシともいえるのですが、酷い製品では無いほうがマシということもあります。
国内のカメラ・ブランドでも「折Nパス」は視野の広さを非常に重視していると見受けられるのですが、実際は数字ばかりが大きくて 辺縁視野はちょっと首を傾げたくなるものです。
カタログの数字ばかりにとらわれず、しっかりと実物を見て 視野の品質を確かめて見ましょう。
視野の広さは何で決まるの?
ここまで、視野の広さの大切さを見てきたのですが、これからは視野の広さが何で決められるのか考えてみましょう。
天体望遠鏡を使われたことがある方にとっては常識なのですが、天体望遠鏡には実視野の大きさはかかれていません。
望遠鏡の見える範囲は、接眼鏡に見掛視野の大きさが書かれているだけです。
つまり、アイピースの焦点距離から倍率を求め、その後で(見掛視界)÷(倍率)から 実視界の広さが計算できるのです。
双眼鏡も、これと同じく、視野の大きさは接眼鏡の設計で決められ、メーカーで倍率と見掛視野から実視界を計算しています。
それでは、見掛視界の広い接眼鏡を使えば 無条件に広視界の双眼鏡が作れるのでしょうか。
天体望遠鏡では見掛視界 80度なんて代物があるようですが、双眼鏡では70度を少し超えるあたりが せいぜいです。
これは 双眼鏡が、天体望遠鏡と違って、正立像を得るために、各種のプリズムを用いていることと関係しています。
プリズムは、その大きさと材質によって、光を全反射させることが出来る角度に限界があります。
このため、対物レンズの焦点距離とプリズムの性能によって、実視野の大きさに限界が出てしまいます。
どんなに見掛け視野の大きな接眼鏡を使おうと、プリズムの限界を超えた範囲を見ることは出来ないことになります。
世の中に出回っている双眼鏡を見てみれば、コンパクトな双眼鏡ほど実視野が狭く、広視界を売り物にする双眼鏡の多くは中型以上の製品が多いことに気が付くでしょう。
8倍と10倍の倍率が用意されているような機種だと、8倍のほうが実視野6.3度・見掛視野50度の標準視野で、10倍のでは実視野6度・見掛け視野60度の準広角になっていることが よくあります。
8倍のほうでは1000m視界で110m、10倍のほうでは1000m視界 105mですから、8倍のほうはこれ以上視野を広げることが設計上 難しいのでしょう。
視野はどのくらい必要か?
最後に、実際には視野がどのくらい必要なのか考えて見ましょう。
上で述べたように、視野はその広さだけでなく、品質が命です。
いいかげんな見掛視界65度の双眼鏡より、しっかりとした標準視界双眼鏡のほうが役に立ちます。
いろいろな双眼鏡を覗きなれてくると、確かに、見掛視界60度くらいの双眼鏡が魅力的に見えてくるのですが、隅々まで平坦な視野を持つ標準視野双眼鏡も惚れ惚れとするものです。
私は「見掛視野50度で十分、60度以上は趣味の世界」と思っていますが・・・
次に、実視野のほうで考えると、空を飛び廻る鳥を追いかけるときには、それこそいくら視野があっても不足を感じます。
少ない経験ですが、実視野で6度あるとかなり楽になりますが、5度では少し時間がかかり見逃すことが多くなります。
上級者は 高倍率のスポッティングスコープでピタリと導入してしまうので、私とは違うのでしょうが。
星空の見るなら 多少視野が狭くても望遠鏡よりはましです。
我が家のニコン18X70の実視野4度でも、星団レベルの導入は全く苦労しません。
まあ、視野が狭い双眼鏡では 本当なら一緒の視野で楽しめる散開星団が泣き別れになってしまうかもしれませんが。