筆者は熱心に夜空を見上げるわけではないのですが、双眼鏡というと7X50が好きでこれまで4台の7X50を所有してきました。
昼間に何気なく使うには大きく重過ぎる感じはするのですが、使い慣れてしまうと40mmに戻れなくなります。
筆者の場合、双眼鏡も遊び道具のひとつですから「過剰な道具」感も魅力のひとつと考えています。
今も2台の7X50が手元にあり、これらについて比較したインプレッションを書こうと思っているのですが大きな問題に突き当たってしまいました。
それはこれまで所有してきた7X50がどれも一般的な方法で入手した製品ではないということなのです。
基準がないまま、それらだけを比較しても意味が少ないでしょう。
7X50は各社とも最高機種を揃える口径、それらの性能も試してみたく思っていました。
そんな双眼鏡を探していたら、ある雑誌広告に比較対象の基準になるであろう双眼鏡がバーゲン価格で放出されるのを見つけました。
仕事も休みであることを幸いと、東京のある専門店を訪ねたのですが。
それは天文ガイドのある広告から始まりました。
その筋では有名な天文用品店のものなのですが、その中に・・・
カートン アドラブリックMC 定価31000円 → 特価15900円 |
「アドラブリック」といえば中型ポロ双眼鏡の名機。
一度、同シリーズの8X42を短時間試したことがありますが、評判にたがわず魅力的な双眼鏡で軽量コンパクトな設計が気に入ってしまいました。
7X50も同口径機と比べ小型軽量ながら、高い性能を持つといわれています。
仕事も幸い休みですし、バーゲン会場に行ってしまいました。
中に入ってみると天体望遠鏡が林立し、ケースには中型〜大型の双眼鏡がズラリ。
ニコンSPシリーズやフジノンFMTシリーズが並んでいます。
さすが天文用品店、巷のカメラ屋さんは大違い。
その中にひときわ小型の「アドラブリック」の姿が。
プリズム筒が小さく手に馴染む姿。
対物・接眼の両レンズとも上品なマルチコート。
この品が「あの値段」なら信じられないほど安い!
でも、これって定価が52000円では。
広告が間違いかもしれないんで、早速安売りの品を出してもらいました。
箱を開けると革のケース。
私が手にした7X50の中でも上等な部類でしょう。
中をあけてみると・・・・・・・・・。
なんじゃ!
こりゃあああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっ!!!!
棚に並んでいたのとは似ても似付かぬ双眼鏡が中に入っています。
見た目は、ちょうどビクセン・アスコットシリーズにそっくり。
ディスカウントストアの安物双眼鏡そっくり(少なくとも外観は)。
間違いかもと思って見回してみると、確かに[アドラブリック MC]とはいっています。
(でも、ネームのロゴからして安物)
旧式は鏡筒全てに専用品を使っていたのに、新しいほうは汎用品を使っていそうです。
そのせいか、明らかに一回り大きくなり、重さもかなり増加。
何処で贅肉をつけたんだああああっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!
ここまでで、もう旧式「アドラブリック」の魅力は台無しです。
はっきり言って、もう買う気はなくなっていましたね。
ここで諦めては記事になりませんから、一応そのアドラブリックらしい双眼鏡をチェックしてみました。
まずレンズ、名前に「MC」って付くくらいですからマルチコートはされています。
対物レンズは普通のコートのようですが、接眼レンズはマルチコートながら品質感ゼロ。
安物双眼鏡のIRコートのように、緑色ながらギラギラと輝いています。
本当に透過率が良くなっているんですか。
定価が52000円から31000円になるくらいです。
あちこちの質感はがた落ち。
こんなものなら、15900円でも高すぎる。
更に、スペック表を見てびっくり。
最近、モデルチェンジしたばかりの双眼鏡なのに、実視野が6度しかないっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!。
見かけ視野に直せば約42度です。
最近はコンパクト双眼鏡でももっと見かけ視野の良いアイピースを使っていますよ、本当。
7X50なら実視野で最低7度は欲しいです。
旧式と比べて近場の景色を見ただけで、慣れた人なら違いが分かりますよ。
一部マニアの間で「旧型の周辺視野がよくない」と言われていたのは有名ですが、メーカーはそれを気にしたのでしょうか。
そりゃ、実視野を狭くすれば周辺視野の問題は解決しやすいでしょうけど、それは本末転倒。
旧型は小型だったので、周辺視野うんぬんを離れて支持されていたんですけど。
それに納得いかないのは、プリズム筒が大きくなって、アイレリーフが長くなった形跡がないのに、なんで視野が狭くなるんだっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!
接眼レンズを大幅にコストダウンしたんでしょうね。
当然、見えもよくなっていない。
というか、はっきり言って悪化している。
数字を知っていると、視野が狭まさが気になって不愉快です。
こんな双眼鏡ならニコン「クリモ7X50」のほうがいいです。
こっちは大ニコンの看板背負っているうえに、旧型カタログ落ちで叩き売りされているんですから。
はっきりいって、見えは「クリモ」より悪いと思います。
もちろん、ニコン「7X50 IF
トロピカル」やフジノン「7X50 MT-SX」の足元にも及びません。
軽さ・小ささでいってもビクセン「アルティマ」の方が断然有利です。
パフォーマンスもこちらなのではないかと思います。
結局、モデルチェンジして何の魅力もない双眼鏡が出来上がったようです。
メーカーは何を考えてこんな双眼鏡を作ったのでしょう。
そんなに、52000円の双眼鏡を31000円にしたかったのですか。
確かに52000円は高価ですし、ニコン「7X50
IF トロピカル」やフジノン「7X50 MT-SX」に匹敵する価格であったのは気になるでしょう。
それでも、旧型「アドラブリック」にはそれ以上の魅力が合ったと思うんですけど。
52000円から31000円になったとしても、「7X50」なんて双眼鏡を一般人がポンポン買うとは思えないのですが。
仮に賢明にも7X50の双眼鏡を買おうと思い立ったとして、「アドラブリック」と言うブランドを知っているのでしょうか。
逆に、「アドラブリック」の名を知っているような人は、性能の落差と定価2万円の差をどう思うのでしょうか。
なぜ、ニコンやフジノンの大柄な7X50を選ばず「アドラブリック」を選ぶのか、メーカーはどう考えたのでしょう。
一部では定番とまでいわれていた「アドラブリック」。
その名声はこの新型で遠い過去のものとなるでしょう。
その名をここまで貶めた理由がコストダウンだけなら これほど悲しいことはありません。
結論
これから「アドラブリック」を買おうと思っている人は、よく実機を確かめてからにすることをお勧めします。
こんな双眼鏡に2万円払うくらいなら、もっとマシな選択肢がゴマンとあります。
双眼鏡の現状を嘆く
名門双眼鏡をこんなことにしてしまったメーカーにも主張はあるでしょう。
双眼鏡は売れる商品ではありませんから、1台あたりの利益をしっかり確保したいでしょう。
ディスカウントの安物双眼鏡に対する価格競争力も持たせたかったのかもしれません。
「アドラブリック」の名に過信があったのでしょうか。
安物として売っていくよりも、ニコン・ペンタと真っ向から対抗して「小型高級」双眼鏡として生きていく道もあったと思うのですが。
個人的には 「アドラブリック」の名にそれだけの価値があったと思います。
逆に、それが出来なかったのは中小の双眼鏡メーカーの現状の厳しさを物語っているのでしょうが。