remove
powerd by nog twitter

その真に日本的なモノ
2001年5月20日
ツァイスやライカに作れない 日本的な双眼鏡?

 カラッと晴れた日曜日 近くの電気屋街でフラフラと時間を潰していました。
 予定では お星様を見に出かけいるはずだったのに、急な仕事を押し付けられて居残りになってしまったのです。
 久しぶりの家族サービスにはもってこいなのですが、子供が寝てしまうと何もやることがない・・・
 生産的な時間の使い方でないのですが、フラフラと双眼鏡売り場に向かってしまうのが悲しい性です。

 そんな売り場で目にとまったのが・・・

 あまり有名な双眼鏡ではないので、御存知のない方も多いでしょう。

 キャノン5X17FCという双眼鏡です。
 「IXYシリーズ」の双眼鏡版という位置付けだった製品なのに、なぜか有名になれなかったようです。

 マイナー製品の悲しさか、処分品棚で ケンコーの双眼鏡にまぎれて売られています。
 値段はというと・・・
 キャノンの方が読むと悲しくなってしまうようなデフレ価格。
 カタログ落ちタンクローの処分価格より安いと言えば 大体のところは分かっていただけるでしょうか。 

 これはもう値段だけで衝動買いです。
 コレまで20mm以下の双眼鏡を試した事がないので 「HPのネタになりそう」という不純な動機です。
 この位なら 使い物にならずに死蔵しても 懐はあまり痛みません。

筆者の女々しい(差別表現?)泣き言

このホームページは 双眼鏡を買っては試して記事を書くというサイクルで動いています。
個人が好き勝手を書いているサイトですから、試用機なんかを借りられる訳もありません。

記事にしたい双眼鏡が本当に役に立つ双眼鏡とは限らないのが悲しいところです。
興味のある双眼鏡を買って記事を書くのですが、気に入ってそのまま所有しているのはごく僅かです。
大半は分解されたり  オークションで処分されたりしています。
オークションに出して どんなに値がついても ほぼ99% 大赤字になってしまう宿命です。

前回、ミノルタの双眼鏡を取り上げたことがありました。
直にオークションで流したのですが、一か月分の缶ビール代に相当する大赤字が出てしまっているのです。(筆者半泣き)

 実は これまで20台を超える双眼鏡を入手してきましたが、この類いのフラットタイプは初めてです。
 店頭や借り物で試用したことは一度や二度ではないのですが、食指が動いたことは一度もありません。

 フラビーノやUCIIIは単体で見ると素晴らしい双眼鏡だと思うのですが、その形ゆえに幾つかの弱点が存在します。
 まず、上下を切られた視野は コンサートや演劇専用ならともかく、アウトドア用としては非常に不便です。(メーカーとしてはそんな使い道のことは考えちゃいないんだろうけどさ)

 見口の形状や持ち易さなど、使い手と双眼鏡の関係でも 快適とはいえません。
 細かいことなんですが アイレリーフが短い物ばかりなのも 大きな障害です。(私だけ?)

 薄型にこだわらず 20mmダハ双眼鏡なら定評のある製品が星の数ほど(?)存在します。
 お洒落を必要とする機会がない粗野な人間には あえて大きさにこだわったフラットタイプを選ぶ理由がなかったのです。


 が・・・・

 買ってきてみると、このキャノン5X17FCは実に良く出来ています。
 キャノンの担当者には悪いのですが「大きく期待を裏切られて」しまいました。

 この双眼鏡の最大の美点は 非常に軽くて お洒落な外装なのに「普通の双眼鏡」としての要求をほぼ満たしている点です。

 正円の視野を得るために他社のフラットタイプ双眼鏡より1.5倍近く厚くなっていますが、これはむしろ英断というべきでしょう。
 美術館や劇場は対象が横方向に広がっていますから横長の視野でも不自由は少ないでしょうが、野外観察では縦方向の視野は非常に重要です。

 端的な例は360度に広がる星空でしょうか。
 他にも、小枝を飛び回る鳥たちや 展望台の景色を眺める時のことを思い浮かべてみてください。
 人間の視野は確かに横長なのですが、横長視界の双眼鏡は決して便利ではないのです。

 このキャノン双眼鏡は小ささの利点を失う代わりに(それでも十分に小さいが)、普通の双眼鏡としての機能を手に入れたのです。
 大きさに依存する欠点、視度調整が省略されていたり眼幅調整幅が狭いといった点は 多少使い手を選びますが「フラット双眼鏡」という枠を越えて、小型双眼鏡の超軽量機として十分に評価しうるでしょう。

 実際に使ってみると 見かけ視野45度なのですが、昼間使う分には隅まで実用的な像質を保ち 狭さを感じさせません。
 星空でチェックしても、十分にフラット。
 あら捜しをすれば 辺縁1/4から緩やかに星像が伸び 最外周では少し複雑な形になっていますが、多分普通に使っていれば気が付かないはず。
 この双眼鏡を星空観察に使う人は多くないと思うのですが、結構役に立ちます(!)。
 明るい星を見れば 確かに位相差こティングされていないダハプリズム双眼鏡の癖を指摘することも可能でしょうが、それ以外ではフレアもゴーストもよく抑えられています。

 像は暖色系だが コントラストはしっかり出ているキャノンらしい味付けです。
 10X30ISや8X32WPとほぼ同じ性格で、好みはともかく 質の良さを感じさせます。
 最短合焦距離が1.4mというのも 実体験してみると病み付きになってしまいます。

 これほどの軽さとサイズ、好き嫌いはありそうですが立派なデザイン、ブランドバリューも文句なし。
 覗いてみても 非常に優秀ときています。
 通常の売価でも そこいらヘンの小型双眼鏡より安価ですし、最短合焦距離でも圧倒的に有利です。

 「この双眼鏡と比べると大半の小型双眼鏡は存在意義を失ってしまう」と書いても全く大げさではありません。

 少なくとも 20mmコンパクトポロ双眼鏡の大半は価格以外の利点を失ってしまうでしょうし、20mmダハも持ち運び重視の方なら勝負にならないと思われます。
 対物10mmクラスの最高峰たるニコンの5X15DCFにはかないませんが、価格差4倍を考えれば キャノン5X17FCを絶賛しても罰はあたらないでしょう。

 それにしても、何でこんなに優れた双眼鏡が「処分品」扱いをされてしまうのでしょうか?
 「売れないから」と言われればグウの音も出ないのですが、価値を理解されずに消えるのは余りにも勿体無い。
 中途半端な20mmダハを駆逐する力があるだけに、キャノンのWEBから既に削除されている現状は悲しくなってしまいます。

 楽天的に考えれば、これほどの双眼鏡が8000円足らず(!)で手に入る 二度とないチャンスと言えなくもありません。
 小型で手軽な双眼鏡の購入を考えられている方は(視度調整が必要ないなら) 是非この双眼鏡を手にしてみてください。

それにしても見る目の無かったのは どちらでしょう。
ユーザーなのでしょうか、それともキャノンの方なのでしょうか。

 個人的には、キャノンは双眼鏡では国産に限らず一番好感が持てるメーカーです。
 本当に良い双眼鏡を作って(あるいは設計して)いるのに、何でこんなことになってしまうのでしょう。

 ISシリーズはどれも素晴らしいんですが、一番出来の良い10X30ISは安売り品扱い。
 FCシリーズは国産10mmでベストの内容なのに、理解されること無くカタログ落ち。
 8x32WPもよく出来た双眼鏡なのに、詰めが甘くて店晒し。

 上に挙げたような製品は どれもキャノン以外のメーカーでは作りそうになり製品ばかり(出来ないから?売れないから?)なのですから、これからもニコンやツァイスに作れない双眼鏡を出していって欲しいと願わずにはいられません。


TOPへ   日記帳入り口へ   HOMEへ