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尖閣諸島の領有権問題

中国・尖閣諸島問題レポート

  1998年6月18日
6班:田中、中谷、三田恵/青鹿、及川、尾崎,田川/加藤 
中国・尖閣諸島問題レポート
担当: 3年 田中康志

<事実の概要>
尖閣諸島(中国名:釣魚島)は東シナ海上に位置する無人島群であり、日中両国がその領有権を巡り対立している。
尖閣諸島は、1968年に国連アジア極東経済委員会が諸島付近大陸棚に石油埋蔵の可能性があることを発表して
以来、その帰属が争われるようになった。日本は同諸島の領有の根拠として「無主地の先占」を、中国(台湾)は歴史
文書をあげている。またこの地域の石油開発の権利について、両国間の大陸棚の境界確定にも対立が見られ、交
渉は難航している。1996年に日本の政治団体が灯台を建設したことをきっかけに、中国・台湾では日本批判が高
まり、近年この領土問題が再燃している。

<問題点>
1. 両国が領有を主張する根拠は正当なものであるか。両者の主張を検討し、過去に島の領有権が争われた事例
を通して考察する。
2. 尖閣諸島付近の大陸棚の資源に対する主権的権利の帰属はどちらにあるのか。大陸棚の範囲と境界確定につ
いて、条約や他の判例を通して検討する。

<考察>
問題点1について
日本政府は1885年頃から尖閣諸島周辺の現地調査を行い、これが無人島であること、また清国政府が同諸島に
対して関心のないことを確認した上で、1895年の閣議決定により日本領土に編入した。これは「無主地の先占」に
該当するとして日本政府の領有主張の根拠となっている。1885年の下関条約で日本が割譲を受ける台湾・澎湖諸
島の範囲について、清国は日本が領有を表明していた尖閣諸島には言及しておらず、この範囲に含まれないと考え
られる。よって1951年のサンフランシスコ講和条約2条b項(台湾・澎湖諸島に対するすべての権利・権限を放棄す
る)で権利を放棄した地域には含まれない。また1953年にアメリカ政府の発表した「琉球列島の地理的境界」では、
緯度・経度を示して尖閣諸島が琉球の一部であるとして、台湾の付属諸島には含まれないことを明記しているが、中
国側の異議はなく、よって1971年の沖縄返還協定で尖閣諸島は琉球の一部として日本に返還されたことになる。
では、日本の先占行為は要件を満たしているのか。無主地に対する領有権限の原始取得の要件としては、領有意
志と、その意志を立証するための実効的支配の2つがある。領有意志の存在は明確であるが、問題となるのは実効
的支配であり、尖閣列島は無人島であるために、住民に対する行政・法秩序の維持などでは判断することはできな
い。沖合い遠方にある無人島の帰属を争った例(メキシコ・フランス仲裁裁判1931年)としてはクリッパートン島事件
があるが、主権の布告などの行為は実効的先占の条件を満たすとし、領有宣言・監視などの国家行為は有効な領
有権限となるとされている。日本政府は様々な機会にその領有意思を表明しており、また中国は異議を唱えることも
なく、日本の先占行為は正当と言える。
一方中国・台湾政府は領有の根拠として、歴史的文書をあげている。16世紀頃の冊封使録であるとみられる『順風
相送』は、釣魚島を記録した最古の文書として、同島が中国人によって発見・命名されたと主張する。またその発
見・命名の事実に対する中国政府の領有意志の確認として西太后が下賜したとする文書をあげ、この行為をもって
実効的支配とみなしている。
しかし、尖閣諸島を記載した最古の文書があることは、中国人による発見・命名を証明するものではなく、領有意思
を表明するものでもない。また西太后によるお墨付を領有意志の確認、さらには統治行為として実効的支配の証拠
しているが、無人島に対してどのような行為があったのか明らかではない。国際法は、発見・領有意思の表現から、
合理的期間内に実効的支配を行うことを求めているが、『順風相送』書から西太后の下賜まで約500年が経過して
おり、これは合理的期間とは考えられない。さらに、マンキエ・エクルオ諸島事件(イギリス・フランスICJ1953年)判
決では、間接的な推定を引き出す証拠よりも、占有に直接関係する証拠が決定的重要性を持つとされ、この観点か
らみても中国の主張は正当なものではないと言える。
このように、尖閣諸島の領有権が日本に帰属することは明らかである。日中友好平和条約でこの問題は棚上げされ
ており、次で検討する大陸棚の資源問題など多くが未解決のまま残っている。

問題点2について
国連海洋法条約は76条1項で大陸棚の定義を、沿岸国の領海を超えてその領土の自然の延長をたどって大陸辺
縁部の外縁までの、または大陸辺縁部の外縁が基線から200海里まで伸びていない場合は基線から200海里ま
での、海面下区域の海底及びその下のこと、としている。大陸棚に対して沿岸国は、その探査と天然資源開発のた
めの主権的権利を行使できる(同77条)。それは沿岸国の固有の権利であり、実効的または名目上の先占・明示
の先占に関わりなく与えられる(同77条3項)。向かい合った国の間で同一の大陸棚が帰属して重複する部分があ
る場合は、その資源の権利をめぐる経済問題とも絡んで、境界確定が争われることになる。
中国・台湾は尖閣列島の領有を前提として、尖閣付近の大陸棚は中国沿岸領土の自然延長であるとの立場に立っ
て、海底の石油に対する権利を主張する。また中国は1992年に領海法を制定し、同列島は中国領土であるとし
た。一方で日本は、尖閣列島は日本領土であり、尖閣を基線として200海里の水域を設定しており、その付近の主
権的権利も日本に帰属するとしている。
境界確定については議論の多いところである。大陸棚条約によれば、大陸棚の境界確定は関係国の合意で決定
し、合意のない場合には領海の基線上の最も近い点から等距離にある中間線を決定する、等距離基準により定める
としている。しかし、ICJはその一般的な妥当性を否定する判決を出し(1969年北海大陸棚事件)、衡平原則に従
い、かつ一切の関連事情を考慮し、合意によって決定するべきだとして、それ以降、チュニジア・リビア大陸棚事件や
リビア・マルタ大陸棚事件などでも採用された。国連海洋法条約83条では、この衡平原則は明記されなかったもの
の、境界確定に対する特別の基準を定めず、合意という国家実行を通して今後の国際法による基準の確認や発展
の余地を残している。ただ合意の目標として「衡平な解決」の達成が書かれていることから、各国の国内法による一
方的な確定を排除して、衡平原則に有利な推定が与えられていると言える。では日中における対立はどう解決すれ
ば良いのか。
ICJは大陸棚の境界確定について、自然延長論は衡平原則を実現するための補助的な一因に過ぎず、決定的なも
のではない、という立場を明らかにしている。またチュニジア・リビア大陸棚事件では、地理的に大陸棚の自然延長
が認められる場合、確定に影響を与える場合もあるが、その他の諸要因を含めて、単独でそのまま衡平な境界確定
になるとするのは誤りと判断する。よって、中国が主張する自然延長論は、地理的に見れば沖縄トラフまで連続した
大陸棚であるとも言えるが、その一方的な決定は妥当ではなく、領海法の制定も海洋法条約83条で国内法による
一方的決定を排除することへの期待に反する。また尖閣列島が中国領土であるために、当然その周辺大陸棚も中
国に帰属するという主張が不当であることは、考察1からも明らかである。一方で、日本の主張する等距離原則は、
領海では原則化されているものの、大陸棚については慣習法原則性が否定されている。しかし、実際には境界確定
に等距離原則が用いられることは多く、リビア・マルタ大陸棚事件では距岸200海里以内の2国間の確定につい
て、自然延長論は権限の決定には関連性がなく、暫定的な中間線をひいた上で、無人島の存在や海岸線の長さな
どの衡平な事情によって調整するとされた。よって、この事例でも中間線をもとに両国の主張する事情を考慮して決
定されるのが妥当と考えられる。ただし、尖閣列島が日本領土であることは明らかであるため、同列島を基線とする
ことは正当であり、その上で調整を進めることになる。

日韓における竹島問題と同様、領土問題と過去の歴史認識などとも絡んで、尖閣列島問題の解決は困難になって
いるのが現状である。交渉が不調に終わるならば、ICJに解決を求めることや、共同開発の方式を定めることも考え
られる。いずれにせよ、客観的で平和的な解決が望まれるところである。

<参考文献>
平松茂雄「中国の海洋戦略」「続・中国の海洋戦略」勁草書房
鈴木祐二「尖閣諸島領有権問題の発生」海外事情44
奥原敏雄「尖閣列島領有権の根拠」中央公論93−7
奥原敏雄「尖閣列島の歴史的編入経緯」国士館大学政学会誌4
外務省「尖閣諸島の領有権についての基本見解」外務省ホームページ(外交政策) 
水上千之「日本と海洋法」有心堂
青木隆「海域の確定と国連海洋法条約」海洋時報78
尾崎重義「大陸棚境界確定の法理 (上・中・下)」レファレンス281・283・284
中村洸「国連海洋法条約と海洋基本法」ジュリスト1096
波多野里望・筒井若水「国際判例研究‐領土・国境紛争」東京大学出版会


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