-------------- One day +One -------------- キーンコーンカーンコーン 「梢ちゃん、一緒に帰るです〜」 「はい♪」 梢さんと球実さん、学校が終わったようです。 今日も二人は仲良しですね。 「今日の夕ご飯は何にしようかなー。 球実ちゃんは何か食べたいものとかある?」 「梢ちゃんが作るならなんでも良いです〜」 二人が廊下を歩いていると、 「お待ちナさイ球実部員」 怪しい人が声をかけてきました。 「あ゛〜…なんですか部長〜。 せっかく梢ちゃんと二人で帰ろうとしていたのに〜」 怪しい人は部長さんでした。 「今日は一年ぶリに、降霊会ヲ行う日デスよ?」 「そんなの知ったこっちゃないです〜」 「去年は誤っテおかシナ犬の霊ヲ呼んでシまイまシたガ、 今年ハ成功させマスよ」 「勝手にやってろ陰険、です〜」 「ハァぁぅ…ッ!」 “陰険”という言葉に反応して、部長さんは悶え始めました。 「イイ…!やっぱリ球実部員ノ雑言は格別にイイでスよッ…!!」 今日も部長さんは気持ち悪いですね。 「さあ梢ちゃん、今のうちに帰るです〜」 「え?でも…」 「いいからいいから〜」 「おヤおヤドコへイクのデス?」 復活した部長さんは球実さんにのしかかります。 「…しつこいですね〜邪魔するならぶっ飛ばしますよ部長〜?」 「マた私と戦っテ、勝てイる思ッてイルのデスか?」 「あまり調子に乗らないほうがいいです〜」 二人の周りに重い空気が漂い出しました。 梢さんは困っています。 「アスモデ!疾風…」 「このオカルトゾンビ〜!!根暗〜!!マゾヒスト〜!!」 技を繰り出そうとした部長さんに、容赦のない雑言。 「あハふゥン!!」 部長さんはものすごく悶えてしまいました。 「今です!ガルノフ、昇竜烈破斬!!」 悶え、がら空きになった部長さんのボディに、球実さんの攻撃がもろに入りました。 …もちろん、二人以外には見えていません。 「ぅゥウ…卑怯デスよ、球実部員…」 「秘境も都会もないです〜」 いつもなら正々堂々と戦う球実さんですが、梢さんのこととなると話は違います。 「さあ今度こそ、梢ちゃん帰るです〜」 しかし、あろうことか梢さんは 「あの…私でよければ手伝いましょうか?」 と、倒れている部長さんに向かって言いました。 「こっ梢ちゃん〜!」 「…イいエ、それ二は及びマセんよ、梢部員」 立ち上がりながら話す部長さん。 「不意打ちヲ食らッタとハいえ、私の負けデシタ… 降霊会は諦めマショウ…」 まだ微かに震えている部長さん。 その潔さといい、不気味です。 「でスかラ、今日ハ球実部員と梢部員のオ家に、 遊ビにイクことにシまシタ」 ニヤリ、と部長さん。 「何やらオモシロイことがアるヨうナ気がスルのデス」 「え〜!」 「はい、どうぞいらっしゃってください♪」正反対な二つの意見。 「とイう訳デ、帰りマショウ」 「マ゛〜…。梢ちゃんと私の、二人きりの、至福の時間が〜…」 いつもの帰り道。 しかし、一つ違うことがあります。 不審人物を加えた、三人で歩いていることです。 「もしかして部長って寂しがり屋ですか〜?」 「さ、寂しがり屋!?ソレは私へノ悪言デスか?(ゾクゾク)」 「違うですよぅ〜!」 時折特定の言葉に反応して悶え出す、黒マント。 どこから見ても“不審人物”です。危険ですね。 「どうしました部長〜?」 「先程カら誰かニ罵ラれていル気がスるのデス…(ゾクゾク)」 二人と不審人物が歩いていると、阿甘堂の前まで来ました。 何やら騒がしいですね。 見ると二人の女の人が一人の男の人に必死に何かを頼んでいます。 「買っていってー」 「買っていってヨ〜」 「ええと…じゃあ、買っていこうかな…」 「ありがとう!」 「ありがとうヨ〜!」 二人の女の人に非常に感謝されています。 「あれは白鳥さんですね〜」 見ると確かに白鳥くんでした。 「白鳥さーん」 梢さんが白鳥くんのところへ行きます。 「こんにちは、白鳥さん♪今お帰りですか?」 「あっ梢ちゃん。ちょうど良かった。はい、これ」 白鳥くんは袋を渡します。 「みんなの分まであると思うから」 中にはお団子などの和菓子がたくさん入っていました。 「ありがとうございます、白鳥さん!帰ったら皆さんとお茶にしましょう」 「うん!」 「ホほウ、確かニタマなしサンと梢部員ハ仲睦まジイカップルデスね」 そんな二人の様子を眺める部長さん。 「です〜見てるこっちが妬けてくるです〜」 「マあまア、そンな時はヤッぱりコノ『ザ☆悪魔…』」 「あのー」 「ちょっといいかヨ〜?」 変な本を取り出そうとした部長さんでしたが、 二人の女の人に止められてしまいました。 「和菓子買っていって〜」 「ヨ〜」 二人とも必死です。 「何故アナタがたハそンなに必死ナのデスか?」 部長さんが聞きます。 「じ、実は…」 「阿甘堂の向かいに新しく洋菓子屋さんができたヨ〜。 それでお客さんとられてるヨ〜…」 「全然こないの…このままじゃ、私たちの阿甘堂がつぶれちゃうかも…」 「また路頭に迷うヨ〜…」 「ヨ〜ちゃん!」 「旭お姉さん〜!」 腕を取り合い、見つめ合う二人。 目には涙を浮かべています。 「仕方なイデスね。私ガなんトかシまショウ」 「本当に?」 「買っていってくれるのかヨ〜?」 「イえいエ、モッと簡単なことデス。 珠実部員、少シ手伝ッテくだサイ」 「めんどくさいですね〜」 珠実さんはぼやきながら部長さんと並びます。 そして突然、 「珠さ〜んチェ〜ック!!大!ドンデン返し!!」 部長さんと珠実さんは、変な呪文を唱えだしました。 「興シ、繁栄、栄え、集マれ!」 部長さんの掌に紋章が輝いている…ような気がします。 「はァっッ!!」 部長さんの掌から発射された光が阿甘堂に降り注いだ… 気がしました。 「……?どうなったの?」 「…何も変わらないヨ〜?」 部長さん達の怪しげな行動を眺め、呆然としていた二人。 その怪しげな行動と裏腹に、阿甘堂には何も起きません。 「決まりましたね〜部長ビーム〜」 「珠実部員、変な名前ヲつケないでクダさイ。 しカし、コレでイイのデスよ。今ニ変化がアるでショウ」 部長さんがその言葉を言い終えた時でした。 ドドドドド… 低い地響き。 「な、何?」 「何だヨ〜?」 その答えはすぐにわかりました。 人。 遠くから、近くから、やってくる人、人、人。 人の波でした。 ド ド ド ド ド … それらは全て、阿甘堂に集まってきます。 「ひぃぃ!?」 「ヨ〜!?」 あっという間に人の波に呑まれてしまうみなさん。 「待って〜!ちゃんと並んでくださーい!!」 「押さないでヨ〜!!」 「わっ!なんだこの人たちは!?…梢ちゃん、こっちだ!!」 「クッ…。効キ目が強スぎタようデスね…」 「笑い事じゃないです〜!どうするんですか〜!?」 「ドウにモなりマせンね」 …なんとか抜け出せた部長さんと球実さん。 「まったく〜、とんでもない目に会ったです〜」 「クッ」 「あれ?梢ちゃんと白鳥さんがいないです〜」 まだ人波の中にいるのでしょうか? 「珠実部員、アレではナイのデスか?」 部長さんが指したのは、人波から離れたところ。 そこには、梢さんと白鳥くんらしき人が。 「あ、本当ですね〜。…し〜らと〜りさ〜ん、恋人同士とはいえ、 誰も見てないと思って白昼堂々、梢ちゃんとナニをする気ですか〜?」 ニコニコしながら二人に近づく珠実さん。 恐いです。 「あ、珠実ちゃん…どうしよう…」 「どうしたのー?お兄ちゃん?」 「…おや〜?魚子ちゃんですか〜?」 「うん!わたし魚子ー!!」 どうやら梢さんは、魚子ちゃんになってしまったようです。 「あの人波に驚いて、変わっちゃったみたいなんだ…」 「そうですね〜…。町中ですから、少し困りましたね〜」 「お兄ちゃん、あそぼー☆」 白鳥くんにじゃれつく魚子ちゃん。 「…そうだ!魚子ちゃん」 「なあにー??」 「お家に帰って、みんなでお団子食べるんじゃなかった?」 「おー!魚子、お団子大好きー!!帰るー!」 手に持っていた、お団子その他和菓子入りの袋をブンブン振り回す魚子ちゃん。 みんなで鳴滝荘へ帰ります。 鳴滝荘へ向かいながら、部長さんは珠実さんに尋ねます。 「珠実部員、アれハ梢部員デはナイのデスか?」 「あ〜…部長は梢ちゃんのことを知りませんでしたね〜…。 こうなった以上、もう隠し切れませんから、 部長にも話すしかないですね〜…」 珠実さんは梢さんの病気のことを話します。 梢さんは、五つの人格を持っていること。 精神的ショックを与えられると人格が変わってしまうこと。 人格同士で記憶をある程度共有していること。 そして、今の状態が“金沢魚子 6才”であること…。 「…なルほド、そウだッタのデスか。梢部員が多重人格者デシたとハ…」 「梢ちゃんが面倒なことに巻き込まれないようにと、 今まで隠してきたんです〜」 「マあ、五つモ顔ガあル人間だナンて、ソうソうイませンかラ、 クレバーな判断だト思いマスよ。私モなんダカ興味ガ湧イてきマシタ…」 「マ゛〜!だから部長に教えるのは避けてきたんですよ〜!」 そんなことをやっている間に、鳴滝荘に到着しました。 「ただいまー」 「ただいまーっ☆」 「ただいまです〜」 「オ邪魔しマスよ」 鳴滝荘に三人が帰ってきて、変質者が一人やってきました。 「みんなはどうしてるのかな?」 白鳥くんの疑問に、 「はい。桃乃さんはお部屋で蓄まった映画を消化するとかで、 沙夜子さんと朝美ちゃんはお部屋で内職、 灰原さんはいつも通り、中庭で釣りをしていると思います」 などと答えてくれる梢さんはいなく、代わりに 「桃ちゃぁぁあん!!」 すごい勢いで走っていく、魚子ちゃんがいました。 「ちょっ、魚子ちゃん、待ってよー!!」 慌てて白鳥くんも追いかけます。 「私たちも追いかけますよ、部長〜」 珠実さんと部長さんも、二人の後を追いかけます。 「ククッ。ヤはリ楽しイコトにナりそウデスね…」 桃乃さんの部屋。 「ガオー」 「うわー」 「うわー」 「悪者めーとうー」 「マイッター」 「だいすき」 「ははは」 「すき」 「ははは」 「にゃははははは!!せ、台詞全部棒読み〜!!怪物の中の人丸見え〜!! どこがスペクタルサスペンス!どこがサイバーパンクホラー!!」 桃乃さんが、床をバンバン叩きながら笑っています。 これは、いつかの文化祭の時に買ったビデオですね…。 「は〜笑ったわ〜。さーて、次は何を見ようかしら〜」 積んであるビデオに手をかけようとしたとき。 「桃ちゃぁぁあん!!」 不吉な叫び声が聞こえてきました。 そしてそれは、 「桃ちゃあん!!」 勢いよく部屋の扉を開き、突進してきました。 「に゛ゃっ!?な、魚子ちゃん?」 「うん!わたし魚子ー☆桃ちゃん、お団子食べよー!!」 「お、お団子…?」 「ハア、ハア、すいません、桃乃さん…」 やっと来た白鳥くん。 「体力ないですね〜白鳥さん〜」 その後ろに珠実さん。 「あ、白鳥くんに珠ちゃん、お団子ってどういうこと?」 「実は、帰りに和菓子をたくさん買ってきたんです。 よかったらみんなで食べませんか?」 「あたしはいいけど…」 「じゃあ、いま沙夜子さんと朝美ちゃん、灰原さんも呼んできますから、 その間魚子ちゃんを頼めますか?」 「よっしゃ!そういうことなら任せなさい! アレをやるわよ〜珠ちゃん!!」 「はいです〜!」 そして二人が取り出したのは、 「グレートネコロンダー見参!!」 「さっきどさくさに紛れて部長から奪還した、ドワルガ〜!」 「おー!」 目を真ん丸くする魚子ちゃん。 「な、なんだかえらい懐かしいものを出しましたね、二人とも…。 それじゃあ、僕は沙夜子さんと朝美ちゃんのところに行ってきますから…」 「グレートネコロンダー、ブーストパ〜ンチ!!」 「なにを〜!ドワルガ〜、アイアンクロ〜!!」 拳を交える奇妙なニ体。 そして一度離れ、距離をとります。 「くっ、グレートネコロンダーの属性は光!」 「対してドワルガーの属性は闇です〜」 「つまり、互いに反対属性!」 「一撃でも食らったら大ダメージです〜」 「勝負は…」 「一瞬で決まります〜…」 睨み合うニ体。 「あははは!!おもしろ〜い!魚子もやる〜!!」 そう言うと、魚子ちゃんは庭の方へ走っていってしまいました。 ダンボールが積まれた、部屋の中。 朝美ちゃんと沙夜子さんがいます。 「ごめんなさい!お母さんの木、一本無駄にしちゃった…」 「…いいのよ、朝美…」 「ソうデスよ豆サン。木ヲ無駄にシテも気にシなイ…デス。 私モこノ通り失敗しテしまいマしたガ、木に、オっと、気にシていマせんヨ。クッ」 そしてもう一人、なぜか部長さんがいました。 部長さんは失敗した木を朝美ちゃんに見せます。 「あははは…。でもやっぱり私は、いつも通り、お花を造るよ。お母さんは作品、がんばってね!」 「私モ手伝いマスよ、豆サン」 朝美ちゃんと部長さんは、失敗した木を片付け造花造りに戻ります。 沙夜子さんは新しく木を取出し、 「……」 掘り始めます。 そこへ、 コンコン ドアがノックされます。 「朝美ちゃん?」 「あっお兄ちゃん!どうぞー」 「仕事中ごめんね…って、沙夜子さんは何を造っているのかな…?」 沙夜子さんは木を掘って、不思議な生物を造っています。 「お母さんは彫刻を掘ってるんだよ!」 「彫刻…?前まで庭にあったオブジェのようなもののこと?」 「そう!実はお母さんが作ったあの彫刻を、まひるちゃんが気に入って持っていったんだ。 それを見た丑三おじいさんが、お母さんに 『これは売れるぞ。もっと作ってみろ』 って言ったの!」 「それで、沙夜子さんは彫刻を掘ってるんだ…」 ホリホリホリ…。 彫刻を掘る沙夜子さんは、いつにも増して静かです。 「…で、なんで部長さんはここにいるんですか…?」 「アァっッ!!放置プレイかト思ッテまシタのにッ!!」 朝美ちゃんと一緒に造花を造っている怪しい人を、 いい加減無視できなくなった白鳥くん。 「私ハ、豆サンと『お花』ヲ造りながラ『お話』しテいタのデスよ。ねエ、豆サン」 「あははは!うん!お姉ちゃん、とっても面白いんだもん!!」 「そうですか…ははは…」 力なく笑う白鳥くん。 「それで、お母さんと私に用事ってなに?」 「あ、実は帰りに、お団子とか和菓子をたくさん買ってきたんだ。 よかったらみんなで食べない? …部長さんも、どうですか?」 「うん!私はいいよ。お母さんと、お姉ちゃんは?」 「…水ようかん…」 「水ようかんもちゃんと買ってありますよ」 「…水ようかん…!」 沙夜子さんはうれしそうです。 「私も、水ヨうカンは嫌イではアりマせンよ」 部長さんもまんざらではないようです。 「それじゃあ、もう少し進めてから行くね!」 「うん。待ってるよ」 「…水ようかん…」 白鳥くんが行こうとしたとき、 「あア、ソうデシタ。オ待ちナさイ、タマなしサン」 部長さんに呼び止められてしまいました。 「な、なんですか…?」 「実は、デドリーに入れておいたドワルガーがないのデス。 知りませんか、タマなしサン?」 「ドワルガー?…ああ、あの人形ですか。 それなら珠実ちゃんが持ってましたよ」 「おヤ、マたしてモ珠実部員デシたカ…。 彼女ハ、少々痛い目ニ遇わナいとわからなイのデシょウか…? アァぁ、痛い目!!遇いタいデスねッ…!!」 「は、はぁ…」 「ソれデは、私はドワルガーを取り返スために、先に行ッてマスよ豆サンたチ。…アァッ!先にイきタいッ!!」 両手で顔を押さえながら部長さんは走り去ってイきました。 朝美ちゃんも、さすがに今のはわからなかったでしょう。 「…そ、それじゃあ待ってるね」 「…う、うん!」 「さて、次は灰原さんだな…」 白鳥くんは中庭へ向かいながら、ふと考えます。 「…部長さんのあのぬいぐるみ、どれだけ物が入るんだろう…?」 …それは考えてはいけないことのような気がしました。 中庭の池に来ました。 いつものように釣りをしている、灰原さん(とジョニー)はいません。 竿だけが転がっています。 「あれ…?灰原さーん?」 …返事はありません。 しかし、何か音が聞こえます。 「…誰かが泣いてる…?」 シクシクという音がする茂みの裏を見てみると、 「…灰原さん?」 灰原さんが突っ伏して泣いていました。 灰原さんは白鳥くんに気付くと、起き上がり、 掴み掛かって何かを訴えてきます。 …よく見るとジョニーがいません。 「あ、あの…もしかして、またあのネコに ジョニーを盗られたんですか…?」 首を横に振って否定したあと、縦に振って肯定します。 「え…?半分はあってるんですか?」 首を縦に振る灰原さん。 「いったい誰に盗まれたんですか?」 白鳥くんがそう聞くと、 灰原さんは何やらジェスチャーを始めました。 頭の上から何かが二本。 「髪の毛…?…桃乃さん…は一本、だしなあ…」 走ってきて、突進。 「…あ、もしかして、魚子ちゃんですか?」 激しく縦に首を振る灰原さん。 「ああ…また魚子ちゃんでしたか…。灰原さんも大変ですね…。 あ、そうだ。帰りに和菓子をたくさん買ってきたので、 みんなで食べませんか? …ついでに、魚子ちゃんにジョニーを返してもらうの、手伝いますから」 ぶわぁっ、と泣きながら首を上下する灰原さん。 いつもいつも、可哀相な人です。 「…そ、それじゃあみんなのところへ行きましょうか」 みんなのところへ戻ってくると、そこは不思議な戦場でした。 「いぬ夫ぱーんち!!」 「なんの!ネコロンダーガード!!」 「いぬ夫ぱんちでびくともしないのー!?」 「ネコ合金ニューGの装甲に、そんな攻撃通用しないわよ!!」 「球実部員、イイ加減ドワルガーを返さナいト、 コちラにモ手ガありマスよ」 「なんでもきやがれです〜」 「でハ…うハはハはァー!!」 「あ〜!?デドリーとは卑怯です部長〜!」 「卑怯…あア、そノ響キもイイ…!! しカし、ナンでもコいト言っタのハそちらデス」 「…やるしかないですね〜。ついに親を超える時がきたです〜!」 「うハはァー!!イきマスよ、球実部員!」 「……親子だったんだ、あのぬいぐるみ…」 それにしては全然似てませんね。 「…あっ、そうだった!桃乃さん!」 「ネコロンダーブースター、装着完了! …って何?白鳥くん?せっかくいいところだったのに…」 「そんなことやってる場合じゃないですよ! 和菓子、みんなで食べるんじゃなかったんですか!?」 「え?あ、ああ!わ、忘れてなかったわよ〜?」 「思いっきり忘れてたじゃないですか…」 「…ごめん、つい童心に還ってた…」 「………」 「ま、まあ、そんなことより…珠ちゃ〜ん!!」 「マ゛〜、また部長に盗られたです〜…」 「盗っタのはアなタデスよ、珠実部員。 …まア、やハり、子は親にハ勝てマセンか…クッ」 どうやら珠実さん(ドワルガー)は、 部長さん(デドリー)に、負けてしまったようです。 「珠ちゃん!」 「なんですか〜?」 「お茶会の準備するわよ〜!」 「あ〜それならもう終わってるです〜」 「「え…?」」 驚く白鳥くんと桃乃さん。 「廊下を見るがいいです〜」 廊下を見ると、シートが敷かれ、お茶が用意されています。 確かに準備はできていました。 「いつの間に…」 「ふふふ〜…ね〜、部長〜」 「フフフ…ネえ、球実部員…」 「あ、あんたたち、何をやったのよ…?」 「…知りたいですか〜?」 「……イイエ…」 なにはともあれ、(魚子ちゃんのおかげで少し崩れた)和菓子を囲む、 『第1回鳴滝荘お茶会』の始まりです。 「わあい、お団子がいっぱーい!!」 「タイ焼きも、どら焼きもあるよ」 「本当にたくさんあるわね…ちょっと崩れてるけど…」 「桃乃さん、また体重増えるですよ〜」 「誰が1キロ増えたですって!?」 「そんなこと具体的な数字言ってないです〜」 「…水ようかん…水ようかん…」 「あ〜!お母さんもう3個も食べてる!」 「クズ人間サン、和菓子はガシッ、と食べルのデスね?」 「あははは!お姉ちゃん、うまーい!!」 「…オイ、オレの茶は…?」 鳴滝荘の住人が全員集合+1人で、いつもよりややにぎやかです。 ちなみにジョニーは、 魚子ちゃんがお団子を見たとたん放り投げたのを 灰原さんがナイスキャッチしました。 「ええい、こうなったら食べまくるわよ!体重なんざ知るか〜!」 「そんなんだから1キロ増えたんです〜」 「な、なぜそれを!?」 「さっき自分で言ってたじゃないですか〜」 「アァッ!!団子がノドにッ!太イのがノドにッ!!」 「部長は卑猥な言葉を叫ばないでください〜!」 「ほら、魚子ちゃんもあんまり急いで食べると、 ノドに詰まっちゃうよ?」 「…んっ…ん…」 「ってもう詰まってるの!?」 「お兄ちゃん、これ!」 「ありがとう、朝美ちゃん!」 白鳥くんは朝美ちゃんからお茶を受け取り、魚子ちゃんに飲ませます。 ごくん。 「気をつけないとダメだよ?」 「……」 「?…魚子ちゃん?」 急に静かになった魚子ちゃん。 そして次の瞬間、 どかーーん 「うわっ!?」 ななこ は ばくはつ してしまった !! 「魚子ちゃん?!…ま、まさか…」 「あ〜、棗ちゃんだったみたいですね〜」 かなざわ ななこ は こんの なつめ に かわてしまった !! 「…珠実部員、今ノ魔法はナんデスか?」 「“紺野棗”ちゃんのマジックです〜」 「ほホウ、私ト同じ魔女ッ娘デスか」 「いや、同じ“マジック”でも、手品のほうだと思うんだけど…」 「シかシあノ、 “爆発魔法(エクスプロージョン)”&“移動魔法(テレポート)”は見事デシたヨ」 「やっぱり、もう手品の領域じゃないのか…」 黒魔女ッ娘(自称)の部長さんの目にも 魔法に見える、棗さんの手品。 「一度オ手合ワせしタいデスね…」 部長さんの興味を引くには十分でした。 「部長、変なことに棗ちゃんを巻き込まないでください〜!」 「珠実ちゃん、それは後にして、棗ちゃんを探さないと!!」 「ああ〜、それなら白鳥さんに任せたです〜」 「私たちじゃ、前ほどじゃないにしろ、恐がられちゃうもんね…」 「…水ようかん…」 「そういうことよ!白鳥クン! なっちんを連れてきて、一緒にお茶会をするのよ!!」 「がんばれヨ!」 口々に言う皆さん。 「そういうことですか…。じゃあ、行ってきます。 …あ、棗ちゃんの分、ちゃんと残しておいてくださいね!」 白鳥くんは、恐らく棗さんが消えて(?) 行ったであろう方向へ、歩いていきました。 「…珠実部員、私モ行っテもイイデスか?」 「なんですか部長〜?まさか、あの二人を邪魔するつもりですか〜!?」 「違いマスよ。ソの棗サンと、オ手合わセしタいダけデス」 「同じことです〜!」 「ソレでハ皆サン、ゴキげんヨう」 どかーーん 棗さんの時より激しい爆発を起こし、部長さんは消えてしまいました。 部長さんの隣にいた朝美ちゃんと灰原さんは真っ黒です。 「けほっ…」 「…大丈夫?朝美…」 「うん、大丈夫、なんともないよ。 …お姉ちゃん、本当に魔法使いだったんだ…」 「なんでオレまで…」 「珠ちゃん、追わなくていいの?」 「いいんです〜。…私まで二人を邪魔したくないですから〜。 それに、部長もそこまで無神経じゃないと思います〜」 「ならいいけど…」 珠実さんはお茶を一口飲んだ後、ため息をつきながら言いました。 「…実を言うと、私、移動魔法は使えないんです〜…」 「棗ちゃーん」 白鳥くんは棗さんを探します。 「棗ちゃーん?」 「隆士…君…」 「うわっ?!な、棗ちゃん。う、後ろにいたの?」 「ごめ…ん…さい…」「いや、僕はびっくりしただけだから…」 「また…逃…げ…たり…して……」 「ああ、そのことね…」 「前…より…人…が…多か…た…から……」 「…前にも言ったけど、いいんだよ、ゆっくりで」 「隆士…君…?」 「なにも特別なことはしなくていいんだよ…?」 「……」 「…それでもダメだったら…棗ちゃんには、僕がいるから」 「…!…隆士…君…」 「棗ちゃん…」 見つめあう二人。 前の時は邪魔者が入りましたが、今は二人以外誰もいません。 そしてそのまま… 「オお、ブラボー!!」 …のはずでした。 「部長さん!?」 白鳥くんは、その声のした方向を見ます。 「ソうデスよ、タマなしサン!」 しかし姿は見えません。 「…そシテ、棗サン!!」 なんと部長さんは、柱の中から出てきました。 「うわぁ!?ま、まだあったんだ、この柱…」 「私もビックリしマシタ。久シぶリに移動魔法ヲ使ッたのデ、 失敗シテ柱の中にメり込ンだかト思いマしタよ。サテ…」 部長さんは、白鳥くんの後ろに隠れた棗さんに向かって言います。 「棗サン。アナたハ“マジシャン”だソうデスね」 「みん…な…は…そう…呼ぶ……かも…」 「実は私モ“マジシャン”なのデス」 「だから部長さんは勘違いしてるって…」 白鳥くんのツッコミは、部長さんには届きません。 「アなタを相当ノ腕と見込んデ、お願イがアるのデス」 「…何…かも…?」 「私とオ手合わセ願いマス」 「暴…力は…嫌…かも……」 争いごとが嫌いな棗さんはもちろん応じません。 「ヤはリ、そウきマシたカ。シかシ、アナタは応ジなけレバなりマセン」 「応…じ…なけ…れば…?」 「タマなしサンは、本当にタマなしサンになッテしまイマス」 「え、えええぇぇ!!?ぼ、僕は関係ないじゃないですか!!」 いきなり自分の名前が出てきて驚いていると、 いきなり大変なことを宣言された白鳥くん。 「隆士…君に…そん…な…こと……させ…ない…かも……」 「『かも』なんだ…」 「ククッ、ココでハ少々狭イのデ、場所ヲ変えマシょウ」 すると部長さんと棗さんは、 どかかーん 「また!?」 爆発して消えてしまいました。 「二人とも、どこへ消えたんだ?」 中庭に出ます。 「ココがアナタの死に場所デスよ」 「…誰…も…死……せ…ない…かも…」 なんだか話が大きくなっていますね。 「上!?」 二人は鳴滝荘の上で対峙していました。 鳴滝荘の上で展開されている、“マジック”バトル。 そして、 「私ノ得意とスル、召喚魔法ヲ味わウがイイ! 出デよ!決戦魔導巨兵グラシア=ラボラス!!」 部長さんが巨大な怪物を召喚しました。 『モ゛ー』 怪物が吠えます。 「なんだあれ!?」 怪物は白鳥くんにも見えるようです。 「……かも…」 それに対し、棗さんは、 「な、棗ちゃんが、ふ、増えてる!?」 なんと、三人に増えました。 三人の棗さんは、部長さんの怪物に向かって走りだします。 「ホう、幻影トはヤりマスね。 シかシ、コチラに腕は二本あルのデスよ?」 怪物はその巨大な二本の腕を、走ってくる三人の棗さんのうち、 二人にむかって振り下ろします。 「危ない!棗ちゃん!!」 白鳥くんの叫びも虚しく、二人の棗さんは潰されてしまいます。 「あ…」 ポンッ 「…花?」 潰された瞬間、二人の棗さんは花になりました。 「花に自分ノ姿をサせルとハ…」 再び怪物が腕を振り下ろそうとしますが、 それより早く棗さんが怪物の眼前に迫り、 手に持っているステッキで攻撃しようとします。 「やった!棗ちゃんの勝ちだ!」 白鳥くんが確信した時、部長さんがニヤリ、と笑みを浮かべます。 「引ッ掛カりマシたネ」 「え!?」 「グラシア=ラボラス!魔導光線!!」 『モー』 怪物は一声を発すると、眼前の棗さんに向かって目からビームを発射します。 「ああっ!棗ちゃん!!」 棗さんは、ビームをもろに受けてしまいました。 「…私の勝ちデスね…」 ポンッ 「…え?」 「おヤ…?」 ビームをくらった棗さんは、花になりました。 「ナンと!三人とモ、偽物デシたカ…」 「じゃあ、棗ちゃんは…?」 「ここ…かも……」 「棗ちゃん!?」 棗さんは、怪物のお腹の前にいました。 「ソうイうことデしタか!マさカ三人目の影にイタとハ…!」 「終…わり…かも……」 棗さんは怪物のお腹の真ん中の、 丸が三つくっついたような紋章の中心を突きました。 「アぁッ!?グラシア=ラボラスの弱点ガっ!!」 弱点をステッキで突かれた怪物は、 『モ〜!!!』 体中から光を放ち、 どーーーん 爆発しました。 怪物の体は花びらとなり、空から降ってきました。 これもマジックでしょうか。 「アア、私のグラシア=ラボラスを倒スなンテ…」 部長さんが膝をつきます。 怪物がいたところには、棗さんが立っていました。 「…すごい…」 花びらが舞い、それはとても綺麗な光景でした。 「…隆士…君…私…やっ…た…かも……」 どさっ 「棗ちゃん!?」 今度は棗さんは倒れてしまいました。 「…グラシア=ラボラスを倒シタのデス。サぞ消耗したコトでショう…」 部長さんが、棗さんを抱えながら降りてきました。 「…私の負けデス、タマなしサン…」 部長さんはややションボリしています。 一日に勝負で二回も負けたからでしょうか。 「…一つ、考エてイたコトがありマス」 「?…なんですか?」 部長さんは語り始めました。 「グラシア=ラボラスを倒スには、強力ナ魔力が必要デス。 先程の棗サンからハ、普通は考えラれなイ程の魔力を感ジまシタ…」 「そうなんですか…?」 「えエ。…私ハ愛だノ恋だノの力なド信じテいマセンが、 モしかシたらアノ力がソうなノかもシれマせンね」 にっこりと笑う部長さん。 「ダとシタら、タマなしサンは余程棗サンに好かレていルのデスね」 「そっ…そんな…」 照れる白鳥くん。 「棗サンを、大事にシなイとダメデスよ?」 「は、はい!!」 「ぅ……ん…?」 「あ、起きた?」 棗さんが起きたようです。 もっとも、梢さんに戻っているかもしれませんが…。 「…あら?…隆ちゃん!?」 …残念ながら、梢さんでも棗さんでもありませんでした…。 「…千百合ちゃん…?」 棗さんは、千百合さんになってしまったようです。 「心配してくれていたのですか!? ホーーッ!!…あら?こちらは…?」 「おヤ、また別ノ方になッタのデスか?」 二人の質問に答える白鳥くん。 「千百合ちゃん、この人は珠実ちゃんの部活の部長さん。 部長さん、こちらは“緑川千百合”ちゃんです」 「なるホド、千百合サンデスか」 千百合さんは部長さんの服装をじっと見ています。 なんだか嫌な予感がしますね。 「…おや、あなたの服装は正しくないのではありませんか!?」 …やっぱり始まってしまいました。 「…イきなリ失礼な人デスね。コノ格好は私のポリシーデスよ」 「ややっ!?やはり正しくありません!! あなたにはもっと正しい服装があるはずです!」 「アァっ!!何をスルのデス!? アッ!イケまセン!イケまセン…!そノ服装ダケは…!!」 部長さんは千百合さんに捕まってしまいました。 どんどん着せ替えられていきます。 そして、 「…アハウアぁ!!」 「…Correct!!」 「ありがとうございます、こんな素敵な格好にしてくださって」 「………」 「いつも同じ服装でしたので、今まで気付きませんでしたよ」 部長さんが着せられた服、それは 「…“巫女”さん…」 その服が発する神気(?)にやられた部長さんは、 いつかの時のようになってしまいました。 「こんなに素晴らしい服があったのですね」 部長さんの巫女さん姿は、恐ろしいくらい似合っていました。 「やはり私の服飾は正しかったようです!!」 千百合さんもご満悦です。 「あのさ、千百合ちゃん…」 「なんですか隆ちゃん?」 「そろそろ、みんなのところへ戻ろうか?」 「そうですね。千百合さん、皆さんも正しい服装にしてあげましょうか」 「部長さん、あなたはわかってくれる、いい人ですね!!」 「いえいえ。私に正しい服装を教えてくれた、あなたほどではありませんよ」 千百合さんと部長さんは服装を通じて仲良くなったようです。 「……はぁ。どうなるんだろう…」 三人は皆さんのところへ戻ります。 「あら、遅かったじゃない白鳥クン。 さては、イケナイことでもやってたか!?」 「もう少しでお母さんが全部食べちゃうところだったよ」 「…どらやき…」 三人が戻ってくると、皆さんはお茶を飲んでゆっくりしていました。 「ただいま…みんな…」 「どうしたの白鳥くん?」 桃乃さんはなぜか疲れてる白鳥くんを見たあと、 その後ろにいる二人に気付きました。 その一人は髪型が変わ。、どこからか出した眼鏡をかけています。 もう一人は巫女さんの格好をしていて、なんだか雰囲気が変わっています。 「あ…、ま、まさか…千百合ちゃん?」 「「え?」」 桃乃さんの言葉で、他の人たちも二人の変化に気付きました。 「ええ!皆さん、この部長さんのように、正しい服装になりませんか?」 「「!?」」 逃げようとする皆さん。 そこで桃乃さんが気付きます。 「あ!!そうよ、千百合ちゃん!!こんなところで着替えたら、 和菓子にほこりがかかっちゃうわよ!?」 「おや…なるほど、それも一理ありますね…」 「「ふぅ…」」 安心する皆さん。 「ならば…」 千百合さんは残してあった和菓子に近づくと、一瞬で全て食べてしまいました。 「…これなら、良いでしょう?」 「「……う、うわぁぁぁぁあ!!」」 逃げ出す皆さん。 「…何を嫌がっているのでしょう? まあ、いつものように一人ずつ捕まえて、正しい服装にしてあげましょうか」 「そうですね〜」 千百合さんの右隣に珠実さん。 「千百合さん、私にも手伝わせてください」 「もちろんですよ、部長さん!」 「部長がなんだかおかしい気がするですが、この際気にしないです〜」 千百合さんの左隣に部長さん。 「…みんな…」 その後ろに白鳥くん。 …ターゲットは、残り3人。 「…ところで、あなたは逃げないのですか?」 部長さんが、逃げずに残っていた灰原さん(とジョニー)に尋ねます。 「ん?ああ、千百合はオレには興味ナイからナ」 「そうなのですか?」 「ええ、まあ…」 「でもせっかくですし、この方の服装も変えてみませんか?」 「お?変えてくれるのか?」 「…部長さんがそう言うのであれば、やりましょうか」 「では早速取り掛かるです〜」 「おっ、今まで体験したことなかったけど、結構激しいナ…」 三人に囲まれる灰原さん(ジョニー)。 「灰原さん、どんな格好にさせられるんだろう…?」 白鳥くんも少し興味がありました。 「……」 「Correct!まあ、こんなものでしょうか?」 「そうですね〜」 「さすが千百合さんです。素晴らしい服飾ですよ」 「…灰原さん……」 そこに、灰原さんはいませんでした。 いるのは、体が灰原さんの、大きいジョニー。 「…オレは…灰原なのか?…いや、ジョニー?」 灰原さんは混乱しています。 「さて、次に行きましょうか」 「まずは桃さんから行くです〜」 「あの方ならあちらへ逃げましたね」 三人は混乱しているジョニーを放置し、 桃乃さんが逃げた方向へ行きます。 白鳥くんはそのあとをついていくしかありません。 「みんな忘れてるのよね〜…」 桃乃さんは隠れていました。 「ここなら気付かれない…」 偽柱の中に。 残念ながらつい先程、この場所は使われてしまっていたことを、 桃乃さんは知りません。 「ー〜…」 話し声と足音が聞こえてきました。 それは気のせいか、目の前で止まりました。 「あ、ここではないのですか?」 「おや、部長さんもそう思いましたか」 「これはもともと私が作ったんですよ〜」 ぱたん 「……え…?」 絶対に見つかるはずがないと思っていた桃乃さん。 無防備でした。 「ビンゴです〜」 「部長さんのカンが当たりましたね!!」 「千百合さんのカンもですよ」 「えっ?えぇ??」 訳が分からなくなってる桃乃さん。 逃げる機会を無くし、そのまま三人に囲まれてしまいました。 「に゛ゃぁぁぁあーー!?」 「…桃乃さん」 返事がない。ただの屍のようだ。 「Correct!!」 哀れ、桃乃さんはネコの耳を頭につけられ、 手には肉球のついたかわいいネコ手。 体は極端に露出が多いネコ体になってしまいました。 「もうダメだよ、お母さん!」 「…あきらめたらだめよ…朝美…」 柱の影に身を潜める二人。 「でも、もうこっちに来ちゃうよ!!二人とも捕まっちゃうよ…」 涙を浮かべる朝美ちゃん。 意を決した沙夜子さんが、朝美さんに言います。 「……朝美、私が囮になるわ…。…あなただけでも生きるのよ…」 「お母さん!?」 「…さようなら……朝美…」 沙夜子さんが飛び出しました。 「おかあさぁぁ―ん!!」 「いました〜!こっちです〜!」 「囲むのです、珠実さん!!」 「お母さん…」 朝美さんは涙を拭いて、立ち上がります。 「お母さんの犠牲、無駄にはしないよ…」 朝美さんにもう迷いはありませんでした。 「…どこへ行くのですか?」 「えっ!?お姉ちゃん?」 目の前に立ちふさがったのは、巫女さんの姿をした部長さん。 「びっくりしたー。お姉ちゃん、大丈夫だった?」 「何がですか?」 「何がって…、千百合お姉ちゃんに、着せ替えられたんじゃないの?」 「確かに私は千百合さんに着せ替えられました。 しかし、そのことによって私はこの通り、素敵な服装になることができました」 「お姉ちゃん、それって…」 朝美ちゃんの顔が青ざめていきます。 「あなたも、素敵な服装になりましょう」 後ろを見ました。 沙夜子さんをすっかり魔女の格好にしてしまった 千百合さんと珠実さんが、こちらへ向かってきます。 前を見ました。 巫女さん姿の部長さんが、にっこり笑っています。 逃げ場など、ありませんでした。 「あ……あ、あ……」 「Correct!!」 「…皆さん…」 白鳥くんは倒れているネコ娘、魔女、プチメイドさん、 をお茶会のシートの上に並べました。 ジョニーは今ではすっかり落ち着き、 中庭でいつものように釣りをしています。 ターゲットは、もう残っていません。 「魔女の服装を見ると落ち着くのはなぜでしょうか?」 「かろうじて自我が残っているようで〜」 いつの間にか珠実さんも“モエモエファッション”になっていました。 「これで全員ですか」 自分は女医の服装になった千百合さん。 「まだ残ってますよ〜」 「?…どなたですか?」 珠実さんが教えます。 「それは、白鳥さんです〜」 「なっ!?」 白鳥くんは、またしても突然自分の名前が挙がったのでびっくりしました。 「ああっ!私としたことが、隆ちゃんを忘れていました!」 白鳥くんを見る千百合さん。 「隆ちゃん…おとなしくしてください…」 息遣いが荒いです。 「私に…身を…任せて…」 目もヤヴァイです。 「さあ、隆ちゃん!!」 危険です。 「うわぁぁあ!!」 当然のごとく逃げる白鳥くん。 しかし、白鳥くんはすぐ戻ってくることになります。 「待ってください!隆ちy」 つるっ 「あ…」 千百合さんがすっ転んだからです。 「大丈夫!?千百合ちゃん!!」 「なんともないみたいです〜。でも、頭からいきましたね〜。また誰かに変わるんじゃないですか〜?」 「誰かって、あと今日なってないのは早紀ちゃんだけ…」 「ぅ〜ん…」 「えーと…早紀ちゃん、かな?」 「しら…とり?……!!」 目覚めた早紀さんは、目の前に白鳥くんの顔があるのを見て 真っ赤になりました。 「ば、馬鹿野郎!!離れろ!!」 「あ、ごめん、早紀ちゃん!」 「…い、いや、その、別にお前が嫌いになったってわけじゃないからな!?」 「う、うん!」 二人とも真っ赤です。 「部長、“赤坂早紀”ちゃんです〜」 「そうですか、早紀さんというのですね」 「…おぅ?なんだおめーら。なんでそんな格好してるんだ?」 珠実さんと部長さんの服装に気付いた早紀さん。 「あ〜早紀ちゃんはこういうのは嫌いでしたね〜。 すぐ着替えてくるです〜」 「おぅ…で、お前は?」 巫女さんのまま、着替えに行こうとしない部長さんに突っかかります。 「私ですか?」 「他に誰がいるんだよ!」 「この姿は、私にとって最も正しい姿であるということに気付いたのです。 ですから、着替えようとは思っていません」 「いいからお前も着替えろ!!うっとーしぃんだよ!!」 早紀さんに無理矢理着替えさせられる部長さん。 「ああっ、何をするのですか!?やめてください! ああ、でもむしろやめないで!!」 すっかり元の黒マントに戻された部長さん。 「これでいいだろう!」 「ハッ!?私は一体ナにヲしてイたのデショウ!?」 雰囲気も元通りです。 「なんだか“神気部長”さんも、別人格みたいだったなあ…」 そこにちょうど珠実さんも戻ってきました。 「…なんだか部長が普通に戻ってるです〜」 「オお、珠実部員…」 「まあ、普段から“普通”じゃないわけですが〜」 「アハぅはッ!!イイデスよ…!」 「こいつ、気持ちわりぃな…」 「イイデスッ!!元気二なれソうデスッ…!!」 これは間違いなく部長さんですね。 「おい、珠。こいつらも着替えさせるぞ」 シートの上に転がる三体の屍も蘇らせてあげます。 「う、う〜ん…しゃべらないで、珠ちゃん…傷口が…」 「なに寝呆けてやがる!」 桃乃さんの腹に蹴りが入ります。 「がはっ!!…あれ?早紀ちゃん…?」 「やっと起きたか、桃」 程なくして、沙夜子さんと朝美ちゃんも目覚めました。 起きた朝美ちゃんが時間を確認してます。 「あ!大変!そろそろ夕ご飯を作らないと!」 「ゆ、夕飯?もうそんな時間か?」 「うん!!」 立ち上がり、台所へ向かおうとする朝美ちゃん。 「ま、待て朝美!オレも手伝う…」 早紀さんが珍しいことを言いました。 「え?早紀お姉ちゃんも?」 「……おぅ」 「早紀ちゃん、本気?」 桃乃さんは心配そうです。 「うるせー!やるっつったらやるんだよ!!」 「がんばってね、早紀ちゃん」 白鳥くんも少し心配そうですが、早紀さんに任せてみます。 「し、白鳥のためだけに作るわけじゃないからな!!」 「うん!」 「私モ手伝いマスよ」 部長さんも珍しいことを言いました。 「ぶっ、部長さんも?」 「エえ。…言っテ置きマスが、私ハお料理上手なのデスよ?」 皆さん信じられない、という顔をしています。 「部長、前みたいに闇鍋とか作らないでくださいよ〜?」 「失礼ナ。アの時ハ少し失敗シタだけデスよ」 それを聞いてますます不安になった皆さん。 「ソれデハ行きマシょウ、豆サン、早紀サン」 三人は台所へ行きました。 「早紀とアイツは大丈夫なのか?」 一人だけジョニーのまま放置されている灰原さんも不安そうです。 白鳥くんの部屋で待つこと数十分。 朝美ちゃんが呼びにきました。 「みんなー、ご飯だよー!」 「はーい…」 皆さんあまり乗り気ではないようです。 朝美ちゃんの料理は普通においしいのですが、 早紀さんはお世辞にも料理がうまいとは言えなく、 部長さんは本当にうまいか怪しいものです。 (珠美さんによると、前に部活で鍋を作ったことがあるそうですが、 珠美さんは食べるのを拒み、食べた部長さんは その次の日から三日間、姿が見えなかったそうです) そんな三人の料理。 「どんな料理だろう…」 台所に近づくと、おいしそうな匂いがしてきました。 「わぁ…」 意外と期待できるかもしれません。 「わぁ……」 期待できませんでした。 「三人で二つずつ、担当して作ったんだよ!」 テーブルの上に広がるパノラマ。 朝美ちゃんが作ったのは副菜、緑色の草の山“野菜炒め”。 「今日、学校の帰りに採ってきたばかりだから、新鮮だよー!」 早紀さんが作ったのは主菜、形が崩れた肉塊“ハンバーグ”。 「結構うまくできたんだぜ!」 部長さんが作ったのは、 カラフルな謎の粒々が入った気味の悪い“ご飯” と、黒く濁った“お味噌汁”。 「自信作デスよ」 「「………」」 皆さんはただその光景に唖然とするばかりです。 「さあ、みんな座って!」 朝美ちゃんに急かされ、全員着席します。 「デは皆サン」 「「い、いただきまーす…」」 まず最初に食べてみるのは、朝美ちゃんの野菜炒め。 これは白鳥くんが以前食べたことがあるもので、 見た目は草そのもの、しかし味は良い品です。 「どう…?」 「うん、おいしいよ」 「おいしいわ…朝美…」 沙夜子さんはボトボト落としながら口に運んでいます。 「よかった!どんどん食べてね!! ちなみに、そのヨーグルトドリンクも私が作ったんだよ!」 ヨーグルトドリンクはさっぱりとしていて、美味でした。 次に食べてみるのは、早紀さんのハンバーグ。 勇気を出して口へ運びます。 「………」 「ど、どうだ…?」 「…おいしい」 形が崩れていてまずそうに見える外見と裏腹に、味は良いみたいです。 意外でした。 「へへへ…、実は前から朝美に料理を教わってたんだぜ」 「そうだったんだ…」 「うん!なんでも、早紀お姉ちゃんがお兄ちゃんに作ってあげt…」 あわてて口封じします。 「ばっ、バカ!余計なこと言うんじゃねえ!!」 「ほぅ、早紀ちゃんもやるわね〜」 「そんなんじゃねぇよ!!」 「……?」 白鳥くんはわかっていないようです。 「まったく、ニブチンですね〜」 「だ、だからそんなんじゃねぇって!!」 「…あア…皆サン!!イつまデ私のお料理ヲ放置プレイすルつもりデスか!?」 部長さんの料理を誰も食べてないので、部長さんは悲しんでいます。 「でも…」 「…ねぇ?」 「です〜…」 「…まずそう…」 「アアッ!皆サン失礼デスよ!!ストレートすぎデス!!」 …でも喜んでるのかもしれませんね。 「そ、そうだよ。お姉ちゃんも一生懸命作ったんだよ?」 「あァ…豆サンはイイ人デスね…。私ノお料理、食べテくれルのデスね?」 「え…?う、うん」 少し戸惑いながらもカラフルご飯を食べてみる朝美ちゃん。 「…あ、甘くておいしい」 「ソうデシょウ!ソうデシょウ!!体にイイ豆ご飯デスよ、豆サン!」 カラフルな粒々は各種豆だったようです。 「部長、じゃあこっちの黒いお味噌汁はなんです〜?」 「イカスミ入りノお味噌汁デス。体にイイのデスよ?」 どうやらこちらも見た目が怪しいだけで、味は良かったようです。 「部長さん、本当にお料理上手だったんですね!」 「アラ!タマなしサン、ソんナ目で見ナイでクダサイ… 確カに私はお料理上手でセクシィな魔女ッ娘デスけれド、 タマなしサンには早紀サンがいルのデスよ?」 「そうだぜ、白鳥!」 「そっそんな目で見てないよ!」 「ところでヨ、このイカスミはどこから出したんだ?」 ジョニーが部長さんに聞きます。 895 名前: One day +One [sage] 投稿日: 2005/07/05(火) 00:20:11 ID:77KAMTuO 「デドリーからデス」 予想通りでした。 「…まぁ、体にイイなら良しとしましょ!」 「…イカスミ…」 楽しく食事は進み、皆さん食べ終わりました。 「ふぅ〜。食べたわ〜」 「早紀ちゃん、おいしかったです〜」 「喜んデ貰えテ嬉しいデス」 「部長には言ってないです〜!」 ご馳走様しようとした皆さん。 「おい、てめえら、まだご馳走様には早いぜ」 早紀さんが止めます。 「実は、早紀お姉ちゃんのデザートがあるんだよ!」 「それが早紀ちゃんの二つ目ね〜」 「楽しみです〜」 896 名前: お腹いっぱい [sage] 投稿日: 2005/07/05(火) 00:27:45 ID:77KAMTuO 今日はここまでです。 この“One day +One”も終わりに近づいております。 長かったです。でも、それはすべて終わってから言いましょう。 料理知識なくて、ボロボロですいません。 この早紀ちゃんは料理苦手という設定ですので、 他作品様の早紀ちゃんと比べると違和感あるかもしれません…。 あと、テイル氏に許可をもらいたいんですが、 現在執筆中のSSに、また桃さんのセリフ引用してもよろしいでしょうか? といっても投稿はだいぶ先の話になると思いますが…。