--------------- First Present --------------- 3月10日。 段々暖かくなりつつある午後。 「うーん…………」 さて、どうしたものか…… というか、何も思い付かない…… 僕は、縁側に座って悩んでいた。 ネーム切れ、ではない。 物書きはある程度(無論人にもよるらしいが)ストックを持っているのが普通だ。 今は、プレゼントの内容が思い付かないでいる。 プレゼントと言っても、ただのプレゼントではない。 3月14日、ホワイトデーのプレゼントだ。 男の子が、バレンタインにチョコをくれた女の子に、お返しをする日。 誕生日のプレゼントとは、また違う重みを持っている。 自分の気持ちを相手に伝える、大切な日なのが、ホワイトデー。 だから、僕は悩んでいた。 「うーーーーーーーん………………」 ダメだ、完全にネタ切れだ。 僕の脳はスポンジか。 とうとうネタが尽きたのか。 「…………散歩しよう」 今年度分の学校は終わっている。 梢ちゃん達はまだ学校だ。 鳴滝荘に残っている面々も、昼寝をしている沙夜子さんを除いて外出中。 ……なんか、無人島に取り残された気分。 ここ暫く外出していなかったから、尚更だ。 うーむ。 前なら、阿甘堂の『あのお姉さん』がタイミングよく最高のモノを 仕入れていてくれたんだけど… 今回も期待できるかどうか。 そう考えながら、双葉銀座へやってきた。 ここに来れば、たいがいの物が揃うんだけど…… 「ああ、白鳥クンだヨ〜」 この声。 この変に訛った声。 この喋り方は、あの人だけ。 「……こんにちは、お姉さん」 マメ知識。 和菓子を売る阿甘堂の二枚看板。 そのうちの一人が、このお姉さん。 人呼んで<ヨ〜ちゃん>。 ここで働く以前に、僕は何度かお姉さんを見掛けているんだけれど… 当の本人がとぼけているので、それは定かではない。 以上、マメ知識。 「どうしたヨ〜、学校はもう休みかヨ〜?」 「ええ、今月の頭から春休みです。特に課題も無いんで暇してますよ」 「暇してるならこの店を手伝って欲しいヨ〜」 「いえいえ結構です僕は絵本を一冊仕上げなくてはいけないのです」 何言ってんだ僕は。 それは置いといて、本題に入る。 「お姉さん、何かいいモノ仕入れてませんか?」 「……?いいモノって何だヨ〜?」 「ええ、まぁ……ちょっと、プレゼントに何かいいものを探してまして……」 「…………」 お姉さんはしばらく考え込むようなポーズをとって(そのポーズは何故か一休さん)、 ようやく思いついたかのように、 「ああ、ホワイトデーかヨ〜?」 「……そうです」 ……わざわざ一休さんのポーズをしてまで考えることじゃないと思う…… お姉さん、大丈夫? 「前に、お姉さんから買ったプレゼントは最高だったんですけどね……」 「ヨ〜?あの不良債権がかヨ〜?そんなに気に入ってもらえたのかヨ〜」 「ええ、まあ……」 「……っと、その子は梢ちゃんだったヨ〜。あの子なら確かに喜ぶヨ〜」 「はは……」 梢ちゃんって、微妙な感じのものが好きだからな…… だからこそ、迷うんだけど…… 「だから、今回もお姉さんが何か仕入れてくれていないかなー、と思ったんで」 「ないヨ〜」 否定された。 速攻で否定された。 その間0.3秒。 「………無いんですか?」 「というより、旭さんに禁止されたヨ〜。『これ以上アタシを巻き込むな』ってヨ〜」 「そうですか……」 「ちなみに、梢ちゃんはバレンタインに何をくれたんだヨ〜?」 「マフラーですよ」 「君が今している、それかヨ〜?」 「……鋭い……」 先月のバレンタイン。 梢ちゃんは、手編みのマフラーをくれた。 女の子からのプレゼントなんて初めてだったから、余計に嬉しかった。 だから、今回は僕が梢ちゃんを喜ばせる番だ。 ……でも。 流石に、またぬいぐるみを使う訳にもいかないかな…… 「……という訳です」 「なるほどヨ〜…………悪いケド、今回は君の力になれないヨ〜。ゴメンだヨ〜」 「いえ、そんなことはないですよ」 「ついでに鯛焼き買わないかヨ〜?」 「今はそんな気分ではないです」 ……とはいえ。 これでお姉さんの伝手は消えた。 ……まるで飛車角がない将棋を指しているような気分だ…… むしろ手詰まり。 どうしよう…… 3月12日。 結局、昨日もネタが無かった。 正直、銀先生の課題が出来ない並みの厳しさだ。 どうしよう。 本当にどうしよう。 「……本屋にでも行こう」 今ならホワイトデー関連を特集した雑誌があるはずだ。 そういう時には、週刊誌や男性誌も役に立つ。 むしろ、僕はこういう時にしか開かないのだけれど。 少しでもヒントになるものがあればいいけど…… 「……やんぬるかな」 結局、本屋で2時間格闘したけど、成果はゼロだった。 「ああ…………」 なんか、どうしよう。 ここは王道にキャンディーを買うか。 「……でも、梢ちゃんが、心から喜ぶとは思えないな……」 梢ちゃんが喜ぶプレゼントって、何だろう…… 「ぎゃーす……」 鳴滝荘に帰って来た。 「…………ん?」 倉庫から物音がする。誰だろう…… 物置に行って見ると、 「……あ、お帰りなさい白鳥さん」 梢ちゃんがいた。 「……何してるの梢ちゃん」 「ええ、物置の整理をしています。探しものついでですけど」 「探し物って何?」 「工具箱ですよ、夏以来使っていませんけど……」 工具箱……はあのときか。 「じゃあ、僕も手伝うよ」 「お願いします、白鳥さん」 そうして、僕も探すことにした。 少しは、気分転換になりそうだ。 15分ほど格闘したところで、ようやく工具箱を発見した。 「お、あったあっt……?」 何だろう。 工具箱の裏に、白い画用紙がある。 「……梢ちゃん、この画用紙は何?」 「……画用紙、ですか?」 瞬間、梢ちゃんの眼の色が変わった。 変わった、ような気がした。 「これなんだけど」 僕はその画用紙を梢ちゃんに手渡す。 「………!これは!」 「どうしたの!?」 「………………」 梢ちゃんは、何も言わず、その画用紙を、ぎゅっ、と抱きしめる。 「……これは、あのときに白鳥さんがくれた絵……  私が、初めて貰ったプレゼントだった……  貰って暫くして、なくなってしまったんですけど、ここにあったんですか……」 「……僕が、梢ちゃんにあげた?」 「そうです……やっぱり、憶えていませんか?あの日の事を……」 「ゴメン……まだはっきりとは……」 「……いいんです。私はこうして、白鳥さんの側にいる事が出来ましたから」 そう言って、梢ちゃんはその絵と工具箱を持って物置を出て行った。 その梢ちゃんの表情は、とても嬉しそうなものだった。 だけど、どこか悲しそうでもあった。 僕は――結局、何も、出来ない。 あの日の記憶を――思い出せない。 桜が舞っている。 花びらは、綺麗な桃色。 そして、その桃色に似合わないモノトーンの鯨幕。 僕は、お母さんに連れられて、この鳴滝荘に来ている。 何があるかなど、知らされていない。 「僕のひいおじいさんが死んだ」とお母さんは言っていたけど、さっぱり分からない。 そんな僕は、玄関で一人の女の子に出会った。 その子は、隅でしゃがんで泣いていた。 悲しい、のだろうか。 僕は、何も言わず、その子を見ていた。 「総一郎さんも、大往生だったわね……80過ぎてたんでしょ?」 「ええ……戦前からここの大家をやっていたんだから、それぐらいよね」 「にしても、惜しい人を亡くしちゃったわね……」 「そうね、この付近でも数少ない歴史の生き証人だったから……」 「でも、これからどうなっちゃうのかしら」 「ここは孫夫婦が相続するみたいよ……それでも息子夫婦と色々な確執があるらしいけど」 「孫夫婦?ああ、あそこには女の子がいたわね。すごく総一郎さんに懐いていたわね……  名前は……梢ちゃん、だったかしら」 大人が難しい話をしている。 何のことだかさっぱり分からない。 葬式とはいえ、小さな子供にしてみればただの退屈な事でしかないから、 僕は縁側に腰掛けて絵を描いていた。 自分だけのスケッチブックに、自分だけのクレヨン。 僕の、初めての宝物。 初めてスケッチブックを貰った時は、とても嬉しかった。 それ以来、どこへ出掛けるにもこの二つは手離せない。 「ねえねえ」 後ろから、女の子が声を掛けてきた。 肩より少し長いロングに、黒いドレス。 ……あの、さっきの女の子? 「おにいちゃん、なにをしているの?」 「お絵かきだよ」 「うわー、わたしもおえかきがだいすき!どんなえをかいてるの?」 「そうだねー」 僕は、クレヨンを走らせる。 たちまち、キリンが出来上がった。 「うわー、おにいちゃんうまーい!もっとたくさんえをかいて!」 「うん、いいよ」 「わたしね、こずえっていうの」 「こずえ?」 「うん!わたしのなまえは、あおばこずえ!」 「こずえちゃんか……ぼくは、しらとりりゅうし。よろしくね」 それからは、あっという間に時間が過ぎた。 僕のスケッチブックは、沢山の友達でいっぱいになった。 僕。 梢ちゃん。 カエル男爵。 空飛ぶサメ。 キノコの妖精。 小鳥達。 白いキャンバスは、たくさんの友達に囲まれた緑の広場になった。 「ねえねえ、おにいちゃん」 梢ちゃんは訊いてくる。 「なあに?」 「こんどは、わたしをかいて!」 「こずえちゃんを?……いいよ」 「やったー!」 梢ちゃんは、縁側に出て僕の目の前に立つ。 「おにいちゃん、できあがったらわたしにみせて!」 「いいよ」 僕は、梢ちゃんを白いキャンバスの上に描き出す。 はじめて、女の子を描いた。 木立の中に佇む梢ちゃんは、とても幸せそうにしている。 しばらくして。 「できたよ、こずえちゃん」 「みせてー!」 僕はスケッチブックを渡す。 「うわー………」 梢ちゃんの目が輝いている。 「なんだか、とてもあったかい……」 「どう?気に入ってくれた?」 「うん!ありがとう!」 梢ちゃんの笑顔は、とてもキラキラしていた。 そんな楽しい時間も、当然のように終わりを迎えた。 僕は帰らなくてはいけなかった。 「ええ〜?おにいちゃん、もうかえっちゃうの?」 「うん、しょうがないよ」 「そんなぁ〜……もっと、おにいちゃんのえがみたいよ〜……」 梢ちゃんは今にも泣きそうだ。 「……こずえちゃん、ぼくのこの絵をあげるよ」 言って、僕はスケッチブックから一枚破って渡す。 あの、たくさんの友達が仲良く遊ぶ絵。 「これを、あげるよ」 「ほんとう!?ありがとう、おにいちゃん!!」 それが、僕が初めて見た、梢ちゃんのとびきりの笑顔だった。 「また、会おうね」 「うん!!」 そうして、僕は車に乗り込む。 「おにいちゃん!!大好きだよ!!!」 ある春の、小さな出会いだった―――――― ◇ 「………ん」 そこで、僕は目が覚めた。 「そうか……そうだった、ようやく思い出した」 今まで断片的にしか思い出せなかったけど、今の夢で完全に思い出した。 ずっと昔の、梢ちゃんとの初めての出会い。 梢ちゃんにあげた、あの絵。 あれが、初めてのプレゼントだったのか…… 梢ちゃんのあの反応も、分かる気がする。 「……………………あれ」 ちょっと待て。 じゃあ、<あれ>は、どこに行ったんだ? 「…………もしかしたら」 これは――――いいかも。 かなり、いいかも。 梢ちゃんも―――喜んでくれる、かも。 「――――そうと判れば」 思い立ったが吉日。 そして、何より時間が無い。 今日は、3月13日。そして日曜日。 出掛けるにはもってこいだ。 何より、本番は明日なのだから。 「梢ちゃん、今日はちょっと遠くまで出掛けてくるから、帰りが遅くなるよ」 「そうですか。夕飯はどうしますか?」 「うん、夕食までには帰れると思う。僕の分も作っておいて」 「分かりました。気を付けて下さいね」 「うん、行ってきます!」 双葉台駅から上野に出て、常磐線に乗り込む。 片道90分強の小旅行。 もっとも、旅行ではないけど。 「ただいま!!」 行先は、僕の実家。 要は、帰省だった。 母さんが出迎えてくれた。 「あら、お帰り。学校はもう終わりなの?」 「うん!」 そんな母さんの言葉も話半分に、自分の部屋へ向かう。 確か、クローゼットに段ボール箱が山積みになっていたな…… 「何か探し物?」 母さんが訊いてくる。 「うん、<あれ>なんだけど、どこにあるか知らない?」 「<あれ>って……何?」 「だから、<あれ>だよ!随分前の葬式の時の……」 「ああ、あの時の。だったら、庭の物置だと思うわ。  あの頃のあなたのものは、あそこに全部取ってあるわよ」 「ありがとう!」 庭の物置に入る。 「えーと……」 物置はモノで散乱していた。 というか、段ボール多過ぎだよ…… これじゃあ、どこにあるのかさっぱり見当がつかない…… 30分ほど格闘して。 「……あった……」 ようやく、<あれ>を見つけた。 これで、よし……と。 あとは、予定を立てて…… そうすれば、梢ちゃんもきっと…… うん、出来る。 これなら出来る。 「何ブツブツ言ってるのよ」 「うひゃう!!??」 後ろに母さんがいた。 というか、立っていた。 「予定ですって?笑っちゃうわね。 あなたが予定を立ててもその通りにやった試しがないじゃない」 「う……」 まあ、確かに。 「で、梢ちゃんが何ですって?」 「え、あの、その……」 そこまで聞かれていたか…… 最近独り言が多くなったな……なんでだろう。 「ちゃんと聞いていたんだから、白状したら?」 「う…………」 自分で蒔いた種。 口は災いの元。 「わ、分かったよ……」 3月14日。 ホワイトデー当日。 梢ちゃんは学校に行っている。 その他の面々も、いつも通り。 バラさんは池に糸を垂らし。 沙夜子さんは内職しながら昼寝中。 さて……いつ渡したらいいものやら。 なんか、ムードというものもあるし。 やっぱり、いいムードのときに渡せればベストだけど…… ……我ながら、毎度毎度、妙なところに凝るな…… 「……まあ、考えた所でその通りになる訳じゃないけど」 それは、最早経験論だった。 一人で昼ごはんを食べて、自分の部屋に戻ろうとする。 「…………あれ」 おかしい…… さっきまで晴れていたのに、西の方角から暗雲がやってきている。 この分だと、そろそろ雨が降りそうだ。 それに、ちょっと寒いな…… 「…………梢ちゃんは大丈夫かな?」 折り畳み傘とか、何も用意していなかったような……梢ちゃん。 確か、1時半ぐらいには学校が終わりだったか。 「……迎えに行こうかな」 いつかの沙夜子さんの発想じゃないけど。 今から出れば、駅の辺りで拾えそうかも。 荷物も準備して。 部屋を出た所で、灰原さんに声を掛けておく。 「灰原さん、そろそろ中に入った方がいいですよ」 「ん?……ああ、天気が悪くなってきてるナ。  そうだな、部屋に戻って小説の続きを書くとするか……ありがとナ」 「いえいえ。あと、これからちょっと出掛けてきます」 「梢の出迎えか?」 「…………」 何故知っている。 あなたは腹話術だけでなく読心術も使えるのですか? 「だから、独り言が聞こえてんだヨ。気を付けろヨ、お前」 「……努力します」 昨日に続いて今日もか…… 僕の学習能力はマイナス7のようだった。    ◇ 「梢ちゃん〜、一緒に帰るです〜」 「うん、そうしよ、珠実ちゃん」 今日はホワイトデー。 世間一般では男性が女性にプレゼントする日だけど、うちの高校みたいに、 女子高では女の子同士でお菓子を交換する日だ(共学でもそうらしい)。 そこに。 「お待ちナさイ、珠実部員」 「……今日という日に何の用ですか部長〜」 やってきたのは部長さんだった。 何の用だろう……? 「今日とイう日を忘れタのデスか?今日はホワイトデーでス」 「だから何ですか〜?私は梢ちゃんと一緒に楽しむです〜」 「今日のサバトにハあなタの力が必要デス、珠実部員。  何せ、今日の議題は『白魔術』デスから……」 「いつに増してギャグもくだらないです〜」 「なラ梢部員ヲ連れテ行きマスが」 「それでは行くです部長〜」 ……珠実ちゃん? 「ねぇ、珠実ちゃん……」 「ごめんです梢ちゃん、先に帰っていてくださいです〜……」 「うん……」 そうして、珠実ちゃんは部長さんに連れて行かれた。 結局、今日も一人で帰ることになった。 「えーと、今日の夕飯は何にしようかなー……」 今日は寒いからお鍋がいいかな……みんなで食べられるし。 それなら、お肉と野菜を買いに行かなきゃ。 と。 ぽつり 「…………あら?」 雨だ………… 「どうしよう、折り畳みも持ってない……」 しかも雨が強くなってる…… 仕方なく、走ることにした。 「あー……びしょびしょ」 双葉台駅までなんとか来れた。 これから先は、ちょっときついかな…… という訳で、しばらく雨宿り。 周りを見ても、同じような人が集まっている。 「……雨、か……」 雨の日はあまり好きではない。 何となく、大切な人に会えない気がするから。 技術が発達した時代に、馬鹿な考えかもしれない。 でも。 雨は川を作る。 その川が、私と、大切な人を引き離してしまうから。 だから、雨は、嫌い。 大切な人に、会いたい。 「…………白鳥さん…………」 「梢ちゃん」 「………!!」 ◇ 「梢ちゃん、迎えに来たよ」 「……白鳥さん……」 梢ちゃんは、ちょっと雨に濡れていた。 心なし、寂しそうにも見えた。 「大丈夫、梢ちゃん?」 「……白鳥さん!!」 がば、と僕に抱きついてきた。 「……梢ちゃん……」 「暖かい……白鳥さんの、温もり……心から、温まります……  白鳥さんの、この温もりが、私、大好きです」 「……梢ちゃん……」 自然、僕も梢ちゃんを抱きしめる。 体は雨で冷えていたけど、心は温かかった。 しばらくして。 「……そうだ、梢ちゃん。渡したいものがあるんだ」 「なんですか?」 「これだよ」 僕は鞄から<あれ>を取り出す。 「……!それは……!」 「そう、あの時のスケッチブックだよ。  僕が梢ちゃんにあげた、初めてのプレゼント」 スケッチブックを梢ちゃんに手渡す。 「…………懐かしい…………そして、とても、嬉しいです……  白鳥さんの絵は、昔と全く変わらないです。  いつも、私の心をほっとさせてくれるんです……」 「気に入ってくれた?」 「はい!とても!……あら?」 パラパラとめくっていた手が止まる。 「ここから先、白紙ですね……」 「どれどれ……あ、本当だ……」 小さい頃の、梢ちゃんのイラストから先が、白紙になっていた。 どうしたものか…… 「…………それなら」 僕は言う。 「僕達の、これからの思い出を、このスケッチブックに書いていこうか?」 「…………」 梢ちゃんは、しばらく呆として、 そして、 「はい!そうしましょう!」 とびきりの笑顔で、応えてくれた。 雨の中を、相合傘で歩いていく。 「……ちょっと、寒いですね……」 「なら、僕のコートを着て」 僕は、コートを脱いで梢ちゃんに羽織らせる。 「……ありがとうございます、白鳥さん」 「うん……お」 雨が、雪に変わっていた。 この時期には珍しい、名残雪。 それは、ホワイトデーの名に相応しい演出だった。 白い恋人達は、雪の中を歩んでいく。 「……今日は、忘れられない日になりそうです」 「え?」 「だって……」 「素敵な『白い贈り物』を、二つも頂けたんですもの」 「梢ちゃん……」 「あ……二つじゃなくて、三つでしたね、『白』鳥さん」 「え……」 そう言う梢ちゃんは、この上ない笑顔だった。 ◇ 桜が舞っている。 綺麗な桜色。 僕は、縁側でイラストを描いている。 と。 「おとーさーん!!」 廊下をとてとてと歩いてくる影。 髪は梢ちゃん譲りの蒼色。 リボンで二つにまとめる、いわゆるしずかちゃんヘアー。 「どうしたの、あずさ」 「あのね、おとうさんがかいたえほんをよんでほしいの!」 「うん、いいよ」 「やったー!!」 僕の膝の上にちょこんと座るあずさ。 「これ!これよんで!」 「はいはい、わかりました」 僕はその絵本を読み始める。 「昔々ある所に、一人の若者がいました。その若者は、故郷の村を出て大きな町にやってきました。 そこで若者は、ある若いむすめに出会いました………」 あのスケッチブックは、今も残っている。 その最後のイラストには、 母としての優しさが満ちている僕の大切な人と、 可愛らしい笑顔が眩しい、僕達の宝物が描かれていた。 <>is the end... 347 名前: First Present(オマケ) [sage] 投稿日: 2005/06/23(木) 00:24:41 ID:VN5gdffF 「ねえねえ、どうしてジョニーはごはんをたべないの?」 「え……それはだナ……」 「ねえねえ、どうして?」 「………………」 「あら、あずさちゃんったらまた『どうして』が……」 「あずさちゃん、いつにも増して可愛いです〜」 「あずさちゃんにまで熱を上げるわけ〜、珠〜?」 「実はね、あずさちゃん……」 「……うふ、朝美もすっかりお姉さんね……」 鳴滝荘は、今日も賑やかです。 348 名前: First Present(アトガキ) [sage] 投稿日: 2005/06/23(木) 00:27:56 ID:VN5gdffF 最後はまったりと仕上げました。 というか、オリキャラ「白鳥あずさ」ちゃん召喚です。 イメージは、保管庫のムカシコズエです。 ttp://whitebrown.hp.infoseek.co.jp/mahoraba/CG/2_866.jpg 結構、完成度としては気に入っているかな…… なんか、久々のまったり系は疲れます。 こんなところで、もう寝ます。 オヤスミナサイ・・・・・・・