----------------- Hard Shiratori ----------------- 「えええぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?」 「そういうことです〜、あっそうそう、いくら女の子になれるからって  男子禁制の場所に入っちゃだめですよ覗き魔さ〜ん。」 そんな珠美ちゃんのいびりに反応することもできず、 僕は縁側に立ち尽くすしかなかった。 そう、何も解決してなかったのだ。 僕の体は、今更言うまでも無く、 「女っ!?」 「そうですよ〜、戻れて嬉しいですか〜?」 「そ、そんなわけないでしょ!その、その、時間は?」 「はい〜?現在午後7時35分です〜。」 素っ惚けた顔で時計を見ている。わざとだ、絶対わざとだ。 「そうじゃなくって、体が元に戻る時間は?」 「それがですね〜、現時点では分からないとしか言えないんですよ〜。」 「んなっ!じゃあなんでこんなことするの!!」 「御心配なくです〜。今の適当な呪文の掛け方なら  おそらく1時間と持たないです〜。」 「え、そうなの?」 ホッとした、脚が萎えそうなくらいの安堵感が体を包む。 それにしてもいつもながら悪質ないたずらを…、これじゃ男のプライドが…。 いや、今は女だけど(泣;; 「あれぇ〜白鳥クン、元に戻った早々また変身してんのー?  実は結構気に入っちゃってんじゃないの?」 うげっ、桃乃さんに見つかってしまった。 さっさと部屋に隠れてればよかったものを。 「何言ってるんですか、変な事言わないでくださいよ。」 「いいのよ、いいのよ。たとえどんな趣味を持っていようと 私は白鳥クンの味方よ♪」 「そうです〜、さっさと認めちゃいなさいですぅ〜♪」 う゛う゛〜ヒトノハナシキイテマスカー?;; 「じゃあさ、ついに女であることに目覚めた隆子ちゃんの為に   おねえさんがプレゼントしちゃうわ。」 そう、嫌な予感はしていたのだ。桃乃さんの右手に持つバッグはおそらく… 「あ、あの〜、プレゼントっていったい…」 「いざ参らん皆の衆〜。」 「合点承知の輔!ですぅ〜。」 といつもの如く連れ去られる僕。なんで断れないんだ〜。 「も、桃乃さん、それでプレゼントというのは?」 場所は移って桃乃さんの部屋。 「じゃじゃ〜ん、女の子の武器、コスメグッズでーす。  これほどの逸材、捨て置いておられやしょうか?」 「うむ、この展開でお化粧とはまさに王道。腕を上げましたな桃乃守殿。」 「かたじけのうござる。」 「い、いやだと言ったら…?」 「珠ちゃ〜ん?」 「分かりました分かりました、って、うはっ…ぷっ。」 「ちょっと目ェ閉じてて〜♪」 それから15分弱ぐらいだろうか、桃乃さんは最初のノリとは打って変わって 真剣な眼差しで僕の顔を弄くってる。 それを目の前にして寝るわけにもいかず、 かといって、にらめっこするわけにもいかない。 どうにも歯痒い状態が続いた、というか鼻が痒い、掻けない… 「できたっ!うーん我ながら中々…。」 「出来が良いのは素材に因るところ大ですぅ〜。」 その珠実ちゃんは何故か後ろ向きに座っている。 「あれ珠実ちゃんどうしたの?」 「お楽しみは最後に取っておきたいんですぅ〜、  それにお化粧中のレディーを見るのは失礼ですからぁ〜。」 ぐっ、何か一言いわなきゃ気が済まないのかこの娘は… 「じゃあ、拝見いたしましょう〜。」 「はいどーぞ。」 くるんと座ったまま半回転する珠実ちゃん、そして 「ほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…」 「・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・」 顔の穴という穴を真円にした状態で固まってる。 普段はまず、お目に掛かれない表情だ。 「どう?惚れちゃったかなお珠さんや。」 「なっ!何を言うですか、私と梢ちゃんの愛の絆は  そんなにヤワなもんじゃないですー!」 「ふふっ、随分と慌てるじゃない  それに梢ちゃんとの事なんて誰も聞いてないわよ〜。」 「う…くっ…か、勝手に言ってるですー!!」 とまあここまでは良いけれど(良くないって 普段滅多に動じることのない珠実ちゃんの あの反応には、流石に一抹の不安を感じる。 一体何に対しての不安なのかは分からないけれど… けれど確かめなくちゃならない。自分が果たしてどうなっているのか。 それが必要となる時が近い将来、いや、すぐに来る。 恐る恐る鏡を覗いてみる、なんか既視感を感じるなぁ。 「!!!!!?????」 「どう、驚いた?それが白鳥隆子、  あなたの姿よ。」 なんだか桃乃さんは得意げだった。でもその気持ちも分からなくない。 正直に言って化粧ひとつでここまで変わるなんて… 珠実ちゃんはあんな風に言ったけど 桃乃さんって凄い人なのかも知れない…。 …それにしても…この感覚は何なんだろう… さっきからまともに自分の顔を見られないでいる。 まるでそうすることが罪であるかのように……。 ……僕と梢ちゃんは…男と…女で… …でも僕は時々…女になって…… …女の時の僕は…梢ちゃんよりも…もっと…もっと… って、何考えてるんだぁ〜〜〜!!!! (いいじゃないか、自分に素直になれよ。) 駄目だ。僕には梢ちゃんという大事な人が、 守らなくてはいけない、守っていきたい人がいるんだっ! (何言ってるんだ?オマエの顔だろう、何を躊躇う?) 駄目だ、駄目だ、だめだ、だめだダメダダメダダメ 「ダメだぁーーーー!!!!!!」 「うわぁ、どうしたの白鳥クンっ!」 「…どうせ自分の姿みて変な事考えてたんですぅ〜。」 ……悔しいけどその通りだった… 思わず珠実ちゃんを睨んでしまう。 珠実ちゃんはそんなものは一向に意に介さない。 いつのまにかペースを取り戻してる。         「ん〜、白鳥クンなんかオカシイわね……  こんな調子で大丈夫かしら?」 「さぁ〜、ど〜でしょ〜?でも中止したら  あの人達、怒りますよ〜?呪われますよ〜?」 「う、確かに。……う〜、考えててもしかたない。  こうなりゃ自棄だっ!良薬口に苦しっ!!」 「オーイエー、結果オーライ、イッツ・オーケー!」 も、もうちょっと考えてください〜〜〜;;; 「バンッ!!!」 案の定、二人によって扉は開かれた。 そしてその奥にいたのは、当然のごとく 鳴滝荘の住人たち。 灰原さん 沙夜子さん 朝美ちゃん そして、 ジョニー じゃなくて、 梢ちゃん  《梢ちゃんっ!?》 「おに、じゃなかった、おねえちゃん、すごおい・・・・・・」 「……眩しいわ…」 「これが白鳥だってえのか?信じられねえゼ。」 そんな言葉達は、すべて意味を成さずに記憶の海に埋没していった。 僕に見えるのは梢ちゃん、君の顔だけ。 いや違う、まるで金縛りのようにそこから視線を逸らせられない! 部屋の入り口に立つ君と僕の隔たりは、ごくわずか。 君の表情一つ一つがありありと見えてしまう。 君は僕を見てどう思うだろうか? 不安?嫌悪?怒り?嫉妬? その口から僕を串刺しにする言葉を放つのだろうか? そんなこと僕には耐えられない! 逃げればいい!逃げるんだ!でも動けないっ! あ・・・梢ちゃんが何か…僕に話し掛けてる!! 聞くんじゃないやめておけどうなってもいいのか引くなら今だぞさあ早く・・・・・・・          《ウルサイッ!》 「・・・・・ら・・さ・・・れ・・・・・」 え・・・・なに・・なんていってるの・・・? 「・・・・しらとりさん、きれいですよ・・」 えっ・・・・それ・・・だけ・・・・・・? 「本当に、びっくりするぐらい綺麗ですよ・・・」       だーーーーーーーーー;;;;;; 「うわっ、いきなり泣き出したぞーコイツ。」 「お、おかあさん!なんでおに、じゃなくておねえちゃん泣いてるのー!?」 「・・・大人になると、泣きたい時もあるのよ・・・」 「こ、梢ちゃん、あ、あのこれはね、今変身しちゃってるのはあのその珠実ちゃんがね  あのその別に好きでなってるんじゃなくて、そのメイクもえーと桃乃さんがっ!  確かにその、鏡を見て変な気持ちになったけど、僕は・・・僕は・・・」 「大丈夫ですよ。」 「え・・・・・?」 「私はそういうところも全部含めて、白鳥さんが大好きなんです。  …ですからそんなに不安な顔をして、泣かないで。」 気が付くと僕は走り出して梢ちゃんに抱きついていた。 梢ちゃんに抱かれて、その胸の中で僕は咽び泣いた。 もう涙で顔はグジャグジャだ。 最初は戸惑っていたみたいだけど、梢ちゃんはやさしく僕の頭を撫でてくれた。 そう、梢ちゃんは僕がこんな体になった時も、 いやな顔ひとつせずに受け止めてくれたじゃないか。 それなのに僕は・・・・・・。 梢ちゃんを守るだなんて・・・・・・・・守られてるのは僕の方じゃないか! 「落ち着きました?」 「・・・・・・うん、ありがとう。」 「それは良かったです。」 僕はゆっくりとその体を離した。 「・・・梢ちゃんっ、最近の僕は君に心配ばかりかけて  本当にダメダメで・・・。でもこれからは君を守るために…」 僕が言い切る前に梢ちゃんは言った。 「白鳥さん、私は白鳥さんに出会えて本当に幸せなんですよ?  白鳥さんは私の人生で抜け落ちていたモノを埋めてくれたんです。  私はもう、白鳥さん無しでは生きられません。  そばに居られるだけでいいんです。  そのためなら、たとえどんな事があろうと耐え抜く自信があります。」 僕は驚いた。それは今までに見たことがない、凛とした顔だった。 しかしそれは決して冷たい表情ではなかった。慈愛に溢れていた・・・。 梢ちゃんの言葉が沁み込んで来る。 普段の僕たちなら、はにかんでしまう所だけれど、 今はしっかりと見詰め合っている。  僕達はもう一度抱き合った、 今度は互いの体温を確かめるように、優しく・・・・・・。 「・・・・・・白鳥さん。」 「・・・なんだい?梢ちゃん。」 梢ちゃんは俯き気味で恥ずかしそうに言った。 「先ほどはあのように言いましたけど・・・・  あのお顔は・・・  ・・やっぱりちょっと妬いてしまいます・・・あ・・んっ・・!」 堪らなく愛しい気持ちを伝える手段はこれくらいしか無かった。 今までのどんなキスよりも・・・長く・・・熱く。 「それにしてもなんだってメイクしたくらいで  あんなに取り乱してたのよ白鳥クンは?  梢ちゃんなんかより、よっぽど危なっかしいじゃない。」 「仕方ないです〜。今は体の変化に心がついていけてないんです〜。  私もまさかあそこまで白鳥さんが参っているとは思いませんでした。  反省してますぅ〜。」 「ほーぉ、いつに無く殊勝な態度ねェ、珠ちゃん。  やっぱり隆子ちゃんに惚れたわね?」 「マ゛ー、またそれですかぁ〜?」 「珠ちゃんも結構な面食いねぇ、梢ちゃんといい隆子ちゃんといい。」 「勝手な推測で決め付けないでくださいですぅ〜。」 「いっそのこと二人とも愛しちゃえば?そうすればハッピートライアングルが生まれるわよ?」 「・・・・・・・・・・」 「・・・今ちょっと悩んだでしょ?」 「う、うるさいですー!そんなことあるわけないでしょー!!」 「あははっ!今日の珠ちゃんはカワイイわね〜。」 「(うぬっ、この借りはいつか返してやるです〜。)」 「あの二人まだやってんの〜?白鳥クンも頑張るわねー、  って、あれ?いつのまにか元に戻ってるじゃない白鳥クン」 「あ〜ほんとです〜、時間切れですねぇ〜。  予想よりもだいぶ早いですぅ〜。」 「おう珠さんや、今日はカワイイだけじゃなく気の利いた事するじゃない?」 「知らないですぅー、あんな呪術をコントロールできるほど  人間辞めてないですぅー。」 「え、本当?」 「それはどういう意味ですか〜?」 「じゃあ、考えられるのは・・・」 「梢ちゃん・・・ですね・・・。」 「珠ちゃん・・・。」 「いいんですぅ〜、もう分かってることです〜、  梢ちゃんの気持ちはもう動かせないですから。  それにこう毎度毎度見せつけられると、しんみりも何も無いですぅ〜。」 「・・・そこで隆子ちゃんを」 「だ〜が〜ら゛〜、その話題から離れるですぅ〜!」 ぷっ!   くすっ! この時の珠美ちゃんが、心から笑えたとは思っていない。 彼女から梢ちゃんを奪った僕が言うのもなんだけれど、 珠実ちゃんには笑っていてほしい。 梢ちゃんの笑顔は、珠美ちゃんの笑顔あってのものだから・・・。 「おい、おめ〜ら、アタシの白鳥を随分可愛がってくれたみたいだな。  ちょっと来て貰おうか。」 「早紀ちゃん、もういいんだって!僕はもう大丈夫だし。」 「おわっ!こ、梢ちゃん、いつの間に?って、え、早紀ちゃん? (げ、なんか目が怖い・・・珠ちゃん、ひょっとして早紀ちゃん相当怒ってるのかな?)」 「(ひょっとしなくても相当怒ってるです〜。白鳥さんチクリましたね。)」 「(チ、チクるなんてとんでもない!ありのままを言っただけだよ〜;)」 「さあ早く来いっ!!」 「「うひぃぃぃっ!!!」」              【おわり】 820 名前: 684 [sage] 投稿日: 2005/06/14(火) 01:52:08 ID:zpIF+ZsM 最初はギャグでいこうと思っていたんですが、 白鳥君が暴走してしまいこんな感じになってしまいました。 まあなんとか纏められたんで良かったです。いい経験になりました。