-------- M.I.W. -------- 今年も、間もなく終わろうとしている。 今日は、珠ちゃんと二人で買出しだ。 珠ちゃんは梢ちゃんと行きたかったみたいだけど、たまたま用事があったみたいだ。 梢ちゃんも女子高生とはいえ、鳴滝荘大家。 年の瀬にもなれば、色々な雑務があるのだろう。 本当、大変だな… 出来ることなら、白鳥クンとの青春を目一杯楽しませてあげたいんだけど… 買い物からの帰り道。 「麺 麺 カロリー麺〜 戦車に ちゅーじゅーぱっちゅ   モードが しっくりばっちょん…」 「桃さん、何ですかその変な歌は」 「ネットでちょっとばかり話題になっててね、それが結構印象に残っちゃって…」 「どうでもいいですけど、日本語になってないです」 「そりゃそうよ、これは韓国の歌だもの」 「…はぁ?」 「気分がいいから、つい歌っちゃった。ホント、今日はついてるし」 そう、今日は物凄くついている。 前々から欲しかったDVDが上手い具合に安売りになっていたし、 手に入るとは思わなかった絶版モノを掘り当てたと来れば、これを 「ついている」と言わないで何と言うんだろう。 今日は、いい事が二度もあった。 二度あることは三度ある。 さて、三度目には何が来るのやら… 「珠ちゃん、この曲聴いたことない?結構耳に残るよ」 「私は梢ちゃんラブですから、そんなワケのワカラナイ曲に興味はないです〜」 「そっか…残念だわね…  母ちゃん 母ちゃん 目医者は嫌よ アップの提灯で 猿がチャチャチャ ヘイ…」 しょうがないので、また口ずさむことにした。 ダンス系の曲で、中々のアップテンポで私は好きなんだけどな… 今度、聴かせてあげようかな… 「とにかく、早く帰ろうか。梢ちゃんも大変だから、手伝ってあげなきゃ」 「です〜」 一応大掃除は終わったが、それ以外にもやる事はたくさんある。 面倒事はさっさと片付けて、大晦日は紅白をのんびり見なくちゃ… 見慣れた道に入る。 そこの角を曲がれば、もう鳴滝荘だ。 いつもの賑やかな家族が待っている。 いつものように敷地に入り。 いつものように、勢い良く玄関を開ける。 「たっだいまー!」 それが。 これから始まる悪夢の、第一章だった。 玄関を開けてまず、血の臭いが鼻を突く。 女子ならば誰でも慣れてはいるが、これは、量が多い。 「…な、なんなの、これは…」 不安と焦燥に駆られながら、私達は廊下を進む。 どうやら、三度目は、なさそうだ。 そして、突き当たったところで。 黒崎朝美。 黒崎沙夜子。 灰原由起夫。 白鳥隆士。 私と珠ちゃんは、四人の死体を発見した。 朝美ちゃん。 胸を一突き。 ピクリとも動かない。 沙夜ちゃん。 腹を抉られている。 血が、まだ流れ出ている。 バラさん。 手足をもがれている。 ジョニーも、そこに転がっている。 出血多量。 そして、白鳥クンは―――― 「―――白鳥クンっ!!!」 白鳥クンは、まだ生きていた。 文字通り、虫の息だ。 お腹の出血を辛うじて押さえているが、それでも血が流れ出る。 「白鳥クン、大丈夫!?何があったの!?ねぇ!?」 「桃乃、さん…ワケの分からない、物体が、空から、やって、きて…  僕達を、ことごと、く、倒して、いって…こずえ、ちゃ、を…」 「もういい!しゃべらないで!出血が止まらない…」 「…もう、いいん、です…もも、の、さ…」 白鳥クンは、それでも喋り続ける。 「ももの、さん…たま、み、ちゃんに、伝えて、下さい…  僕は、梢、ちゃ、を、守れ、なかった…約束、を、守れ、なくて、ゴメン、と…」 そこまで言って。 何があったかを私に伝えて。 白鳥くんは―――息絶えた。 「―――白鳥クン!白鳥クン!目を開けて!白鳥クン!」 何度言っても、白鳥くんは目を開けなかった。 「―――桃さん」 後ろから、珠ちゃんが話し掛ける。 「―――どうしたの」 「梢ちゃんが―――」 「梢ちゃんが―――どこにもいないです」 「―――ええ、アタシも、今さっき、白鳥クンから聞いた」 「ですか…」 白鳥クンとのやりとりを、珠ちゃんにも話す。 「…白鳥クン、最後に珠ちゃんに謝ってたわ…梢ちゃんを守れなかったって。  でも、こんなんじゃ、誰だって、梢ちゃんを守れないのは目に見えているのに…」 ワケのワカラナイ物体。 思い当たる節は――ない。 「ここまでするなんて―――人間業じゃ、ないです。  こんなことをするのは、悪魔か―――あるいは」 「―――あるイは、地球外生命体デスよ、珠実部員」 そこには。 青短高オカルト部の部長がいた。 「…部長…どうしてここに…」 「前々カラ、少しこノ辺の様子ガ変だっタのデスよ。  周囲を調査しテいたら…ここニ、辿り着キましタ」 部長さんは続ける。 白鳥クン達の亡骸には、目もくれず。 「梢部員は、彼ら―――異星人の標的ダッタのデスよ、珠実部員」 「!?…なぜ、梢ちゃんが…」 珠ちゃんの顔はみるみる青ざめていく。 予想もしない事実に。 「それハ」 部長さんは言った。 「―――梢部員ガ、多重人格だからデスよ」 「―――な」 なぜ、そのことを。 珠ちゃんはそう言いたかったのだろう。 でも、それは出来なかった。 部長さんは、手を上げて珠ちゃんを制す。 「ドウやら、お客サンのようデス」 私達は後ろを向く。 そこには――― 中庭には、人の形をした、異形が立っていた。 それも、複数。 「―――な、なによ、あれ」 私は、ようやく口を開く。 姿形は人のように見える。 しかし、その顔に表情は無い。 まるで、粘土で作った人形のようだ。 何よりもまず、そう思った。 「オマエラ、ナニモノダ…?」 「…<リーズヘクテ>デハナイナ。デハ、キエテモラウ」 「<リーズヘクテ>デハナイモノハ、キエロ」 彼らは、否、あいつらは、私達に向かって歩いてくる。 否。 それよりも早く、珠ちゃんが飛び出していた。 「――――珠ちゃん、待って!!!」 「うわあああああああああああっっっ!!!」 珠ちゃんが、一気に庭へ飛び出す!!! 普段の珠ちゃんとはかけ離れた、疾い動き。 一跳びで、奴らの目前に躍り出る。 そこからは、珠ちゃんの独壇場。 「だあああああああああああああああ!!!!!!!  よくも…よくも梢ちゃんを!!!!!」 それは、珠ちゃんだけの舞台に思えた。 奴らは…次々に薙ぎ倒されていく。 目にも、留まらぬ速さで。 ある者は首を落とされ。 ある者は腕を引き千切られ。 ある者は胴体と四肢を分離させられ。 そしてそこには、肉塊が生まれた。 何体分とも分からない、肉塊が。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」 一方の珠ちゃんは、一応、無傷だった。 それでも、相当に疲れている。 それもそうだろう。 相手は、少なくとも人間ではない。 そんな訳の分からない物体相手に……何が、出来るというのか。 「よくも、よくも、梢ちゃんを……」 珠ちゃんは、また呟く。 そして。 その言葉に反応するかのように。肉塊が動き出した。 「―――え」 それは、私と、珠ちゃんが発したものだった。 それは――みるみるうちに、先程の人形に戻っていく。 「―――ナンダ、オマエハ」 「ナンナンダ、ソノツヨサハ」 「ナゼ、アノ<リーズヘクテ>ニシュウチャクスル?」 「梢ちゃんは――私の全て。だから、私は全力を以てあなた達を倒す」 「ムリダ」 彼らは断言する。 「オマエニオレタチヲタオスコトハデキナイ」 「ドウバラバラニサレテモ、マタモトノカタチニモドル」 「――そん、な」 最後通牒を突きつけられたような、感じ。 珠ちゃんは、力無く、その場に座り込んだ。 「ジャマモノハキエテモラウ」 「ジャマモノハキエテモラウ」 そして、彼らが歩み寄る。 珠ちゃんに、とどめを刺そうとするために。 「待ちなサイ」 そう言ったのは、こともあろうに、部長さんだった。 奴らが現れてから、沈黙を保ち続けていた部長さんが、口を開いた。 「―――ちょ、ちょっと、これは遊びじゃないのよ。  あんたの魔女ごっことはワケが―――」 「―――私ノ黒魔術ヲ、舐めナイでくだサイ、あばずれさン」 「………」 いや―――そこで、その呼び名はやめて欲しい。 やめて欲しい、けど――― 部長さんは、前に出る。 「――ア?」 「―――アリスト」 部長さんは、何かを呟く。 右手を差し出して。 水晶玉を、その手のひらの上に持って。 「アリスト・エル・デール・ヒョイル・ダスティ・マリーズ・ミルトゥ・シーズ・  ノアール・スクリー・バルク・ガシルトゥス・コモナス・バビーク」 これは…詠唱? 何かの魔術の、詠唱だろうか。 しかし、効果が目に見えている。 彼らは…動けないでいる!! 「…オマエ、ナニヲシタ?」 「ソレハイッタイ、ナンナノダ?」 彼らの問いに構わず、部長さんは続ける。 「グラン・ジョンミン・メイル・ヨギ・シンジ・クミンガ・サラン・テリーガ・  エロイム・ウラーム・マロイム・ラクルム・サンウ・ベッカ――――――」 「――――アゾルト!!!」 その瞬間――― 彼らは、爆発した。 爆風に目が眩む。 「――――――――――!!!!」 何も聞こえない。 聞こえるのは爆音だけ。 そして。 そして、爆風が収まった。 「―――ふう」 た…助かった。 殺し屋ブラザーズ以来の危機だったような… とにかく、生きている。 それだけは、確か。 一方、中庭に目を移す。 そこには、辛うじて生き残った、奴らのうちの一体がいた。 その他は、どこにもいない。 「ガ……………グ…………」 今にも、死に絶えそうだ。 しかし。 「―――あなタに、訊きたイ事ガありマス」 部長が、中庭に降りる。 そして、生き残りに問い掛けた。 「―――あなタがたノ言う、<リーズヘクテ>とハ何でスか」 「―――カミダ。<リーズヘクテ>ハ、フクスウノカオヲモツソンザイダ。  ワレワレハ、コノホシニソンザイスル<リーズヘクテ>ヲシラベテキタ。  ソシテ、コノバショデ、サイコウノ<リーズヘクテ>ニデアッタ」 「―――梢部員を、どうスル気でスか」 「アレハ―――ワレワレガモライウケ、センノウスル。アレニハ―――」 「ワレワレノミライヲサユウスル、カギガ、アル――――」 そこまで言って、奴は絶えた。 そして、砂となって消えた。 「――<複数の顔ヲ持ツ存在>―――<リーズヘクテ>、でスか」 部長さんは呟く。 「―――すごいのね、今時の魔女ごっこって」 「これハ『ごっこ』でハありマセン。殺戮を目的とシた―――正真正銘の魔術デス」 「そんな、ことが、ある、ワケ…」 いや―――実際、あるのだろう。 私は、嘘臭い事は信じない。 でも。 これは。 どう考えても、嘘ではない… それは、結果として、そこに存在している――― 部長さんは、珠ちゃんに歩み寄る。 「何をしテいるノでスか、珠実部員」 「……部長……」 「梢部員ヲ、助ケルのでハ、なイのデスか」 「……私は……無力だった……」 無力。 力が無いこと。 何も、出来ないこと。 「……悔しクは、なイのでスか、珠実部員」 「……え……?」 「梢部員ヲ奪ワレ……大切な人達ヲ殺サレ……ソシテ、」 「あなタの大切ナ場所ヲ汚サレて、悔しクは、なイのですか」 鳴滝荘。 私達が、偶然、出会った場所。 でも、それが偶然でも。 私達は、その偶然を大切にした。 たくさんの喜びや、苦労を、共にした。 私達は―――家族。 鳴滝荘に一緒に住む、大切な、家族。 「―――私は、悔しい、です」 「はイ」 「私達の大切な場所を―――汚されて、とても、悔しいです」 「はイ」 「だから―――私は、梢ちゃんを、取り戻します。  部長も―――協力してください」 「最初かラ―――そノつもリデスよ、珠実部員」 「桃さんも―――やってくれますよね?」 珠ちゃんは、私を見る。 その眼には、決意があった。 覚悟を決めた、眼。 その想いは―――私も、同じだったから――― 「―――当たり前でしょ。梢ちゃんを、取り返さなくちゃ」 「―――です!」 私達は。 奴らに、宣戦布告する。 梢ちゃんを、取り返すために。 大切な人を―――取り戻すために。 白鳥クン達の亡骸は、一応7号室(空き部屋)に移動させて置くことにした。 今すぐには葬式も出来ない。 なんだか、可哀想だけど……これしか、処置は、ない。 「本当に……何なんだろうね」 「何ガですカ?」 部長さんが訊ねてくる。 「何で……白鳥クンは、皆は、殺されなくちゃいけなかったワケ?  何をした訳でも、ないって言うのに……」 「…………」 束の間の沈黙。 暫くして。 「……私ハ、あなた達ガ少シ羨ましイのデスよ」 「……え……?」 何を、言い出すんだこの娘は。 でも、羨ましいって? 「私ハ、それなりニ裕福ナ家ニ生まれましタ。おかゲで、好きな事モ自由ニできまシた」 「……へぇ……」 「でモ、家族の愛なんテものハ、そこでハ見せ掛ケに過ぎマせんデした」 「……見せ掛け……?」 「あんナ、私の成績しカ見なイ親なんテ、親でハありマせンよ」 「………………そうだったの………………」 人には誰にも過去がある。 私にも過去がある。 人生いろいろ。家もいろいろ。家族もいろいろ。 「そノ点、あなタがタの住む鳴滝荘がとてモ羨まシかっタでス。  実際にハ血も繋がラなイ人達が、家族のヨうな付き合イをしテいる。  私ハ―――トても、羨まシかっタ」 「……」 魔女っ娘って、あまり恵まれていないのね…… 半ば当然かも知れないけど。 「ところで部長〜」 「なんデすカ、珠実部員」 「どうして、梢ちゃんの<病気>を知っていたんですか」 珠ちゃんは―――半分、絶望したような顔で部長さんに訊く。 梢ちゃんの病気―――梢ちゃんの多重人格を知っているのは、他ならぬ鳴滝荘の面々だけ。 何故なら――― 『その事実』が漏れるのを、珠ちゃんが防いでいたから。 「伊達にあなたヨリ長ク生きてイなイのデスよ、珠実部員。  梢部員ガ、多重人格でアる事は―――私の情報網かラ、把握しテいまス」 「―――そん、な」 珠ちゃんは、愕然としている。 己の無力さに。 「いツか言いマしタよね―――世の中ハ自分のモノサシだけでハ測れナい、と。  それト同じ論理デ―――世の中ハ、意外と広いものデすヨ。  あなタは自分ノ能力を過信しテいタようデスが……  完全ナんテ、有り得なイ話でスよ、珠実部員」 「………………」 井の中の蛙大海を知らず。 珠ちゃんは押し黙っている。 何を考えているのだろうか。 「…………自分ノ能力が足りテなイと考えルのハ莫迦ガする事デすヨ、珠実部員。  それニ、今はそんナ事をしテいる場合でハないデしょう……」 「……分かって、います、けど……」 「今ハ梢部員ヲ取り戻すのガ先デす」 「………はい………」 「………ハぁ………あなタらしクありませんネ、珠実部員。  アナタには、いつモのようナ覇気のあル珠実部員デいテモラいたいモノでス。  でナいと、梢部員に会っタ時ニ心配シますヨ?」 「………」 無言の珠ちゃん。 そして、顔を上げて。 「アナタに言われずとも分かっていますです〜、この陰湿陰険ドロドロ魔法ヲタ〜」 「……ヲタ……!?  アア……そノ嫌ナ響キ、最高でス……モット、もっト私ヲ罵っテ〜」 「このスレにエロが戻ってきたのもあなたのせいです〜、エロエロ将軍〜」 「エロ……!?あァ、スゴい、心の底かラ震エ上がりソう……  あまりノスゴさにモう私昇天しテしまイそウデス!!!!!」 「あの〜、昇天しそうな所悪いんだけど」 というか、<このスレ>って何の話よ? 訳が分からない…… 「それより、ここを早く出なくちゃ。ここにいても、梢ちゃんは救えないわよ」 「そうです〜、早く行くです〜」 珠ちゃんは行く気満々になっている。 これでこそ、茶ノ畑珠実。 「そうデすネ……でハ、行くコトにしマすか……」 部長さんも、意を新たにする。 「……でも、どこに行けばいいの?」 「それはどこでしょうねぇ〜……?ねぇ部長〜?」 珠ちゃんは部長に振る。 「……ドコ、でスって?そんナの、決まってマす」 何を今更、という風に部長さんは言う。 「新宿ニ、決まっテいルじゃなイでスか」 地元の双葉台駅から電車に乗って、新宿へ。 電車と言っても、数駅分の距離だが。 そして、午後7時。 私達は、新宿中央公園にいる。 「……でも」 私は部長さんに訊く。 「どうして、新宿なワケ?」 「……新宿にハ、JRモ含めテ、多数の路線が走っテいまス。  都内でモ似たよウな場所ハ多数ありマスが、その中でモ新宿は際立っテいまス」 「際立って、ねぇ……」 確かに、沢山電車はあるけど…… でも、ねぇ。 「それだけでハありまセン。新宿と言う駅ハ、日本で一番利用客ガ多い駅デス。  そこが―――――彼ら、異星人のターゲット」 「……そういう訳ね」 「なんだか、いつもより格好良いです部長〜」 「……格好良いナド」 部長さんは首を振る。 「・・・…いくら私ガ悪魔崇拝者(サタニスト)とハ言え、この地球が無くなっテは、  元も子モ無いでスから……デスから、私も戦いマス」 「そうよね……」 彼らは何なのか、分からない。 目的が何なのかも分からない。 でも。 私達は、梢ちゃんを取り戻さないといけない―――――― 「あア、ソウでした」 部長さんは手に持っているクマの人形から、何かを取り出した。 「珠実部員、あばずれサン、これヲ」 ただの木の棒切れだった。 しかも小さい。 むしろ木片と言った方が正しい。 「………………」 「何疑るようナ目デ見るのデスか」 「だって、これ、どう見たってカケラでしょ?」 「ただのカケラでハありまセン。ちゃんとシた武器デス」 「……武器?」 ―――冗談じゃないわよね? 「戦う時ニ、念じテくだサイ」 「……念じる?」 「梢部員を救イたい、この地球ヲ守りたイ、ソう強く願っテくだサイ。  あなたニ合った武器ニ変化しまス」 「……」 そんな、莫迦みたいな話が。 でも。 あれを、見た以上は――――― 恐らく、本当の話だ。 「…………分かったわ」 「珠実部員モ、良いデスか?」 「オ〜イエ〜」 時刻は午後7時。 陽は既に落ちている。 そして、雨が降ってきた。 新宿の空に浮かぶ、無数の光る物体――――― 「……来まシたネ」 「……ええ」 「です〜」 そして。 光る物体から、無数の異形が現れた。 私は念じる。 私は、梢ちゃんを、救い出す――― 鳴滝荘のみんなの仇を、取る――― そして、 そして、この地球を、守り抜く――――― 木の棒の感触が消える。 そして、私の両手に現れたのは――― 一丁の、拳銃だった。 … …… ……… ………… これで、戦えと? 「―――ふざけるんじゃないわよ」 呆れて、力が抜けた瞬間――― 間違えて、トリガーを、引いてしまった。 「……あ」 でも。 銃口から出たのは、弾丸ではなくレーザーだった。 轟音を立て、次々に異形が薙ぎ倒されていく。 「………うへぇ」 「中々やルじゃあないデスか、あばずれサン」 「……まぁね」 部長さんの手には、いつの間にか、杖が握られている。 杖の頭の部分には、白い水晶―――確か、未来水晶だったか―――が付けられている。 珠ちゃんは、両手に蒼い炎を持っている。 これも、魔術の賜物なのだろう。 「―――でハ」 部長さんは杖を掲げて、高らかに宣言する。 「それデハ、異形狩りヲ始めマス」 異形の軍団が私達へやってくる。 その動きは、まるでゾンビのようだ。 私は、その軍団に向けて、銃を発射する。 光の光線。 異形が吹っ飛ぶ。 一つの軍団が、あっという間に無くなる。 「うふふ、まるでゴミのようだわね―――」 ここまで来ると、最早快感に近いものがある。 戦争における、一種の麻痺状態のようなものなのかもしれない。 「―――アゾルト!」 「とあーーーー!」 部長さんも、珠ちゃんも、それぞれの得物で奴らを薙ぎ倒していく。 でも。 奴らは、次から次へとやってくる―――― 「―――ちょっと!きりがないじゃない!」 「耐えルのデス!反撃のチャンスを待ツのデス!」 「待つと言っても、いつまで待てばいいn…………」 そこまで言って、珠ちゃんは言いよどんだ。 そして、呆けたように、上を見上げる。 私も、部長さんも、上を見る。 そこには。 梢ちゃんの、姿があった。 「―――梢ちゃん!」 「梢部員!」 宙に浮く梢ちゃんは、眠っているかのようだった。 その瞳は閉ざされている。 いつ見ても変わらない、端正な顔立ち。 しかし、その顔に温かさは無かった。 そして、空中にいた梢ちゃんは、地面に着いた。 相変わらず、眼は閉じたままだ。 「――――梢ちゃん」 珠ちゃんは叫ぶ。 「梢ちゃん!今助けるです!」 珠ちゃんが走り出す。 「ちょっと、珠ちゃん!待って!」 私が叫んでも、珠ちゃんの耳には届かない。 両の拳を振るって、異形を薙ぎ倒し。 梢ちゃんのもとへ、疾る―――! 「梢ちゃーーーーーん!!!!」 と。 梢ちゃんの眼が開く。 その瞳は、虚ろ。 赤でも金でも緑でも紺でも蒼でもない―――黒。 底の無い―――暗黒。 梢ちゃんは珠ちゃんを見て。 少し、笑ったような顔をして。 少し、悲しそうな顔をして。 口が開く。 「―――キエロ」 どす。 珠ちゃんの腹に、梢ちゃんの腕が貫通した。 そしてそのまま、投げられる。 珠ちゃんは大きく弧を描いて、 どしゃり 地面に打ち付けられる。 私は、一瞬呆然としていた。 あれが―――あれが、梢ちゃんなのか。 梢ちゃんにあれほどの力があるはずがない。 そして、あれが人間なのか。 刹那。 「珠ちゃーーーーーん!!!!!!」 「珠実部員!!!!!!」 私は珠ちゃんに駆け寄る。 お腹から、酷く出血している。 貫通しているせいもあって、止まる気配は無い。 「大丈夫!?珠ちゃん、しっかり!!」 「―――――桃、さ」 「喋らないで!傷口が―――」 「もう、いいん、です」 「―――珠、ちゃ」 「私は、梢ちゃんに敗けた。あの、梢ちゃんに、です、よ?  私が、こうなる、のだか、ら、もう、誰も、梢、ちゃ、を、止めら、な―――」 「―――珠ちゃん」 私の声が震えている。 「でも、桃、さ、なら、梢、ちゃ、を、止め、られ、る………  だから、桃、さ―――」 「後は、任せましたです――――――」 珠ちゃんは、そのまま息絶えた。 蒼葉梢。 茶ノ畑珠実。 天下無双の友情を持っていた。 8年間の交流。 それは、どんなモノにも代え難いものだったはずだ。 それが。 それが、こうなるなんて―――― 私は――――― ワタシハ、ミンナニ、ドウスレバ――――――― 「珠あああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」 雨の新宿に、私の悲鳴だけが木霊した。 「…………にゃ」 ……あれ。 寝ていた―――のかな? どうも、炬燵の上に突っ伏していたらしい。 テレビでは、女子アナが年末の商店街のリポートをしている。 ――どうも、記憶が確かじゃないわね。 頭を上げて、ふと周りを見渡す。 そこには。 ミカンをもぐもぐ食べる沙夜ちゃんと。 珠ちゃんがいた。 「―――あれ?どうし―――」 「勝手に人を殺さないで下さいです〜」 … …… …………え? 「………ちょ、珠ちゃん、何で私の夢を知ってるの」 「部長に『他人の夢の見方』を教わったです〜。  つまらないものかと思いましたが、中々有用なものでしたね〜」 珠ちゃんの口振りは、明らかに怒っている。 ……ナンカ、イヤナ、ヨカン…… 「さて、夢の中で人を勝手に殺すような人には、少し制裁を加える必要があるです〜」 「ちょ、ちょ、珠ちゃん、待って、日本国憲法には精神の自y――――――」 「ギニャーーーーーーーーーーー!!!!!」 「ええのんか〜、ええのんか〜」 それは、年の瀬に見た、世にも奇妙な夢でした。 <>is the end? 47 名前: M.I.W.(ザンゲノアトガキ) [sage] 投稿日: 2005/06/19(日) 00:11:03 ID:TOXIkjd4 30…… 全部で30…… 長かった……orz ええ、もう何とでも言ってください。反論する気もありません。 完全に暴走し過ぎました。ATS-PもATCも意味がありません。 これは最早大長編だな……しかも夢オチってのがな…… ちなみに、タイトルの「M」は… まほらばの「M」 桃乃の「M」 妄想の「M」 ……ダメだこりゃorzorz 次はもっと綺麗なのを書きたい……