---------- ―アキ― ----------  今よりは昔だけど、昔よりは今のお話です。  鳴滝荘という所に様々な人が住んでいました。  中でも管理人とそのはとこの関係にあるふたりは、恋人同士でした。  二人はとても仲良しでした。  二人はいつも笑っていました。  二人でいると、とても楽しくて、とても幸せだったからです。  管理人にはとても不安なことがあります。  それは鳴滝荘に住む皆がいなくなることです。  でも管理人には分かっています。  それを止めることは自分には出来ないことを。  自分の道を歩く人を止めることを出来ないことを。  分かっていても心が寂しくなります。  管理人は庭先を掃除していてふと思います。  秋風に落ち葉が舞い、景色を彩る季節。  嫌いな季節じゃないけれど、なんだか悲しい気分になってくる。  出会いを求め、別れを惜しむ。  それが一番ステキな形だけど、それを望むのはわがままでしかない。  だけど、だからこそ人と別れたくないのです。  管理人はかつてを思い出します。  それはまだはとこのその人が来る前のこと。  時折自分が自分じゃなくなったような感覚。  けれども少しも嫌じゃない感覚。  でもそれが少しだけ心を痛める。  周りに気づかれないように、自分でも気づかぬ振りをしています。 148 名前: ―アキ―2 [sage] 投稿日: 2005/06/01(水) 21:30:12 ID:0vq4I9gJ  管理人は幸せです。  なぜなら出会うことが出来たから。  少しだけ昔に少しだけ話した人と。  そしてその人がいつも一緒にいてくれると言われたから。  昔の想い人と恋人になれたから。  誰よりも好きな人と一緒になれたから。    管理人は今日も掃除をしたり、料理をしたり、挨拶をします。  綺麗になった所を綺麗と言って貰うと嬉しくなる。  料理を作った時に美味しいと言って貰うと嬉しくなる。  挨拶をしたらおはようって返ってくると嬉しくなる。  だから今日も掃除をし、料理をし、挨拶をする。  明日も明後日も、いつまでもそれを欠かしません。  それが、自分だから。  別れを悲しむこと。  誰かと別れること。  自分を締め付ける何かがあること。  それでも幸せな自分。  誰かがいるということ。 149 名前: ―アキ―3 [sage] 投稿日: 2005/06/01(水) 21:30:29 ID:0vq4I9gJ  ガチャ・・・・・・。 「梢ちゃん、ちょっと・・・・・・」 「はわっ・・・・・・」  慌てて机の上にあった鉛筆や色鉛筆を落とした。 「あ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。でも、その、  ノック何回かしたんだけど、返事がなかったから。  いや、入るつもりはなかったんだよホントッ!  でも部屋にいるって珠実ちゃんが言っててっ」  まくしたてるように言い訳をする。 「あ、いえ、こちらこそすみませんでした。  あの、それで用事というのは?」 「あ、うん。ちょっと課題があるんだけどさ、もし迷惑じゃなかった  でいいんだけどさ、その、夜食作ってくれると嬉しいんだけど」 「あ、はい良いですよ。それでは後からお部屋にお持ちしますね?」 「ありがとう。それじゃ・・・・・・。  あれ、これ色鉛筆?  梢ちゃん、絵とか描いてたの?」 「い、いえっ! た、たまたまです」 「そ、そうなの? じゃあ、僕いくから」  小さく手を振って部屋から出て行く。  足音が小さくなるのを感じて、一気に緊張がほぐれていった。 「はふぅ・・・・・・。ビックリしました」  机の上のノートには女の子のような優しい雰囲気を持った男の子と、  そばに寄り添うように立つ女の子の絵が描かれていた。 150 名前: メリー [sage] 投稿日: 2005/06/01(水) 21:37:10 ID:0vq4I9gJ いわずもがな、”ハル”に影響されました。 別れを悲しむばかりでなく、それを乗り越えて出会いを喜ぶ。 それをこの二人で演じられたらいいなぁ、と。 本当はもっとちゃんとした物を作れる気はしたんですが・・・・・・。 とはいえ、完成したものに文句を言ってもしかたないです。 良くも悪くも作品には気持ちは込めましたし。