-------- 月見酒 -------- 湖面に浮かぶ月を肴に、日本酒をちびちびと。 何かを考えるわけでもなく、ただ日々を思いつつ、また一口。 「・・・?」 がさりと葉の揺れ擦れる音がして、彼は視線を動かした。 その姿を認めて、軽く手をあげる。 「・・・」 「・・・」 向こうはこちらの姿を認めて、割と近くに腰を下ろした。 彼は日本酒の瓶を掲げてみる。 「・・・」 「・・・」 沈黙ながら、僅かに頷いた相手に杯を持たせ、少しだけ注ぐ。 「眠れねーのか?」 「・・・・・・」 相手は頷くと、少しだけそれを口に含んだ。 「夢を、見るの」 「そーか」 内容は聞かない。再び、沈黙が落ちる。 葉が一枚湖面に落ち、浮かぶ月を僅かに揺らした。 「昔が懐かしいか」 「・・・」 無言の肯定が帰ってくる。 静かに、また一口飲む。吹き抜ける静かな風。 「じゃあ、今は不幸だと思うか?」 「いいえ」 はっきりとした否定に、彼は頷くと、 「なら比べんな」 「・・・そうね」 再び沈黙。月が少しだけ雲に隠れて翳る。 「幸せってな、この月みたいなもんだ。時々完全に隠れちまうけど、それでもじっと待ってりゃまた顔を見せる」 「・・・」 「これから先、お前はもっと幸せになれるさ」 そして、今度は一息に杯を空にする。 「だから、昔は懐かしむだけがいい。昔を羨んだってどーしようもねぇ」 「・・・ええ」 微笑を浮かべ、頷く。 「もう寝ろ。また娘に迷惑かけるぞ」 「・・・」 彼女は頷いて、立ち上がる。 「お酒、ご馳走様・・・」 「ああ」 彼女が去って行く音。それが消えると、再び静かな空間に戻る。 彼は杯に酒を足すと、またゆっくりと味わい始めた。 135 名前: たびびとの人 [sage] 投稿日: 2005/06/01(水) 11:12:15 ID:qqNkEQdr 以上です。思いっきり短いですが、割と即興物なのでご容赦を。 ついでに今後の書き込みはこの名前で行こうと思ってます。 名前考えるのが面倒だったとかいうわけではないですよ?