-------------------------- 熱 シラトリリュウシの場合 -------------------------- こんにちは。白鳥隆士です。 突然ですが今現在、僕は目が覚めたばかりなのですが、どうやら体調が悪い感じです。 原因と思われる事が多すぎて断定はないけれど、多分一番の原因としては、 昨夜の宴会で飲み(正確には、飲まされ)すぎたせいで布団も敷かずに寒い格好で寝てた所為かと。 おかげさまで上から順に、 頭がガンガン。目には寝不足でクマ。おまけに首も寝違えたようで。さらに体はだるい。 と、三拍子にラッピングをしたかのような症状に見舞われています。 とりあえず助かった点としては、今日が土曜日で学校が休みだという事ぐらいです。 とにかく朝食…水分ぐらいはとっておこうと思い、重い体を引き摺りながらも炊事場へ。 うう…廊下が長い…炊事場が遠い…… 普段から鳴滝荘は結構広いと感じてはいたんだけど、今日になって普段の3倍ぐらい大きく見える… そんなときだった。 「あっれ?白鳥クン?」 聞きなれた声だった。 「も…桃乃、さん…?」 「おっはよー白鳥クン!」 「あ、はい…おはよ…ございま…(ぼ〜)」 うお、マズい…視界が霞んでる…息も荒くなる… 「…?どしたの?」 「…ハァ…はぁ…は…ハァ…」 顔が熱い…いや、それどころか体中が熱い…マズいぞ、かなりマズい。 「ま、まさか朝っぱらからこの桃乃さんの色っぽいお姿を見て興奮してるとか!?」 …ツッコむ力も出ない…マズい… 「ま、マズいわよ白鳥クン。  そりゃさ…確かにキミの事は好きだって言った事もあるけどさ、  キミには梢ちゃんがいるデショ?見境なくしちゃマズイわよ〜」 だ、だから違います…って…桃乃さん… 「そ、それにさ!私にだって、ほら、その、彼氏がいるしさ!だからキミがいくらオネーサンに萌え燃えしてもねぇ…」 桃乃さんの、長い長い勘違いトークは、僕の意識をこの東京都某所鳴滝荘3号室前廊下から遠い世界に飛ばすのには十分な時間だった。 ばたんきゅう。 「だから〜…ってうおーい!?白鳥クンどったの!?ちょ、気ぃ失ってるわけ!?こ、ここ、梢ちゃん!梢ちゃーん!!!」 本日、二度目の起床。 場所は、僕の…部屋? 確か僕は桃乃さんの部屋の前で気を失って… 「おや、梢ちゃーん!目、覚めたみたいだわよ〜」 「そうですか!?あ、じゃあ珠実ちゃん、運んでくれてありがとうね。」 「いえいえ〜♪お安い御用です〜♪ではでは〜♪」 「うん、ありがとうね!」 梢ちゃんと、桃乃さん、珠実ちゃんの、声…? 「そいじゃ、後は任せたわね、梢ちゃん。」 「はい、桃乃さんも知らせてくださってありがとうございました!」 「いやいや、礼にはおよばないわよ〜、じゃね♪」 ばたん。 どうやら、桃乃さんの目の前で倒れて、 桃乃さんが梢ちゃんを呼んで、 梢ちゃんが珠実ちゃんを呼んで 珠実ちゃんがここまで連れてきてくれたらしい。 「こ、梢ちゃ…ゴホゴホ!」 「あ、だめです白鳥さん!熱が四十度近くもあるんですよ!!」 「え…そうなの…?」 「そうです!心配…したんですよ…?」 そう言って布団の中から僕の手を取り、ぎゅっと握る梢ちゃん。 「ゴメン…ね。心配…かけちゃって…ゴホ!ゴホ!」 「あ、もう寝ててくださいね!」 「はーい…」 梢ちゃんに言われ、布団を被ってごろりと横になる僕。 あ、なんだかこういうのって恋人よりも新婚さんって感じでいい……かも… 「し、白鳥さん?大丈夫ですか?また顔が赤くなってますよ?」 「え?…あ、あ、うん!大丈夫…(ぐぎゅるるる〜〜〜〜)あ…」 「白鳥さん…おなか減ってるんですか?」 「あ、うん…何か食べようと思ってたトコで倒れちゃって…」 「そ、それだったら!私、何か消化にいいもの作ってきますね!おかゆとか!!」 元気一杯にそう言う梢ちゃん。今はこの太陽みたいな笑顔に救われるー… 「うん、お願い…楽しみにしてるね…」 「は、はいっ!!」 そう言って梢ちゃんはちょこちょこと小走りで部屋を出て行く。 朝から高熱を出して寝込んで、良い事なんて無いと思ってたけど、 梢ちゃんの手料理つき看病があるならこういうのもいいなぁ…と、ニヤついてると どってーーーーーーーん!!!!!!!!!! と、『誰か』が思い切りすっころぶ音。 ……この場合の『誰か』とは、高確率で梢ちゃんだろう。 そして皆さんもお気づきの通り、このまま梢ちゃんが『蒼葉 梢』ちゃんの人格を保持できているとは思えない。 …ユックリヤスミタイヨ、パトラッ(ピー)。 ----- ここからは分岐点です。下からお選びください。 1、奇跡的に梢ちゃんのまま。 蒼葉 梢 ルート 2、早紀ちゃんになってました。 赤坂 早紀 ルート 3、魚子ちゃんになって、看病どころじゃないヨ! 金沢 魚子 ルート 4、雄叫び一発、千百合ちゃん推参。 緑川 千百合 ルート 5、棗ちゃんになって、かいがいしく看病。 紺野 棗 ルート ------ ---------------------------------- 熱 〜シラトリリュウシの場合〜 緑 ---------------------------------- 梢ちゃんが倒れたと思われる音がしてから、十数秒が経ちました。 ボヤける視界で開いたドアを見ているても何も分からないけど、とりあえず見てみる。 さらに十数秒。一向に何か起きる気配は無い。と、思ったそのときでした…… 「ホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」 嗚呼、この、声…… 「隆ちゃーーーーーん!!!」 彼女は… 「隆ちゃん隆ちゃん隆ちゃーん!!」 千百合ちゃん… 「隆ちゃん!!熱は!?めまいは!?吐き気は!?」 部屋に飛び込んでくるなりに症状を聞いてくる千百合ちゃん。 心配してくれてるみたいだけど… 「ち…千百合…ちゃん…も、少し…声、小さく…すごく、頭に響く……」 「ホ!?す、すみません隆ちゃん!ああ、どうしましょう!隆ちゃんお顔が真っ赤!  なにか冷やしたほうがいいですよね!?冷やすもの冷やすもの…  え、●ッケルザク○〜〜!!!」 「そ、それはマズい…って…やめて…」 「え、あ、そ、そうですよね。だったらこの●ゥリンダル○で…」 「だから…ちょっと、千百合ちゃん…?」 もはや僕の熱を冷ます方向からは真逆の方向に行ってる…エッ●ル○クスの時点で既に違うけど… 「何ですか?あ、もしかしてオーソドックスに●スカリボル○のほうがいいのですか?  もぅ〜隆ちゃん、そういうのは先に言ってくださ…」 「お願い…頭…割れそ…寝かせとい、て……」 「ホ!?そ、そうでしたね…ゴメンナサイ、隆ちゃん…」 そう言ってしょげる千百合ちゃん。どうやら心配している事だけは確かなようだ。 「あのさ、千百合ちゃん…冷たいもの…氷のうとか…氷枕とか…そんなの持ってきてくれると助かるんだけど…お願いできる?」 「もも、勿論ですよ隆ちゃん!隆ちゃんのラバーとしてこの私、correctな行動に移りますよ!ちょっと待っててくださいねー!」 「う、うん…よろしくね、ありがとう…」 「何のこれしき!礼には及びません!さあ、しっかり寝ておきなさいな隆ちゃん!」 「うん、お言葉に甘えて…」 「じゃ、じゃあ、何か冷たいものと食べ物持ってきますね!ホーーーッ!!」 うあ〜…その、ホーってやめて…頭…割れ…… 「隆ちゃーん?おかゆ作ってきましたよー?」 「…………」 千百合ちゃんの声が…聞こえる… またちょっと寝てたみのかな…? 声はしっかりと聞こえてるけど体がそれに応えずに動いてくれない…うぅ、辛い… 「隆ちゃん?寝てるんですか?」 声と一緒に近づいてくる千百合ちゃんの気配。 その気配が僕のすぐ横に来た。 「隆ちゃん、苦しそう…」 あ、分かる?そう、今ホントに苦しいんだよ。 「それにしても綺麗な顔立ちですねぇ…こうしてみていると女の子どころかお人形のようですね…」 け、気配が重い、熱い… 「何しても起きないんでしょうか…ホー…」 え、ち、千百合ちゃん? 「あ、あ〜ら大変!隆ちゃんてば汗びっしょりじゃないですか!  これは、き、着替えさせないと、いけませんね?いけませんよね?」 ま、まさか…!? 「着替えさせなければいけませんね!…無論、correct!な服飾にぃーーー!ホーーーーー!!!」 そう高らかに叫んだ千百合ちゃんは(多分)何処からとも無く服を出す。 や、やめて千百合ちゃん〜… 「ハァハァ…隆ちゃん…」 怪しげな声を発しながら僕の上着に手をかける千百合ちゃん…ヤバいってば…まだはやい(?)よ… 「ホホーゥ…隆ちゃん、服の上から見たときよりもすべすべそうなお肌…本当に男で無けれ…ノンノン!  今の隆ちゃんはマイラバー!彼氏!男です!!」 うあ〜…いつの間にか上着が脱がされてるぅ〜〜〜……本当にマズくなってきた… 「ホ!?」 と、短い奇声を上げて動きを止める千百合ちゃん…の気配。 「考えても見なさい緑川千百合!今、隆ちゃんは高熱で動けない役立たず!」 う、動けないのが歯痒い、歯痒い〜… 「今はこの私の思うがままままま!!」  ま が多いよ!! 「そう、今こそ…恋人の行き着く最終地点!!隆ちゃんと…」 ま、まさ、か…千百合…ちゃん……!? 「隆ちゃんと……隆ちゃんと……」 神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。 神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。 神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。 神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。 神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。神様ドウカボクノカンガエガハズレマスヨウニ。 神様ドウカボクノ………… 「隆ちゃんと……connectォォォォォォ!!!!」 い゛や゛−−−!!? 「りゅ、りゅりゅりゅりゅりゅ隆ちゃん!!さ、さささささぁ!!脱ぎ脱ぎ、しまshow!!」 か、体がァァァ…動かなァいィィィィィィィ!!! 上の服が完全に脱がされたようで、千百合ちゃんの息が余計に荒く危ないものになっていく。 そのままズボンに手を掛けて…!それはっそれだけはぁっ!!! 燃ぉえ上がぁれェェェェェェェェェェェェ!!!僕の小宇宙ォォォォォォォォ!!! と、言っても40度超(ぐらいにあがった感じがします)の体で小宇宙は燃やせないので気力を振り絞って体を動かす。 「ち…ゆり…ちゃ…だ…メェェ…」 「ホーーーーー!!!」 「ダメえええええぇぇぇぇ!!(がばぁっ)」 「ホァ!?」 香港スターみたいな声を上げる千百合ちゃん。 「りゅ、隆ちゃんっ、い、いつごろから、お、おおおお目覚めに!?」 「まぁ、その…千百合ちゃんが部屋に入ってきた辺りから…体が動かなかったけど…」 「そ、それでは…ぜ、全部聞こえて……」 「う…うん…」 「ほ、ほ、ほ、ホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―」 高熱を出している僕にお構いなしに本日一番の雄叫びを上げる千百合ちゃん。あ゛だま゛がい゛だい゛〜… 「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」 叫び終えた千百合ちゃんはその場に倒れこむ。 一人残された僕は、とりあえず上着を着て、千百合ちゃんの手作りおかゆ(やや冷め気味)を独りですすっていました。 追伸、風邪は一晩寝たら治りました。 --------------------------------------  熱 〜シラトリリュウシの場合〜 紺 -------------------------------------- ―――人のモノでは、無い、足音が――― 人のものにしては足音が軽すぎる、そして、二本の足では速すぎる廊下を踏む音のペース。 その『何か』がドアの影から… 「ナ〜」 ね、猫ぉ? しかもその猫には見覚えがあった。 薄れ行く記憶の中から思い出すその猫は…確か… あ、そうだ。 前に桃乃さんと一緒に遊んでた猫だ。 確か桃乃さんは、『マフィア』って呼んでたかな…? 急に僕の目の前に現れた猫=マフィアは、さらにとことこと僕が寝ている布団の横に来る。 …あれ?確かこの猫含むあの五匹の猫はこの間車に忍び込んで沙夜子さんの実家に行ったんじゃなかったっけ? その途端、マフィアの体がぶくぶく膨らんで…ってえ゛エエエエエ!!? 僕が目を見張っていると、マフィアはついに破裂してしまった!? 「う、うわアアアァァァァァァァ!?」 爆発したマフィアから煙が吹き出る。 咳き込みながらも煙が晴れるのを待つと、そこには見慣れた姿が、見慣れた顔があった。 「……隆士…君……」 棗、ちゃん…? 「隆士…君…だいじょ…ぶ…かも…?」 そう言って棗ちゃんはその紺色の瞳を僕に向け、てふてふと歩み寄ってきます。 「う、うん…あまり…調子はよくない、かな…」 「ほんと…に、ぐあい…悪そう…」 心配そうに、その純真無垢な、まだ幼さの残る顔を、寝ている僕の顔にどんどん近づけ…って、 「ちょ、ちょっと舞って!」 「…?踊る…の?」 「ああゴメンミスタイプ!!ちょっと待って!」 「待つの…?」 「うん、その…ね、僕、朝から何も食べてないからさ…何か食べれるもの、作ってきてくれないかな?」 「食べる…もの……、うん、わかった…待ってて…作ってくる…かも…」 いや「かも」じゃなくて!まぁ、口癖なのでそんなに気にしてないんだけど 「それじゃ…少し…待ってて…ね?(ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽんっ!!)」 「うん…ありがとう…棗ちゃん…」 僕の周りを花で埋め尽くした棗ちゃんはとてとてと部屋を後にする。 それから数分、棗ちゃんがミスタイプしなかったおかげで舞う必要は無く、布団を被っておとなしくしていました。 そして、棗ちゃんが僕の部屋に来る足音がしてきました。 「隆士…君…起きてる…かも……?」 「あ、棗ちゃん…うん、起きてるよ」 体力の落ちている体を頑張って起こす僕。 目の前にいる恋人の女の子に笑顔を向けます。 「これ…おかゆ…かも…」 「かも」といっていますがモチロン目の前に差し出されたお盆の上には立派なおかゆ。 上にちょこんっと乗った真っ赤なうめぼしが白いおかゆのアクセントになって朝から何も食べていない僕の五感全てに襲い掛かってきます。 うわぁ、今、口開けたらヨダレが吹き出てきそう。 「ありがとう、棗ちゃん。それじゃ、いただ…」 と言いながらおかゆの土鍋を載せたお盆に手を伸ばすと、それを持っている棗ちゃんの手が、すすす、と引いていく。 「あ、あれ…?棗、ちゃん…?」 お、お預け!?オアズケ!?O・A・ZU・KE!?!? 「………」 見ればほんのり顔を赤らめ、おかゆを見つめる棗ちゃん。 数秒の間を置いて、決心したかのようにその瞳に力強い光が宿りました。 「隆士…君…」 「な、何っ?」 空腹の絶頂に置かれて尚、目の前の食事を下げられ、狼状態の僕は、棗ちゃんの呼びかけに応える声も少しばかり荒くなります。 「ぁ……て…ぃ…かも……」 「え?何?」 「ぁー…し…かも…」 余程ハズカシイ事なのか、棗ちゃんの声は何時にも増して小さく、聴覚以外の感覚がMAXの僕には、さらに聞こえ辛いものとなっています。 「ゴメン、聞こえなかったんだ。もう一回、言って?」 「あーん…して…ほしい…かも……」 「へぇー、あーん、かぁ…」 あーん、ねぇ… あーん…? あーん… あーん あーん!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あぁああああぁああぁぁぁぁああああぁんんんんん!?!? 「あ、ア、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あー…ん!?」 「…ん…」 僕がカラクリジカケの人形の様にやっとの事で紡ぎだすと、それに対して心底気恥ずかしそうにうなずき、俯く棗ちゃん。 だが彼女の目には光が宿っている!本気だ!彼女は本気だっ!? そんな気力あふるる彼女の眼力にアてられた僕は、熱で赤い顔に、さらに赤い絵の具をブチマケタように赤みを足す。 そして、彼女の提案(=あーん)に応じるコトとなった。 「はい…隆士…君…あー…ん…して…?」 「う、うん…あ、あー…ん……」 棗ちゃんの差し出す手の上には、土鍋から小分けされた小鉢に入ったおかゆと、そこからレンゲで掬った一口分のおかゆ。 それを僕の顔の前、口の前まで持ってくると、ぴたりと止まる。 はむ。とそのおかゆを口に含む。 固すぎず、病人用に程よく柔らかくされたお米と、軽い塩味の協力タッグは、僕に容赦なくマッスルドッキングを放ってきました。 「どう…味付けが…濃かったり……しない…?」 少し自信のなさげな表情で見つめてくる彼女に、僕は、とんでもない、といわんばかりに首を横に振り、 「ううん、ちょうどいい塩加減だし、ご飯も柔らかくて丁度いいし、とっても美味しいよ。」 と、彼女に賛辞の言葉を送る。 「あ…りがと…はい…あーん……」 「うん、あーん…」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 とっても美味しくいただきました。 おかゆも食べておなかもいい具合にふくれたので、もう一度休むことにしました。 今は、棗ちゃんが気を利かせて利かせて持ってきてくれた氷枕でひんやりと快適です。 加えて周りには告別式かの如き花。 横には笑顔で座ってくれている恋人。 とっても素敵な状況で、僕は再び眠りの中へ…… 目が覚めると、もう日はほとんど沈みかけていて、すっかり窓からは朱い光がこぼれています。 隣には、そう。すぐ隣には、恋人の横顔。 棗ちゃんは、いや、もう眠っているのだから梢ちゃんになるだろうか? ずっと看病してくれただろう彼女の顔は、多少疲れが見える。 僕の事を一日中心配してくれた、梢ちゃんと棗ちゃん。二人のコイビトに感謝の気持ちをこめて、彼女の頭を軽く撫でました。 そして僕は、彼女の寝顔を見ながら、もう一度、幸せに包まれて眠りにつきました。 --------------------------------------  熱 〜シラトリリュウシの場合〜 金 -------------------------------------- 梢ちゃんと思われる人が転ぶ音がして、間もなくこっちに駆け足で向かってくる気配がしてきました。 その気配は、凄いスピードで部屋の前に現れ、イナーシャルドリフトでこちらを向き、そのまま足のばねを最大限に利用して… 「おにいちゃーーん!!!」 …飛び込んできました。 「げぶふっ!!?」 強烈なタックルを腹部に喰らい、僕は く の字に体を折り曲げ、もんどりうってしまいます。 当然です。誰でもおなかに超スピードで頭突きを喰らえば吐血ぐらいはきっとします。 突如として室内に走る戦慄。その場に佇む一人の少女、蒼葉梢ちゃんの体を持った少女。 名前は、金沢魚子ちゃん。 そして、その目の前を腹を押さえてうずくまる僕。 部屋を、形容しがたい空気がそっと包み込みました。 「……な………」 まだ悲鳴を上げている大腸さんや小腸さん達を涙目でお腹越しに撫でながら、声を出します。 「な…な…こ…ちゃん…」 「なぁに?おにいちゃん!」 「あ…のね…お願いだからさ…腹部に頭突きは…勘弁して…おにいちゃんもう立ち直れなくなっちゃう…」 「そうなの?」 「そうなの…」 「うん!次は別のところに― 「もう何処にも頭突きしちゃダメ!!もう僕の体に頭をつけないで!もうッ!」 お、おにいちゃん…?」 ついカッとなって思いのたけをブチマケテから気付きます。また怒鳴ってしまったことに。 そしてつい数分前まで僕の体は熱に犯され、頭からつま先まで謎の痛みが襲っていたことに。 さらにその症状は現在進行形で、尚且つさっきの頭突きで症状が悪化してしまったことに。 「ぐおおぉぉぉおおぉおぉぉおお………」 きしむ僕のナチュラル・ボーン達。 それを自分の体を抱きしめるような体勢で、魚子ちゃんに言います。 「ご、ゴメンね?魚子ちゃん。怒鳴っちゃったりして…」 「んーん。魚子もおにいちゃんが困るようなことしちゃったから…おにいちゃんお風邪で寝てるのに…」 さすが6歳。根は素直なイイコです。 「分かってくれたの?」 「うん!」 元気一杯の頭に響く声。痛い… 「えっと…それじゃあ、僕ちょっと寝たいから…いいかな?」 「うん!魚子、お兄ちゃんのじゃまはしないよ!」 「ありがとう。それじゃ、よいしょ・・・っと」 もう一度横になる僕。すぐ横には笑顔の魚子ちゃん。 僕は、彼女の笑顔を見ながら、もう一度、幸せに包まれて眠りに――― 「魚子がねー!おにいちゃんがよく眠れるようにお歌、歌ってあげるー!!」 ―――つくにはもう少し時間がかかりそうです。(涙) 「う…歌…?」 「うん!魚子ね、このあいだ、たくさん桃ちゃんにお歌教えてもらったのー!」 「も゛も゛の゛ざ ん゛……」 滝のような涙を流しながら、倒れた僕の第一発見者、この場にはいない桃乃さんの名前を呼びます。 「おにいちゃん…」 「はっ!?」 壁―3号室側の壁に向かって体育座りで桃乃さんの名前を連呼している僕の背中に、魚子ちゃんの少し弱めの呼びかけがぶつかります。 振り向けば魚子ちゃんは、目にうっすら、いや、はっきりと涙を浮かべ、今にも泣き出しそうです。 そんなことされたら珠実ちゃんにバッチリすっぱぬかれて、殺されます。すっぱぬかれた上に、殺されるんですよ?どっちかにしてください。 「おにいちゃん…魚子がお歌歌ったら…ジャマ?」 「じゃ、邪魔なんてとんでもない!!あ、ありがとう魚子ちゃん!それなら僕もゆっくり寝れそうだよ!」 「ホント!?」 途端に魚子ちゃんの顔に光がさします。単純なんだから… 「じゃあじゃあ!お歌歌うよ?いい?」 「うん…お手柔らかにお願いします…」 小声で呟いた僕の願いは、魚子ちゃんには届かなかったようで… 「いくよ!まずは、このお歌!」 魚子ちゃん、『撲殺天使ドク■ちゃん』熱唱中〜 (刺して晒して垂らしてぇ〜♪) (魚子ちゃんやめ…!!) (血祭りどんどこドク■ちゃん〜!) (頭がぁ〜!!) (ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪) (ふおおぉおぉおぉぉぉぉぉ……) 〜終了… 「じゃぁ、次のお歌歌うね!」 カラオケボックスで一人でずっとで歌っているオロカな運動部の先輩のような魚子ちゃんの行動はエスカレートしていきます。 魚子ちゃん、『●キャットマ○』熱唱中〜 (スカッパラパピリルバビルリラバリバビルリレバビルリレバビルリレバビルリレバビルリレ バビルリレバビルリレバビルリレバビルリレバビルリレバビルリレバビルロ……) (イヤァァァァ!!!) 〜終了…… 「…ダメ…頭…痛…死にそ…」 一曲目の時はどうやったら寝れるかがミッションでした。 でも、今現在のミッションはどうやったらこの歌の威力を減らせるか、そして、いかに熱を42度台まで上がることを防ぐかになっています。 それなのに、魚子ちゃんは僕に課せられたミッションを踏みにじるかのように、次の曲名を高らかに宣言しました。 「次はね、次はね!えと、えーと、そうそう!『☆はマシンガン』と、『★もマシンガン』!!」 イヤアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!! 魚子ちゃん、『☆はマシンガン』熱唱中〜 (やってきましたとてもあついなつ!) (頭がァァァァ!!) (いっぽんだけ色のちがうめんが入ってるとわんだふる!!) (われるぅ!!ワレルゥゥゥゥゥ!!!) (い〜つまで〜も〜、わ〜たしマ!シ!ン!ガ!ン〜!!) 〜終了……… 続いて魚子ちゃん、『★もマシンガン』熱唱中〜 (一個だけ雪玉に石を入れたらとてつもなくデンジャラス!) (アウチ!頭痛いってば!) (あ〜、冬もマ!シ!ン!ガ!ン〜!!) (桃乃さんのバカー!!) 今日この日、僕は魚子ちゃんに恐らくこの歌の数々を教えたであろう桃乃さんを怨みました。 翌日、案の定熱は42度どころか43度を越え、さすがに医者を呼ばれてしまいました。 -------------------------------------- 熱 〜シラトリッリュウシの場合〜 赤 -------------------------------------- 梢ちゃん転倒事件から今や数分たちました。 それなのに一向に梢ちゃんが起き上がる気配はしません。 いつもはすぐ側にいてゆすったりするからすぐに目覚めるんだろうけど、さすがに長すぎです。 ひょっとして、どこかにぶつけちゃったとか…!? 一度そう考えるともう他の考えは頭からはじけ飛びます。 恋人の女の子が怪我をしてるかもしれないと思ったら、彼氏としては動かずにはいられないものです。 たとえ視界がぼやけ頭は酷く痛み、寒気はするしお腹は痛いし何か体中マンベンなく痺れた感じがしたとしてもです!! そうと決まればいざ行動。休息を激しく要求している体をヒキズリヒキズリ、部屋を出ます。 でて少し、ほんのすこし歩けばそこに彼女はいました。 案の定転んだのは梢ちゃんで、見たところによると転んだのは廊下のド真ん中なので、柱や壁に頭をぶつけたとかはないようです。 「こ…梢ちゃん…?」 とりあえず元の人格の名前を呼びます。 ゴホゴホゲホゲホ。咳も止まらないし、本当にヤバイんデスヨ? 「ん……」 トテツモナク小刻みに肩を揺らしたお陰か、梢ちゃんが目を覚ましたようです。 さて、今回は誰に…? 「し…ら…とり……?」 ―白鳥― こう呼んでくるのは全人格中彼女一人です。 そう、彼女は― 「こ…このバカタレー!!」 「痛い!!?」 ―彼女は赤坂早紀ちゃん。 全人格中一、二を争うほど優しい娘なんだケド、全人格ぶっちぎりで凶暴な娘です。 そして今、僕はその早紀ちゃんに思いっきり殴られました。 うぅ、何で…? 「白鳥!お前、風邪引いてんだろ!?なぁに部屋の外出てやがんだ!!」 「そ、それは…早紀ちゃんが転んだみたいで、心配…だったから…」 思いっきり殴られて痛む頬をさすりさすり、言います。 「んなっ…(かー)ば、ばかっ…!あたしはどーでもいいんだよ!お前の風邪のほうがしんぱ…」 「え?心配してくれてるの?」 「!?あ、いや、その…あーもう!いいからお前は寝てろってんだよ!!」 そう言うや否や、早紀ちゃんはむんずと僕の服の襟を掴み、ものすごいスピードで僕を引き摺りながら2号室へと走ります。 「おりゃっ!」 「うわあぁッ!?」 部屋の前に着くと早紀ちゃんは回転を加えて僕を敷き布団の上へと投げ飛ばします。 「いいか!!」 びしぃっ!っと、僕に向けて人差し指を突きたてて、 「今から何か作ってきてやるから、ちょっと待ってろよ!」 と、言い放ち、さらに、 「ぜっっったいに動くなよ!少しでも、少しでも動いてみろよ?ブチ殺すからな!!」 と続け、またダッシュでドタバタと部屋を後にします。 僕は、早紀ちゃんを起こしてから今までの、一分あるかないかのやり取りに、ポカンとしてしまいます。 「えっと…一応、心配してくれてるんだよ…ね?」 誰に言うでもなく、ぽつりと呟きます。 動くとブチ殺すそうなので、じっと寝ておくことにしました。 あぅ…殴られたり投げ飛ばされたりしている内にまた少し頭痛等が悪化した感じがします。 やっぱり風邪は辛いです。う…ホントに辛くなってきたかも… 「おい!動いてねえだろーな!!?」 数分後、またまたダッシュでドアを蹴り開けた早紀ちゃんの第一声が、コレですよ。 「あ、早紀ちゃん…うん…動いて…ないよ…」 正直かなり辛いので、息も絶え絶えです。 「オイ、なんか辛そうじゃねーか。大丈夫かよ?」 「はは…風邪だからね…辛いよ…」 「ま、そりゃそうだけどさ…」 僕の辛そうな表情を見た途端に語勢も弱く、心配したような素振りを見せる早紀ちゃん。 あーもう、こういう時の早紀ちゃんは本当に可愛いなぁ…… 「あ…そ、そーだ。あのさ、白鳥…」 ふと思い出したかのように早紀ちゃんは言います。 「?何?」 「こ、これ…おかゆ、だけどさ。さ、さっき作ったんだ。く、食いたいなら…食え、よ…」 もじもじ。早紀ちゃんはたまにこのようにとてつもなく可愛くなるからたまりません。 「あ、ありがとう…早紀ちゃん…」 そこでまたゴホゴホと、短い咳が何度か出ます。 「ホントに辛そうだな。大丈夫か?起きれるか?」 「うん…多分、ね…」 とは言うものもやっぱり頭がガンガンクラクラで正直なところ起き上がるのがイッパイイッパイです。 「……しょーが、ねーなぁ…」 ぼそりと、呟くようにそう言ったのは早紀ちゃん。 「え…何、が?」 思わず聞き返してしまいます。 「お前がキツそうだそうだからさ……その、何だ…あたし、が…食べさせて…やるよ…」 ――――――――――へ? 「さ、さささささ、早紀、ちゃん?今…なんて…?」 「だ、だからっ、あ、あたしが…食べさせてやるって…言ってんだよ」 ………な、ななな…なんだってーーーーー!!? 「さ、早紀ちゃんが…食べさせて、くれるの…?」 「あー、もう!さっきからそう言ってるだろうが!…それともさ…」 「…?」 「あ、あたしじゃ、さ……い、イヤ…なのか?」 ……………ぐっっっはあああああああん!!!? た、隊長!素敵な宇宙船シラトリリュウシ号は早紀ちゃんのしおらしい態度に撃沈寸前です! 総員退避!退避ィーー!!……… 一呼吸。ヒッヒッフー。 落ち着いて現実に目を向ければ、この空間にいるのは顔を俯かせて、真っ赤になってる早紀ちゃんと、同じく顔を赤くした僕。 なんともいえない空気が漂っています。 「えーっと……」 口を開いたのは、僕。 「それじゃ…食べさせて…もらえる、かな?」 「っ!?」 さらに顔を赤くする早紀ちゃん。恥ずかしいなら別にいいのに…… とは言っても、それでも辛そうな僕を見て恥ずかしいのも我慢してそう言ってくれてるんだろう。 本当に、優しい娘なんだから…… 「し、仕方ないよな!うん、白鳥、キツそうだし、食べさせてやらねーとな!うん、そう。仕方なく…仕方なく…仕方なく…」 仕方なく…と自分に言い聞かせるように連呼する早紀ちゃん。 その顔は、さっきと同様に赤いながらも、どこか嬉しそうな顔。 「その、さ…急いでたし…あたしってあまり料理上手くないからさ…ちょっと…見てくれは悪いんだけど…」 そう言って、おずおずと出てきたのはおかゆ。 まだ湯気も立っていて、確かに見た目は少し雑な感じがするけど、 それでも早紀ちゃんが―コイビトの女の子が一生懸命作ってくれた、という嬉しさに、見てくれは関係なんてないのです。 「じゃ、じゃあ…」 すっ…とレンゲに掬ったおかゆをこちらに向けてきた早紀ちゃん。 「あ……」 その顔は、今日一番の赤さで。 「……あ、あ、あーん……」 真っ赤な真っ赤な早紀ちゃんの、この一言に、 〈ズキュゥゥゥゥゥゥゥン!!!〉 と、僕の中枢機関は全滅です。 (大佐殿!シラトリリュウシ号、右翼が破損!) (左のエンジンに一つ火が着きました!爆発します!) 〈ちゅどぉぉん…!!!〉 爆発した僕号の左のエンジンは煙を上げます。 (大佐ァ!メインエンジンにトラブル発生!もう今の高度を維持できません!) (ぬうぅ…) 僕号の大佐は、乗員の命を考え、遂に決断を下します。 (総員…総員退避だ!!船を捨てよ!) (た、大佐!?) (じ、自分は最後までこの船と一緒に…!!) (この船より、一人でも皆の命が助かるほうが…大事だ) (大佐…!) (大佐っ…!!) 〈全員で〉(サー・イエッサァァーーー!!!) 大佐(ナイスガイ)のナイス判断で、僕号から、全乗組員が脱出し、僕号は、目の前のおかゆと向き合うこととなります。 「あ……」 少しずつ。すこーしずつ口を開けて… 「あーん……」 おかゆの受け入れ態勢は万全ですドクター。 もぐ、もぐ、もぐ。早紀ちゃんの作ってくれたおかゆを、噛み締めるように食べる。 うん、美味しい。 人格によって得手不得手はあるものの、やっぱり料理に関しては、梢ちゃんベースの腕前で、基本は出来てるようで。 「ど…どう、だ…?」 不安げな表情でこちらを見る早紀ちゃん。 「うん。とっても美味しいよ。」 「ほ、ホントか!?」 「うん。本当に美味しい。ありがと、早紀ちゃん」 疲れているものの目の前の恋人に笑顔を向ける僕。 「っ…!///ま、まーな!礼にゃ及ばねーよ!  そ、それよりホラ!もっと食えって。ほれ、あーん…」 「あーん…」 数分後、おかゆはキレイサッパリ頂きました。 「ふう…ごちそうさま、早紀ちゃん。」 「お、おう!口にあったなら何よりだな。うん」 お腹いっぱいで満足な僕と、幸せいっぱいな早紀ちゃん。 あったかムードが溢れてます。 「あ…」 何かに気付いたように、早紀ちゃんが声を漏らします。 「何?どうしたの?」 「いや…白鳥、随分汗かいてんなー、って…」 「え?あ、そういえばそうだね。もともと風邪ひいてるし、熱いおかゆも食べたし…」 「そうかぁ、そうだよ、な……」 少し黙って考え込む素振りを見せる早紀ちゃん。 十秒足らずで、少しずつその顔が赤くなっていくのが分かります。 「……?どう…したの?」 多少。多少ですが、嫌な予感を覚えながらも、尋ねます。 「え!?あ、いやさ…その…え、と…ほら……」 早紀ちゃん、明らかに挙動不審です。怪しいです。 「さ、早紀ちゃん?」 「ぴえ!?」 オーバーリアクション。怪しさの極みです。この怪しさなら引田天○もMr.○ックも目じゃありません。 「い、いや…その……」 「?」 「着替、え…させてやる……」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――へ? 「さ、割きイカ、じゃなかった!早紀ちゃん!?き、ききききき、着替えぇ!?」 「うん…」 ああもうままならない!!ここは「なんてな!冗談だよ!!」か、悪くても「ああ…」でしょう!? 何でこの場面で「うん…」なの!?可愛くてたまらないじゃないですか! ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤイバヤバイヤバイヤバイバ。何がヤバイって全部ヤバイ! このまま早紀ちゃんをぎゅ〜〜って抱きしめたいです!抱きしめたいです!! 「そ、それじゃ、早速…」 そういって僕の服に手を伸ばす早紀ちゃん。って何がそれじゃ、なの!?何が早速なの!? ぷちん… ボタンが、一つ。早紀ちゃんの手によって外されます。 「さ、早紀ちゃん?恥ずかしいでしょ?む、無理はしないほうが……」 「い、いや…ぜ、ぜぜ、全然…?」 「どこが全然!?いっぱいいっぱいじゃん!早紀ちゃんいっぱいいっぱいじゃん!!」 「す、据え膳食わぬは武士の箸ー!」 「だから恥だよ!ってゆーかそれは>>702あたりでやったよ!あれ?>>702って何!?」 (※>>702:SS「Simple」) 「第二ボターン!!」 ぷちん… 「わわわ!?」 「あーもーうっせーなー!!」 ばきいっ! ま、また殴られた!?僕、病人なのに!? 前述の通り病人な僕に早紀ちゃんのパンチを二発も耐える力は持っていないので気絶同然にぐたっとなってしまいます。 「お、やっとおとなしくなりやがったか!」 『なりやがった』、じゃなくて『させやがった』でしょ… 「そ、それじゃ改めて…」 うわー!?やめて早紀ちゃん!!あれ?声が出ない!うわ!?体も動かない!? ちょ、何コレ!?まさか今のパンチ!?なんでこの場面で新必殺技だすの早紀ちゃん! あー!?もうそれ以上は…ち、千百合ちゃんのオーラが見えるよー!! ぷちん… ぷちん… …………どさっ !?数えて四つ。残るボタンが一つというところで早紀ちゃんの動く気配は消えました。 そして続いて僕の胸にのしかかる、人物。 人物といってもこの場合早紀ちゃんしかいないんですけど。 全裸の落ち武者とかは勘弁です。 数秒後、早紀ちゃんの必殺パンチの効果が切れたのか、体が軽くなりました。 「早紀、ちゃん…?」 目を開けながら、名前を呼びます。 しかし返事は無く、そこにいたのは、顔を真っ赤にしてさらに目を回して倒れている早紀ちゃんの姿。 様子から察するに気丈な早紀ちゃんでもさすがに恋人の服を脱がすのは恥ずかしくてたまらない、ってところでしょうか。 恥ずかしがりやな早紀ちゃんの精一杯の行動だったんでしょう。 とりあえず、早紀ちゃんに薄い布団を掛け、隣に寝かせてから、僕も眠りに着きました。 明日からはまた早紀ちゃんに負けないぐらい元気な日々が送れますように。おやすみなさい。 ------------------------------------ 熱 〜シラトリリュウシの場合〜 蒼 ------------------------------------ 外からの日差しが眩しい、お昼時…をそこそこ過ぎた午後3時30分。 今現在、僕こと白鳥隆士は、風邪で寝込んでいます。 そして炊事場では、僕の恋人、蒼葉梢ちゃんが僕に料理を作ってくれています。 …?何ですか? ……転んだのに、どうして梢ちゃんのままなの、ですかって? それは僕にも分かりませんが、今日の梢ちゃんはいつもよりタフです。 そのお陰で今から食べれる梢ちゃんの特製手料理の事を考えると……おっと、ヨダレが止まりません。 開きっぱなしのドアの向こうから聞こえる、トントントン、と、小刻みに一定の間隔を置いて包丁がまな板に当たる音。 小気味良い音に不思議な安堵感を覚えながらも、天井を見ながら時間をつぶしておきます。 あ…何か人の顔のような…シミ? 目をつぶってもう一度見ると、そのシミは消えていました。怖!? そんなぷち恐怖体験を体験していると、炊事場からとても良い香りがしてきました。 と、と、と…と、慎重に歩を進める音と一緒に香りもついて来ます。 「白鳥さん?起きてますか?」 ひょこっとドアから顔をのぞかせた梢ちゃん。 「起きてるよ、梢ちゃん」 「あの、おかゆ…作ってきました!」 彼女の持つお盆の上には、おかゆと、山盛りの梅干。 梅干がどれくらい山盛りかというと、おかゆ:梅干が4:6なぐらいに。 「あ、あのさ…梢ちゃん」 「はい?」 「その、さ…なーんか…梅干、多くない?」 「え、そ、そうですか?病気の時は梅干で元気をつけるのがいいかなって思って…」 そう言いながら、少し梢ちゃんの目が潤む。 「こんなにたくさんは…ご、ご迷惑…でしたよね…?ごめんなさい、白鳥、さん…ぐすっ……」 「ご、ごごごごごご迷惑なんてっ!!と、とんでもございませんことでましまし候じゃなくてトンデモナイ!本当においしいよね、梅干!!」 急いで梅干(推定50個)の4割程をたいらげる。 「ほ、本当ですか…?」 「うん!梅干もおいしいし、おかゆも―」 そう言いながらおかゆを口にした瞬間、あたたかな感じが口の中にぶわっと溢れ、 焼きたて◎。ぱんをも凌駕するリアクションをとりそうになるのを必死に抑えて… 「―おかゆも、すっっっごく美味しい!!」 「そうですか?嬉しいです、喜んでもらえて…」 ぽっと顔を赤らめる梢ちゃん。 そんな彼女を見ていると僕まで赤くなってきて… 「…?し、白鳥さん?また顔が赤くなってますよ?熱がまた出てきているんじゃないですか? そう言うと梢ちゃんはその幼さが残る顔をどんどんどんどんどんどん(の森)僕に近づけて… ぴとり。 おでこを僕のおでこにくっつけました。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??!!??!!??」 声にならない声をある僕と、静かに目を閉じて自分の熱と僕の熱を比べるかのような梢ちゃん。 ハタから見れば、面白くてたまらない光景ですが、当人としては大変です。 「こ、ここ梢ちゃんッ!?」 裏返った声がもう一度裏返り、おまけにもう一度裏返ったような声を出す僕に対して梢ちゃんは 「うーん……熱は無いですよねぇ…」 と、呑気に熱を測っています。 「だ、大丈夫大丈夫!も、もう寝るね!?お、おかゆありがと梢ちゃん!!おやすみ!!」 と、一気にまくし立て、布団をがばっと被って眠りにつこうとします。 「あ、そ、そうですか?そうですよね、風邪のときはしっかり食べてしっかり休むほうがいいですよね!」 「うん…そうだね」 「あ、熱いですよね?私、氷まくら作ってきます!」 「え?あ、いいよ?そんなにしてもらわなくても…」 「いいえ!白鳥さんには早くよくなって貰いたいですから…そうじゃないと…」 「?」 「私が……寂しいですから……」 と言って、顔を赤らめ、俯く梢ちゃん。 「〜〜〜っ!?」 もはや何度目か、何とも言えぬ気恥ずかしさ。 「あ、わ、私っ、氷まくら、持って来ま…ごにょごにょ…」 最後のほうは聞き取れないほどごにょごにょな梢ちゃんは、足早に部屋を出て行きました。 再び部屋に静寂が訪れます。 ふと、壁を見る。 本棚。絵本がたくさん入っている本棚。 魚子ちゃんに読ませたりもしたっけ。 壁。何となく血痕のようなものが見え隠れしている壁。 早紀ちゃんに酔った勢いで叩きつけられた時のものです。 押入れ。中には少し紙ふぶきが入っている押入れ。 夜になって押入れを開けたら棗ちゃんが入ってて驚いたなぁ… 窓。夕日に染まった朱の差し込む窓。 課題をしてたら急に窓から千百合ちゃんが飛び込んできたときがあって大変でした。 何処か、いつもより静かなこの部屋。この鳴滝荘。 いつもと違うけど、いつも通りの日常。 普段とちょっと違う一日だったけど、僕のことを心配してくれてる梢ちゃんのためにも、普段どおりの一日を送れるようになろう。 心の中で、大事な恋人にたくさんのお礼を言い、その後ちょびっと、風邪にも礼を言ってみました。 388 名前: アトガキ ジゴク [sage] 投稿日: 2005/06/24(金) 00:28:10 ID:KbXyBR4a 今回で一応『熱』シリーズ完結です。 なんか自分的には今回中身がすっからかんな感じがしてあまり書いてて楽しくありませんでした… やっぱり個性と需要のバランスが難しいです。 自分の個性をまだ見出せてないのでまだまだ拙いところもありますが、これからも御覧頂ければ、と思います。 次回は自分の中で答えが出てからの投下になると思うので、かなり期間が開くと思います。 たった一人でも期待してくださる人がいればその期待に沿えるようなものを書ける書き手になりたいです。 それではさようなら。