--------  家族 -------- 「桃乃さん、なんでお祭が好きなんですか?」 「にゃ?何よ、藪から棒に」 「前々から疑問だったんですよ…イベントがあるといつもハシャいでますから」 「あー…そうね…」 今日は休講日。そんなわけで、僕は鳴滝荘にいる。 本来平日なワケで、この時間帯にいるのは桃乃さん以外にも、 灰原さんや沙夜子さんもいるはずなのだが、 桃乃さん曰く「二人とも出かけている」とか。 てなわけで、二人きり。 「オマケにいつも僕の部屋で宴会するし…宴会病じゃないかと思うくらいですよ」 「そんなにやったっけかな…」 苦笑する桃乃さん。 やっぱり自覚してない。 「まあ…何なんだろうね…嫌な事を忘れらるから、かな…」 「…嫌な事?」 「私ね、昔は荒れてたんだ」 ―――荒れてた? 「荒れてたって、暴力ですか」 「いや、自殺未遂」 自殺未遂。 この言葉が、この人の口から出るとは思わなかった。 「―――んな、まさか」 「話すと長くなるから端折るけど、私はプレッシャーから逃げるために、手首を切ろうとした。  まあ、駄目だったけどね」 それは、桃乃さんの過去。 忌々しい過去。 それを―――僕なんかに語って、いいのか? 「―――ああ、やあね、そんな神妙な顔して。  嫌な事ってそれだけじゃないのよ。実家と喧嘩したりとか、色々あるのよ」 明るい顔で桃乃さんは言う。 僕は―――苦笑すら、出来ない。 「―――だから、白鳥クンには感謝してる。  私のあの馬鹿騒ぎに、何も言わずに付き合ってくれるんだから」 何も言えないのは昔からだけど――― 僕は、あえて言わない。 そして、僕は気になった事を口にする。 「―――桃乃さん、何故、そんな事を僕に言うんですか?」 「…何故って」 桃乃さんは、何を今更、という風に答える。 「白鳥クンは、この鳴滝荘の家族だから」 家族。 その言葉に、僕ははっとした。 ―――もしかしたら、桃乃さんが求めていたのは、家族だったのかもしれない――― 「白鳥クンだけじゃない。梢ちゃんも、珠ちゃんも、沙夜ちゃんも、  朝美ちゃんも、バラさんも。  私の―――大切な、家族。大切な―――人達」 家族。 現代では、こんな温かい言葉も冷たくしてしまう。 親が子を殺し、子が親を殺す。それが当たり前の時代。 そんな中、こんな古いアパートに、血も繋がらない赤の他人達が、家族のように付き合う。 それは、昔あった光景。 今では、最早天然記念物。 だから、こういう「家族」は、大切にしないといけない――― 「ただいま〜」 梢ちゃんの声だ。帰って来た。 「おかえり〜、梢ちゃん。  そうそう、今晩はバーベキューにしようよ」 「あ、いいですね、バーベキュー!早速用意しなくちゃ」 「ああ、私も手伝うわよ」 この「家族」において、彼女―――桃乃恵の役割は、 <面倒見の良くて、お酒が好きなお姉さん>―――なのかもしれない。 だから、今日は――― 今日ぐらいは、宴会に付き合ってもいいんじゃないかな、と思った。 ちなみに。 僕が二日酔いになったのは言うまでも無い。 "Festival Sister"is the end. 65 名前: 家族(アトガキ) [sage] 投稿日: 2005/05/30(月) 23:59:08 ID:gCuFf+Jd てなわけで、白・桃短編「家族」でした。 即興で作ったので、稚拙なのは勘弁を。 桃乃さんのキャラが崩れかかっているような気もしないではないんですが… 前の二作よりもグレードが下がってるな…orz まあ、その内、また長編を考えてます。