--------  親友 -------- それはある休みの日のことだった。 「梢ちゃん、今日はどこか二人で遊びにいかないですか〜?」 「ごめん!珠実ちゃん!今日は白鳥さんと出かける約束しちゃったの!だからまた今度ね!」 また今度・・・この言葉果たして何回梢ちゃんの口から聞いただろう。別に数えたりしたわけではないが嫌というほど聞いた気がする。 それでも私はそんな敵意な感情を決して出さずに笑顔で応えた。 「そうですか〜それは仕方ないです〜じゃあ白鳥さんと楽しんできてください〜私はお留守番してますから〜」 「ありがとう珠実ちゃん!それじゃあ行ってくるね!」 梢ちゃんの足取りはとても弾んでいた。それに今まで見せたことないぐらいの笑顔だったのも私にとっては非常につらかった。 「いつから・・・こうなってしまったんでしょうね・・・」 私は以前白鳥さんと梢ちゃんのことで口論になったことがある。しかしそれはすべて私の単なる独占欲が招いた独り相撲だった。 白鳥さんは私みたいな醜い感情を持つことなくただ純粋に梢ちゃんのことが好きだとわかった。勝手に勝負心みたいなものをもってた自分が情けなかった。 だからこれからは温かくあの二人の仲を見守ろうと決心したのである。それが梢ちゃんに対する一番の厚意だと。でも・・・ それでも私は正直寂しい感情はなくならなかった。理想と現実のジレンマに立っていたのだ。 つまりたしかに理想としては梢ちゃんの幸せを願いたい、 しかし現実は私の今までの生きがいだった梢ちゃんが誰かのもとに渡ってしまうという虚無感があった。 でも私にはどうすることもできない・・・一番の理想は梢ちゃんが私を選んでくれることなのだから・・・ そんな夢物語はもう見ないことにきめたのだから・・・ そんなことを思って廊下を歩いてると梢ちゃんの部屋の前に着いた。 「昔はよく梢ちゃんの部屋で遊んだっけ・・・」 私は一人でそんなことをぼやきながら昔の過去の思い出に更けていた。あのころはすべてが楽しかった。 梢ちゃんがいればそれ以外何もいらないとさえ思った。梢ちゃんが私のすべてだった・・・ いまだってそうなのに・・・うう 私の目には自然と涙がこみ上げていた。とめようにもとめられない。こんなとこ他の誰かに見られたくない。 そう判断したときには私は梢ちゃんの部屋の中に入っていた。 「・・・・・・ほんと久しぶりです・・・梢ちゃんの部屋・・・」 その部屋は梢ちゃんのにおい、ぬくもり、言葉では表現できないようなものがたくさん感じられた。 しかしこの部屋にはあるべきものがなかった。 それは私が以前梢ちゃんにプレゼントしたぬいぐるみ。 梢ちゃんは宝物にしてくれるといってくれた。 だからそれ以来ずっとこの部屋には置いてあったのだ。しかしそれが今はない。 なぜ?どうして?宝物じゃなかったんですか? 私はもう完全に失望してしまった。もう梢ちゃんは私の知っている梢ちゃんではなくなってしまったのだ。 私の知らないところへいってしまったのだ。私の目からはまた涙があふれていた。 さっきあんなに泣いたというのにそれ以上に涙がでてきてしまった。 さっきは寂しさのあまりに泣いてしまったが今回は悲しさのあまりだった。一番裏切られたくない人に裏切られた、 そんな感じだった。私はもう部屋から出ることにした。 ついでにこの鳴滝荘から出ようとさえ思った。とそのとき ガチャ 「あれ〜〜鍵かけてなかったんですね〜私ったら自分のことになるとつい、ってあれ?珠実ちゃん?」 梢ちゃんが帰ってきてしまった。 「あ、はい!ですから私が梢ちゃんの部屋に怪しい者が入らないように梢ちゃんの部屋で留守番してたんですよ〜」 私は泣き顔を必死に隠してごまかした。 「そうだったんだ〜〜ありがとう珠実ちゃん!」 ほんとに無邪気な笑顔だった。私が今まで何を思っていたのかも知らないで・・・ 「それで今日は白鳥さんとどこに行ってきたんですか〜?」 私は別に答えなど聴きたくもなかった。この場をやりすごすために訊いただけだ。 「え〜〜と言っちゃっていいんですか?白鳥さん。」 なにやら二人で楽しそうに話している。もうこれ見よがしというかんじだ。私に対するあてつけですか? 「いいんじゃない、梢ちゃん。もう言っちゃって」 「はい!では!」 急に梢ちゃんは私に大きな箱を出してきた。私にはなんのことだがさっぱりだった。 「こ・・・これは・・・・???」 「珠実ちゃん!!お誕生日おめでとう!」 「これ僕と梢ちゃんからのプレゼントだよ。」 私はそれを受け取ったが頭の中が混乱してしまっていたので、何も言えなかった。 「実はね白鳥さんと一緒に珠実ちゃんのプレゼント買いにいってたの。ずっと前から白鳥さんと何をプレゼントしようか相談していろんなお店に行ってたんだけど・・・今まで秘密にしててごめんね、 白鳥さんが当日まで珠実ちゃんには黙っておこうって。 そのほうがビックリするからって、ね?白鳥さん」 「うん!それに鳴滝荘のみんなにもそのことは伏せてあるよう頼んでおいたからね。桃野さんなんか自分のことのようにはしゃいでて心配だったけどね。でもその様子だとみんな秘密にしててくれたみたいだね。 そうだ珠実ちゃん、箱の中開けてみてよ!」 「は、はい・・・・」 私は気持ちを落ち着けようとゆっくり箱の中を空けた。 「これは・・・・」 そのなかにはきれいなガラスケースの中に二つのぬいぐるみが入っていた。しかもよく見ると片方は私が梢ちゃんの部屋で必死に探したあのぬいぐるみだった。 「驚いた?実は珠実ちゃんからもらったあのぬいぐるみと私が選んだぬいぐるみを一緒のケースにいれてほしいってお店の人に頼んだの。こうすれば私たちいつも二人一緒だもんね!!」 「梢ちゃんは私のこと見捨てたわけじゃなかったんですね・・・・私・・・・私・・・・」 「ううう・・・・・うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」 すべてを理解したそのときはもう号泣していた。私は自分が情けなかった。こんなに自分のことを思ってくれている親友を自分は疑ってしまい、 あまつさえ憎しみの感情まで抱いてしまった。私はこのときほど自分がバカだと感じたことはない。 「ど、どうしたの!?珠実ちゃん!!!私なんかひどいことした??だったら謝るよ!!」 私はそんな優しい梢ちゃんにまたもや感動してしまった。ただひたすら泣いた。しかしこの涙はさっきまで流したものなんかとは違い胸が熱くなる、 そんなとても心地がよいものだった。私は梢ちゃんを抱きしめた。 「梢ちゃん・・・謝らなくてはいけないのは私のほうですよ・・・私・・梢ちゃんが私のことキライになったんだって勝手に勘違いして・・・」 「珠実ちゃん・・・私は珠実ちゃんのこと大好きだから何も心配しなくていいんだよ・・・」 梢ちゃんはそう言いながら私の背中を優しくたたいてくれた。これがほんとうの梢ちゃんのぬくもりだった。そして私はやっとこの言葉を言った。 「ありがとう、梢ちゃん!」 「どういたしまして、珠実ちゃん!」 おわり