「死の医学」への日記
著者:柳田邦男
629円、471ページ、新潮文庫
ISBN4-10-124915-6 C0195
始めに断っておかねばならないのは、この作品は氏の日記ではないということだ。
氏が主人公というわけではなく、取材でかかわった人たちが主人公だ。
話の形、展開のさせ方から言えば、日記という名前が順当かもしれない。
「死の医学」という言葉の、中でも「死の」という言葉にドキッとしないだろうか。
この「死の」という言葉の響きこそが、死というものをどのように捉えているか、
に通ずるように思われる。
形あるものは皆滅びる。
それは、たとえ医療技術に支えられている人間も例外ではない。
死をどのように捉えるか、というのは大事だ。
本書では、死の受け入れ方というのが書いてある。
ただし、決して押し付けがましくない。
それでいて頭に直接届くようなよく考えられた文章だ。
受け入れ方が変わると捉え方もおのずと変わってくる。
多くの章に分けられている。
文章は氏の主観を極力排し、事実を誇張せず正確に記したものとなっている。
自らが出すぎた真似をせず、この作品を引き立てる裏方にまわっている。
医療という専門性の高い分野の事を読み手に分かりやすく伝えていることもあり、
書けそうで書けないものをうまく表現している。
死ということだけではなく生ということもきちんと見つめている。
また、医療のあり方にも少し触れているのが興味深い。
生と死というのは対極をなすというよりは表裏一体のようなもので、互いに身近な存在だ。
万人が通るものこそが生と死というもの。
それゆえに万人に対してこの作品は自分のあり方というのを深く考えさせる。
(平成十五年五月一日作成)