十五少年漂流記
著者:ヴェルヌ 訳者:波多野完治
400円、285ページ、新潮文庫
ISBN4-10-204401-9 C0197
簡単に言うなれば冒険小説である。
まずページを開くと始めに地図があるのだが、
どことなく小説内の文章では場所の位置関係を把握しづらいことを裏付けているようでもある。
事実、それがないと位置関係を少し把握しづらい。
きちんと把握しようと思うと読むのに手間取ったりするのが残念だ。
題名通り、漂流するわけではあるが、
漂流するということは漂着するということにつながる。
どこに漂着したか分からないがために、行われるのは冒険である。
冒険には探険がつきものであり、この小説の面白さの軸にもなっている。
好奇心旺盛な少年が見知らぬ地で冒険するという、
まさにうまい組み合わせである。
冒険の下地としては申し分がない。
何かを発見した時の喜びなどの感情を大げさにならないように書いてある。
読み手もそれを自然と受け取ることができる文章に整っている。
子供の頃に町内を探険した経験はないだろうか。
ささいなことでも自分で何かを発見した喜び、純粋な感情があったはずだ。
それは町内探険も小説でも喜びなどは同じだ。
舞台が違うというだけで根本的には変わらない。
変わらないがゆえに、読むとまるで自分も小説内に入り込んで
現実に冒険しているかのようでもある。
さらには少年の喜びをまるで自分の喜びのようにすら感じさえする。
登場人物に感情移入できる人にとっては親しみのわく作品だろう。
登場人物である少年達が少し似通ったイメージをこの小説では受けてしまう。
全員の性格などが一通り書かれているが、さほどそれが行動として出ていない者もいる。
少年達の数が多いというのが一因だ。
人数が多いことが決して悪いわけではない。多さに対する工夫が少し足りないだけである。
どうも話の途中から緊張感がなくなる。そうなると冒険も面白みが減少してしまう。
もう少し苦難を交えると良かったのではないかと。
基本的には書くべきところはかけていてツボは押さえてある。
あえて言うなら楽しさを与える明るい作品に分類されるのではなかろうか。
話の流れが前向きなところにも好感が持てる。
少年達の勇気と知恵がとてもまぶしい一冊である。
(平成十四年十二月二十四日改訂)