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中国武将列伝(上・下)

著者:田中芳樹
上巻(590円、295ページ)、下巻(629円、325ページ)
中公文庫
ISBN4-12-203547-3 C1195、ISBN4-12-203565-1 C1195

 この二冊の本は氏が独自の基準で選んだ武将を時代の流れに沿って紹介していくという ありそうでなさそうな本である。
 中国の武将といえばだれを思い浮かべるだろう。 曹操?関羽?はたまた項羽?
 この本を読むと日本人の、中国人に関する知識がいかに偏っているのというのかがよく分かる。 大抵の日本人というのは漢や三国時代以外の中国人のことをあまり知らない。 また、諸葛孔明を中国最高の軍師であると信じ込んでいる人もいるようだ。 一部の武将しか知らないのに最高とするのはちょっと違う気がする。 わずかな時代の武将のみを知っているのは損である。 優秀な武将や、面白いエピソードのある武将というのはたくさんいる。 そのことは領土が広く人口が多いことから考えれば明らかと言えよう。
 幸い、『中国武将列伝』は読みやすく、武将の説明がなかなかよくできているので 中国武将の知識を仕入れるにはいい素材だ。 偏ってかちかちになっている知識を上手にほぐしてくれる。
 文章は語り口調であり、氏が読み手と対等の関係になって 自分の伝えたいことを分かってもらおうという姿勢が感じられる。 時には地図を交えたりなどして説明も分かりやすい。 武将ごとに面白い部分を要点をもって捉えているので、 特徴ができ、数多い武将を覚えるのに役立つ。 上下巻あるくらいだから武将の数は言うまでもない。 名前に難しい漢字を使っていたりするため覚えにくく、 それだけに特徴などは大事だ。
 中国武将という点では結構調べてあるのだが、 中国人という点では不十分だ。 中国人というのがどのような民族か、というのが書かれていない。 中国人と日本人は国は近いが民族性は近くないのである。 だから日本人という尺度で見るのは少なからず危険だ。 日本人には理解の難しい部分があってもおかしくないのだから。 例えば、王が交代した時になぜ前の王に仕えていた人が 冷遇されたり粛清されたりするのか、が納得のいく説明がされていない。 はじめのうちに数行含め置きとして書いておけば、 さらにいい作品になったのではないだろうか。
 武将の逸話や小話が好きな人にとっては十分に楽しめる作品であろう。 こういう本があると少し歴史が面白くなる。 しおりに年代とそれに対応する時代の名前が載っている。 本を読みながら参照できるので些細ながら嬉しい計らいだ。
(平成十五年一月二十三日作成)


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