新撰組血風録
著者:司馬遼太郎
780円、561ページ、角川文庫
ISBN4-04-129001-5 C0193
この作品は新撰組の隊士の一人一人に焦点を当てたもので、
一人の人物を中心に一つの話が書かれている。
話はそれほど長くなく一つで大体40ページくらいだ。
話は十数ある。
読む前に注意せねばならないのは、話のおさめられている順番が
新撰組内で起こった順番通りではないということである。
つまり読み終えた話の次がその話よりも前の出来事だったりする。
話につながりが薄いという意味では短編小説という見方が適切ではないだろうか。
もう一つは、新撰組の仕組みや隊士について作品を壊さないように
必要最低限しか述べられていないので、新撰組の作品を読んだことがない場合は説明不足となる。
この二点から考えるとある程度新撰組の事を知っておいた方がこの小説を楽しめるであろうから、
あらかじめ他の新撰組の作品を読んでおくことを薦める。
例を挙げるなら同氏の著作、燃えよ剣を挙げさせていただく。
話はどれも質が高く、有名な人物も、また無明な人物もうまく書かれている。
人物に対しての着眼点が良く、うまく魅力を引き出している。
焦点の当て方がうまいためかどの人物も個性的で、特に各話の主人公となる人物は印象に残る。
各話の主人公も良いのだが、その主人公を引き立てる脇役というのもうまく書かれている。
全体的に人物の描写は優れている。
文章が簡潔というのも評価できる。
とりわけ簡潔さが会話と斬り合いの時に生きているように思われる。
会話では語らせすぎずにその人らしさが出せているし、
斬り合いでは緊迫した様子や一瞬の勝負というものが表現できている。
欲を言えば青眼などといった剣に関わってくる用語についての説明があった方が望ましい。
わかりやすい文が大半なのだが一部に、分かる人しか分からないようなところがある。
各人のエピソードもさることながら、
新撰組という組織の中に生きる男達の生き様を見事に書いてくれている。
(平成十四年九月十九日作成)