論文の書き方
著者:清水幾太郎
660円、214ページ、岩波新書
ISBN4-00-415092-2 C0230
この作品の著者、清水幾太郎氏は1907年に生まれ、
1959年にこの作品の第一刷が発行されている。
長年文章に携わる仕事をしてきた人であり、その長年の間に蓄積された文章への情熱が
この作品には込められている。『論文の書き方』は八つの章で構成されており、それぞれの題目は
「一 短文から始めよう
二 誰かの真似をしよう
三 「が」を警戒しよう
四 日本語を母国語として取扱おう
五 「あるがままに」書くことはやめよう
六 裸一貫で攻めて行こう
七 経験と抽象の間を往復しよう
八 新しい時代に文章を生かそう」
となっている。章のそれぞれに、またさらに小さく段落付けがなされている。
もちろんこの本は論文の書き方について書かれた本ではあるが、
おおっぴらに論文を書くにはどうしたらいいかというのを書き示したものではないし、
手法や話の展開のさせ方の教えを説いたものでもない。
むしろ、大筋をどうのこうのというよりは文章の細かい部分に目を向けているようだ。
「一」の題を見てもらえば雰囲気がうかがえるはずだ。
論文も短文から成り立っているのであり、氏も文中でそのことについて触れている。
おそらく短文が出来ていないのに長文である論文が書けるはずがないという考えのために
細かい部分に注目して自分の考えを展開しているのだと思われる。
細かい部分に注目することは一から論文の書き方を学びたいという人にとっては
物足りないものであろうし少し不十分な感じがある。
しかし、あながちこの考えは間違ってはいない。
残念なことに文章が少し読みにくく、内容が理解しづらい。
文章が読みにくいのは改行があまりされず一ページにぎっしりと文字が並んでいるからである。
窮屈な感じがして読むのに少し疲れる。
内容が理解しづらいのは文章が分かりにくいということに他ならない。
氏が読み手に分かりやすく読めるように書いておらず、読んで理解してもらうというよりは
理解させると言った方が正しい文章をしている。
それがすべてを占めるわけではなく良く分かる内容もそれなりにある。
実例をもっと交えてあれば分かりやすくなったのだが。
読み手に伝えようとする内容そのものは良く、論文にかかわらず文章を書く上でとても参考になる。
接続助詞「が」の使い方に気をつける、
だらだらと文をつなげずに句点を使って一文を短く強く、
話すように書かない、などがそのいい例だ。
この本を読めば必ずしも各人が論文を書けるようになるわけではない。
問題はこの本を読んでどうするかであり、
論文が書けるようになるかどうかは各人の努力次第。
この本を読みたいと思った人はこの本に頼るのではなく
軽く支えてもらうくらいがいいのではないだろうか。
この本はそういう本だと考えている。
(平成十四年十月三日作成)