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錦繍

著者:宮本輝
400円、223ページ、新潮文庫
ISBN4-10-130702-4 C0193

手紙をやり取りすることで話が進められていくという、あまりない、 新鮮な感覚を与えてくれる小説である。
こういう形を書簡体という。書簡体をとらなければなんでもない作品であるが、 そこは書簡体という形をとった氏の勝利だと言える。 文章がすべて手紙におけるものとなっている。 手紙のやりとりには当然時間のずれというものが存在する。 普通の小説であればその時間のずれに対し時間の経過等の記述がなければならない。 この小説ではその記述を極力排除し、無駄をなくしている。 手紙と手紙の時間の間の記述をなくすことでその空白の部分を読者に想像させ、 自分で埋めることによって話を内容のある充実したものにしている。
書き出しがなかなか秀逸で書簡体という世界に入り込むのにも役立っている。 話のほうも悪くない。 甘ったるさが少し感じられるのだが、読ませるところがしっかりしていて筋がきっちりしている。 徐々に明かされていく現在と過去に引き込まれてテンポよく読み進められてしまう。 文章が読みやすいので一気に読み終えたくなるかような良さがある。 読み進めていくにつれ読む者に癒されるような気持ちを与えてくれる。 それが氏がこの小説にこめた妙なのかもしれない。
語り口調の分に悔悟のようなものを感じる。 手紙という読み手に対して伝えにくい手段を使って 多くのことを読者に伝えようとする姿勢には恐れ入る。 暗喩を用いて伝えようとしたのはなかなか効果的だ。
優れた文章や手法に支えられた、話で勝負する作品である。
(平成十四年八月十七日改訂)


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