remove
powerd by nog twitter

葡萄と郷愁

著者:宮本輝
420円、234ページ、角川文庫
ISBN4-04-146903-1 C0193

葡萄と郷愁の二つをテーマにかかれた小説で、二つの話が収められている。
二つの話といってもまったく独立しているわけではない。 二本の糸を合わせて一本のより丈夫な糸を作るように、 二つの話を交互に進めることによってこの小説を厚みのあるものにしている。 一つ一つがどうなのかは置いておいて、二つの話を一つにすることで読みの幅が広がる。 単体で読んだのでは見えてこない面白さも見えてくる。
武道と郷愁がテーマとなっているが、作品を読んでみるとテーマが少し弱い。 もっとテーマを前面に押し出す必要がある。 テーマが弱いためか作品のもつ印象というものが薄い。
ただ、この葡萄と郷愁という題は良くつけられている。 作品を呼んで題名を考えてみれば葡萄と郷愁という題は、 非常に核心をついたものだと判断することができる。 作品の内容を容易に推測させず的は外してないという点で優れた題だ。
また、話のまとまりというのがとても良い。 話の飛躍をさせず一つの出来事をうまく消化して文章にしている。 一つの事を二度も三度も使ったりすることもあり、結果的に話ががっちりと結びついている。 まとまりの一因として他には無駄な文章が少ないということが挙げられる。 何気ないようで実はすっきりした文章である。 その証拠に話の進み具合が案外速く感じられる。 テンポがいいといった表現が適切かもしれない。 無駄が少ないためにこのページ数で収まったとも言える。 ページ数以上の内容を感じさせる作品となっている。
(平成十四年八月二十七日作成)


書評に戻る