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理科系の作文技術

著者:木下是雄
700円、244ページ、中公新書
ISBN4-12-100624-0 C1240

 『理科系の作文技術』は理科系のためだけにある本ではない。 文科系にとってもたいへん意味のある本である。 文章を書く場面は大雑把に分けて二つ存在する。 文のうまさを必要とする文学の場面と、簡潔さと正確さを必要とする理科系の場面だ。 理科系の場面の例として、論文、報告書、説明書がある。 この本では、理科系の作文技術向上のために、著者が教えを説く。
 十一の章で構成されている。 作文に関わるのはそのうちの八つの章で、 残りの三つの章は、手紙、原稿、学会講演、などの作法に費やされている。 さすがにこのような本を執筆するだけのことはあって、 自身が教えを忠実に守っている。 この本自体が教えを実践したものであり、手近な手本ともいえる。 内容に吟味が行き届いておりすらすらと読める。 簡潔さの賜物だ。 実践できれば相応の技術がつく内容になっている。 内容の中でも文の良し悪しを記述してあるところは、実生活に活用が利くので興味深い部分である。
 著者は読者に理解してもらうために様々な手段を使っている。 時には図や表を使い、時には文章の引用を使う。 そのため単調にならず退屈しない。 また、ところどころに演習が設けてあり、読ませるだけでなく書かせることによっても、 文章を向上させようとする。 答えがないのは議論の余地があるところではある。 しかし、文章は答えが一つとは限らず、いろいろな書き方があるため、 敢えて答えを用意しなかったのは正解だと判断する。 何もない状況では実践をしようとしないだろうから演習で書かせるのは良い事だ。
 日本人は理科系の文を書くのが苦手だ。 なぜなら、そういう教育をされていないからである。 国語では文学の教育を行い、 正確に情報を伝えたり簡潔に自分の考えを述べたりする練習をしないようだ。 大半の日本人がそうではないだろうか。 だからこそ『理科系の作文技術』が存在する。
(平成十五年十二月二十六日作成)


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