人間失格
著者:太宰治
286円、186ページ、新潮文庫
ISBN4-10-100605-9 C0193
人間失格、なんという嫌な響きのする言葉だろうか。
お前は人間失格だ、というようなことを言われれば、
言われた当人はすごく傷つくだろう。
この『人間失格』という作品は、一人の道化を演じた男の話だ。
言葉にすれば人間失格と言えてしまうような。
長編小説ではあるけども本は薄っぺらく、長編というイメージは薄い。
あんまり長い長編小説は嫌だという方には悪くない。
人間、人生を転げ落ちて堕落してゆくとどうしようもなくなっていくものである。
もうそうなるといかんともしがたくなってきて、
自分の力だけではどうしようもなくなってしまう。
あとは世の中の厳しさに振り回されて、人間が摩滅して駄目になっていく。
それをよく示すのが『人間失格』である。転落ぶりが雄弁にそれを物語る。
転げ落ちても頑張れば何とかなるという考えはこの作品によって
打ち消されて相殺されてしまうことだろう。
小説だからといって、作り物だからといって、馬鹿には出来ない。
この本がいたるところの本屋においてあるように、
人間失格となるもしくは転落する機会というのもいたるところに散らばっている。
人生は生易しくないということを読み手に伝える侮れない作品だ。
観念に満ちている、と言えば退屈そうな印象を持つかもしれないが、
この作品が退屈かと問われればためらいもなく否定する。
歩きながらものを考えているようなもので、観念を展開している時でも
話の展開は止まらず、ゆっくりであっても絶えず着実に動いている。
観念こそが大事な部分を握っていて、かつこの小説の原動力でもある。
観念がなかったらおそらく作品の質は落ちるだろう。
観念を展開させることが多いので、多少話が暗い感じが出てしまうのは否めないが、
暗いということは大して問題ではない。暗いことが一概に悪いとは言い切れないからだ。
暗さの中にもなんとも言えぬ雰囲気を持っているし、
そういったものが嫌いな人にも読んでみてはどうかと言いたくなるものを持っている。
(平成十四年十一月二十五日改訂)