十角館の殺人
著者:綾辻行人
571円、375ページ、講談社文庫
ISBN4-06-184979-4 C0193
作りが丁寧で、好感が持てる推理小説。
文字通り十角形の建物で殺人が行われる。建物も十角形ということでインパクトがあるが
主な登場人物のニックネームに有名なミステリー作家を使っているところにもインパクトがある。
建物の構造やニックネームを巧みに利用していて、
伏線を作ったりして細かいところが良くできている。
読み始めの頃は会話の言葉が少し荒く、それは無いだろうという感じがしたが
途中からはさほど面白さで気にならなくなっていた。
言葉の荒さと関連してか、やや登場人物が書き分けられてない気がした。
どことなく個性があまりない。そのためあまり登場人物に魅力を感じられなかった。
伏線を張りめぐらせて、それをうまく終盤に行くにつれて消化させていくさまは
なかなか良くできている。
なかなかトリックもいい。犯人を当てようと決め込んで読み進めてみたが、
分からなかったし意表を突かれたので感心した。
推理小説は話の中の登場人物が勝手に推理して事件を解決しては読者にとっては面白くないわけで、
ちゃんと作者が犯人の手がかりを読者に与えつつ話を進めていかねばならない。
この作品は手がかりをきちんと与えているにもかかわらず、
犯人が予測できないという点が良い。
殺人動機は単純だが分かりやすくはっきりとしていて納得のできるものとなっている。
動機についての文章が少ないので、もう少し動機に文章を費やしてもいいだろう。
構成が複雑で伏線がうまく活用されているため一つの作品として完成したイメージを受ける。
途中で別の登場人物に視点が変わるのも単調さを防ぐという意味でも悪くない。
(平成十四年七月六日改訂)