河童・或阿呆の一生
著者:芥川龍之介
362円、249ページ、新潮文庫
ISBN4-10-102506-1 C0193
比較的暗い小説が多いのが特徴である。
短編小説が六編収録されている。
どの作品も全体的に暗さがこもっており、軽い気持ちで読むには向いていない。
この作品は氏の最晩年の小説が集められており、
それは氏が薬物自殺を遂げる前のものだということを意味する。
暗さはその頃の心境が文章に移っているためなのかもしれない。
文章が心境に影響されるということはよくあることだ。
真剣に読まないと理解できないところはたくさんある。
割合からすれば体感として、内面の描写が多い。
描写が深いからだろうか、難解というのか、ちょっとした飛躍というのか。
使われている言葉が難しいわけではなく、読み手を置き去りにしているように感じる。
自分の頭で言葉を補ったり推測したりして小説を読める人には、
さして問題のないレベルではある。
もう少し読み手に分かりやすく書いてくれるとより多くの人が読むに堪えるようになり
ありがたいのではないかと思われる。
私小説も少し含まれており、氏の晩年の心境が推測できたりもする。
私小説ではないのだが、表題の作『河童』も推測を可能にする小説だ。
『河童』は70ページほどもあり、短編小説としては大作だ。
河童という題材に面白みを覚えるが、それよりも
河童という題材を用いて読み手に何を伝えようとしたか、に注目したい。
この作品における河童は一体何を意味するかは人によって意見の分かれるところ
ではあるけど、そういった幅のある読み方ができるところがこの話の良さの一つである。
この作品内では比較的読みやすい小説だ。
少し作風が違うので氏の作品を初めて読もうとする方には、
僭越ながら別の作品を読まれることを提案させていただく。
この作品が芥川龍之介、というイメージを持つと危険だからだ。
他の作品とは作風が異なっている。
割合で見ると他の作品の方が多いうえに最後の方の作品だから、
『河童・或阿呆の一生』は本来の作風ではないように思えるのだ。
とは言え、氏が作り出す文学性というのは
どの作品にもしっかりと存在しているのでご安心を。
(平成十四年十一月十日改訂)