飢餓同盟
著者:安部公房
400円、219ページ、新潮文庫
ISBN-10-112104-4 C0193
飢餓同盟は狂気を含んだ小説だ。
話全体を眺めてみればそれほどおかしくはない。
しかし、細部に違和感がある。原因は登場人物の行動原理だ。
当の本人達はいたって真面目なのだが、その方向性がよく分からない。
つっこみが入るような事をを真面目にさらっとする。
彼らと読み手とのずれが奇妙なすれちがいを生んでいるところはおもしろい。
著者はこの奇妙さや狂気をわかって作り出しているのだろう。
意識しなければ作れないと思うからだ。
まじめも行き過ぎれば狂気になるというのを体現しているようでもある。
細部が異常なのに全体としては落ち着いているというのは、あまりないのではなかろうか。
たいてい、細部も全体も同じように見える。
独特なものを持つこの作品は、好き嫌いがはっきり分かれると推測する。
奇妙な世界を覗く事ができるのも小説のよいところだ。
(平成十七年一月三十日作成)