燃えつきた地図
著者:安部公房
552円、324ページ、新潮文庫
ISBN4-10-112114-1 C0193
強烈であまり見られない文章で書かれた長編小説。
そこまで書く必要があるのかと思わせるどぎつい描写は、
ときおり難解でときおり拒みたくなる。
しかし難解といっても理解できないほどではなく、
雰囲気を作るという点では貢献できている。
えぐるように表現された人物の内面は深くえぐりすぎたりすることもあるが、
不十分さを感じさせずしっかりと書けているため読み応えがある。
この描写と内面が特徴的な作品である。
一人の人の視点のみで書かれていて、それによって話が進められていくという点では
主観が強く、あくの強い文章である。
しかし、様々なところに工夫がなされていて、
しっかり読むとこの小説のすごさのようなものが伝わってくる。
話の始めからいきなり他の作品とは違うなというものを感じさせる。
一つそういうところを挙げるなら、人の名前がほとんど出てこないということである。
男、彼女、弟、と他にもあるが、それらに言える事は人称があいまいな表現だということである。
あいまいな表現にすることによって、誰のことについて言及しているのかをしっかり読む必要が出て、
内容をより把握することができる。
読む時間が少し余計にかかるのが難だけれども、あいまいな表現を使うことによって解釈の幅が広がる。
序盤は話の大きな展開もなく、後半に対してそれほど面白くもない。
いわば後半を盛り立てるための下ごしらえといっていい。
中盤から徐々に良さが見えてくる。張り巡らされた工夫が生き始め、面白くなってくる。
終盤は文章を少し書きすぎているように思うが、基本的にはうまくできていて氏の技量を発揮している。
独特の文章なので、始めは受け付けないかもしれないが根気よく読み続けてもらいたい。
(平成十四年七月六日改訂)