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鋼鉄製拳銃・Cz75について

← 写真は本物のCz75。ただし“B”と呼ばれる最近のモノ。残念ながら初期のものとは比較にならない・・・らしい。

 Cz75というハンドガンがあります。イチロー ナガタによって専門誌に紹介されて以来、人気が急上昇し、小説やコミックに登場することが多くなりました。無論、トイガン化を希望するガンナッツは数知れず。私もその1人でした。人気がある反面、あまりにもイメージが一人歩きしたためか、あるいはイチロー個人への嫌悪感からか、Czを不当に低く評価する人もいます。曰く、「レイルシステム(銃本体に小型ライトやレーザーモジュール等のアクセサリーを装着できるよう、レール型のマウントベースを設けてある・・・そういう装備のこと)ももたない旧式なCzは、もはや時代遅れである。最近のグロックやSIGとは比較にならない。」・・・この意見は、半分当たりで半分は的はずれな批判だと思います。

 実銃のCz75は今は亡きチェコスロヴァキアで作られました。共産時代のことです。細かい歴史は専門誌を見るかKSCの取説を見てください(おいおい)。15発もの弾薬を飲み込む複列式弾倉をもつ銃としては異例なほどに細身のグリップ、スムーズなダブルアクション、高い命中精度、そして実戦的なコック&ロック式のセフティがコンバットシューターに注目されました。結果、共産圏の銃器としては例外的にアメリカで人気となりました。あのジェフクーパー(私の中では右翼の親玉みたいなオヤジというイメージがある)でさえ、絶賛したとかしないとか。もっとも、「チェコ製というのが唯一の欠点だ」との一言は忘れなかったという話を聞いたことがあります。結局、銃として必要にして最小限の部分で煮詰められていたからこそ、高い評価を得たのだということです。付け加えるなら、DAオートなのにコッキングしやすい形状のハンマー、見やすいサイト、変なデザインだけどよく考えられたグリップパネル(材質は別)などなど、「地味だけど大切な部分」に手抜きがなかった訳です。

 現在特に高く評価されているのは「初期型」とか「ファーストモデル」あるいはその形状的特徴から「ショートレイル」と呼ばれているモデルです。呼び名の通り、スライドとフレームのかみ合う溝(レール)が後期型に比べてかなり短くなっています。Cz75はSIG P210と同様にフレームがスライドを包み込むような部品構成になっています。そのフレームとスライドの前方の両サイドを、ザックリと削り取っているのです。デザイン的に非常に印象が強く、初期型の人気の秘密の1つとなっています。が、もともとは重量軽減のため(多分)で、フレームなども細かく肉抜きされ、手間をかけて加工されているようです。これは共産圏で製造された総鋼鉄製の銃器の特徴ともいえるモノで、人件費を度外視して高精度で複雑な形を削り出すことが比較的多かったようですね。

 とはいえ、発射時にスライドが激しく動く溝を短くするのは、実際には好ましいことではありません。場合によってはガタが出やすくなるからです。単純な往復運動を繰り返すスライドですが、フレームとの接触面にかかる力は、決して均一ではないのです。にもかかわらず、ショートレイル化に問題がなかったのは、材質に秘密があると言われています。非常に強靱な鋼鉄を使用しているそうで、あまりの硬さに製造に使用する工作機械の刃がすぐダメになるほどだったとか。また、この材質はガンブルーが乗りにくかったようで、現存するブルー仕上げのショートレイルは非常に微妙な色合いを見せています。もしかすると、エナメル塗装仕上げのモデルが登場したのもこういう背景があったからかもしれませんね。ちなみに後期型は、材質を一般的なものに落として工作機械をいたわり、落ちた強度はレールを延長してカバーするという考え方で生まれたモノだそうです。それでも十分一流なのですが、あまりにも初期型が良すぎるために、少々不当な扱いを受けているようですね。

 もちろん弱点もあります。ショートレイルではハンマーのセフティコックだかハーフコックだかがないので、装填&ハンマーダウンで持ち歩くには不安。これはハンマーを後期型用に交換するか、ヤスリでノッチを刻めばすぐに解決できますね。また、執念を感じるほどに細身で薄く仕上がっていますが、おかげで落としたりするとフレームが歪んで撃てなくなることもあるそうです。軍用銃っぽいイメージですが、かなりデリケートです。さらに、これは共産圏ではよくあることのようですが、マガジン(弾倉)の互換性が低いと言われています。本体とシリアルナンバーが合わなければ、Cz同士でも互換性がない場合があるとか。他の部品も心配です。職人技に頼ることのネガがここに出ているわけです。

 銃としての基本性能・・・作動の確実さ、命中精度の高さ、人間にとっての扱いやすさ、などなど。これらの点においては、いまだCz75は水準以上にあると思えます。そこに、加工の入念さ、デザインの美しさ、希少性を加えるなら、匹敵するのは初期のP210ぐらいではないかと思います。ルガーやマウザーでは、実用性能でライバルとなり得ません。しかし、道具・消耗品として扱えるかといえば答はNoでしょう。実用一辺倒の現代銃とロマン中心のクラッシック銃の中間にいる存在なのです。アルミでもプラスティックでもない、総鋼鉄製拳銃の最後の名作としてCz75は色褪せることはないでしょう。

 レイルシステムの有無を理由に、銃器の優劣を語るのは馬鹿げていると考えます。レイルシステムはあくまで「付加価値」だと思うからです。また、どんな使い方をするのかによっても話は変わってきます。個人で戦うのか、集団戦なのか。守るのか、攻めるのか。家に備えておくのか、持ち歩くのか。昼なのか、夜なのか・・・。

 そういう訳なので、現代のSWATなどがCzを使わないのは当たり前。彼らが使う銃器は「ビジネス用」なのですから。私のように趣味として銃器を扱う人間には、また別の選択肢があるということです。まあ、「実銃が優れているからといってトイガンが優れているとは限らない。その逆も真である」ということでイメージ先行には注意しましょう。勝った負けた、優れている劣っている、あるいは敵か味方か・・・というふうに色分けしたがるのが日本人の悪癖なんでしょうが。