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ドライヴは、アドベンチャーだ。A

2004.1.2

 前回は、脱輪事件を報告した。どうもあれ以来バックが苦手になってしまったのである。テク云々より、妙な恐怖感が生まれてしまったようなのだ。いわゆるトラウマというヤツですね。まぁ、あの後足回りの修理代に数万円要したという事実の方がダメージ的には大きいわけですが。さて、今回のお話は、それから数日後のことなのです・・・。

 私の仕事にも出張は付きものなのだが、何年かごとに集中的に研修出張が入ることになっている。数日から数週間という単位で、研修施設に閉じこめられて、みっちりと勉強させられるわけだ。数年前までならいわゆる「泊付き出張」になったであろうものも、昨今の不景気の影響で「通い」になったりする。

 その日は3週間続く研修の1日目。大体、初日は開講式やオリエンテーションがメインで、比較的早く終了するものだ。私はまだ日が高い中、自宅へ向けてクルマを走らせていた。研修施設から自宅までの間には1つ大きな峠道を通るのだが、その峠に差し掛かった時ふと思い出した。確か、この峠(国道)を迂回する山道があったな。かつて1度だけ、子どもの頃に親父の運転で通った道。そんなに広くはないが、大して難しい道でもなかったような記憶がある。

 一瞬、先日の脱輪事件が思い出されて、「やっぱやめよう」という気になる。が、待て待て。今度の道はちゃんと抜けているのがハッキリしているし、何より私にはナビがある!この前とは違う。むしろこの、ちょっとした冒険を成功させることが、トラウマの克服につながるに違いない。というわけで、思いつきの冒険を始めることにした。どうせ30分ほど余計にかかるだけやろ。

 国道を左にそれる。「この峠道でウチより先にガソリンスタンドはありませんよー」と宣伝していたスタンド近くの信号だ。さて、問題はどの道を通るかということだ。ナビを見ると細い枝道がいっぱいある、が騙されんぞ。山道でドツボにはまると取り返しが付かないからね。ここは、「一番大きい道を進め」だ。国道をそれて再び国道に合流するということは、それ自体が重要な経路である可能性が高い。ということは・・・見てみると、国道を表す赤い線が力強く山中に伸びているではないの!これや!!

 この道は国道だったのね。ふむふむ、この道の伸び方からすると、あの辺で元の国道に合流するのか。ありゃ、何か元の国道との間に空白があるみたいだけど・・・まさか行き止まりの国道なんてあるわけないし。ともかく行ってみよう。と、お気楽にスタートした。

 しばらく走ると、広い住宅地に出た。山の中にぽっかりと開けていて、家並みもモダン。こんな山の中に・・・とも思ったが、十分県庁所在地まで通勤圏内だからなー。静かで生活するには落ち着けるかも。などと思いながら通り過ぎる。道幅は対面2車線。所々狭い場所もあるが離合に不都合はない。さすが国道。

 ややペースを上げて走り続けていると、段々と道が狭くなってきた。だが、路肩の雑草はきちんと刈り込まれ、日々使われている「生きている道」であることがわかるので不安はない。ナビ上でも赤い線はまだまだ力強く先へと伸びている。途中、鬱蒼とした峠を通り抜け、さすがに気味が悪くなったが、そこを抜けるといかにも、という感じの山里だった。ここに住んでいる人々の重要な生活道にもなっているのだろう。道を大切に保守している様子が伝わってくる。

 様子が変わってきたのは、集落を過ぎて更に山奥へ入り込んでからだった。道幅は更に狭くなってくる。が、それよりも、路肩の雑草だ。全く刈り取られた形跡が無く、夏場ということもあって大きく道にはみ出している。この様子では、普段ここを利用する人はいないようだ。まずい。非常にまずい。が、Uターンすることもできないので、チェイサーは雑草をかき分けて更に前進する。ナビ上では赤い線が力強く伸び続けている。

 もはや冒険どころではなくなっていた。この道が正しいルートかどうかも関係ない。少しでも路肩にスペースがあれば、逃さずUターンして引き返そう。そこまで追い込まれていた。だが無情にも、左側には大きな沢が迫り、右側は山の斜面が。道幅は、3ナンバーのクルマでほぼ一杯・・・に見える。生い茂った雑草で、路肩が全く見えないのだ。ヘタに路肩を踏むと川へ真っ逆さま、かもしれない。涼しげな水音と、騒がしい蝉の声。この2つに挟まれて、チェイサーは苦しい行軍を続ける。

 そして、とうとう出会ってしまった。崖崩れの形跡である。右手の山から左手の川へ向かって、小規模ながら崩れた跡がある。とがった石ころがゴロゴロしている。中にはクルマの進行を阻む物もあって、降りて撤去する。55扁平のタイヤなんて、近頃の基準からいえば超扁平タイヤには入らないのかもしれないが、それでも岩場を越えるのに不向きなことには変わりない。大きく車体を揺らしながらチェイサーは進む。

 このような崖崩れによる岩場越えを数回経験した。意図せぬ横滑りを起こして川に落ちそうになりヒヤリとしたこともある。路肩そのものがゴッソリ崩れている場所もあった。ただ、はっきりしている事実は、「ここで脱輪したら、たとえJAFでも救助は難しい」ということだ。第一、救援車が通るにも道の状態が悪すぎる。一本道だから、吊り上げやすいように反対側に回って・・・ということが不可能。ここで落としたら、クルマを捨てて帰ることにもなりかねない、と思うと全身に冷たい汗が噴き出すのを感じる。

 気が付けば、日が大きく傾いている。山の日暮れは早い。一刻も早く脱出しないと、暗くなってからの行動は自殺行為だ。どれくらい走ったのかわからないが、ようやく国道を示す赤い線が終点に近づいていた。私が恐れるのはただ1つ。いきなり道が終わっていることだ。スッパリ道が切れていれば、延々バックで戻るしかない。しかし現実的には不可能だ。

 と、前方で舗装が途切れているのが見えた。心臓の鼓動が激しくなる。赤い線の終点だ。やはり、そこで道は終わっていた。砂利敷きの、ちょっとした広場がある。そこで車を回し、一息つく。もし、私のクルマがシャコタンだったら、あるいはこの広場がもう少しデコボコしていたら、私の冒険はここで終わっていたに違いない。ヘボヘボのノーマル車高とノーマルサイズのタイヤに助けられた恰好になったな。

 その後、狭い山道を再び苦労して戻り、更にもう一回別の道で迷って(苦笑)、今度は教訓を生かして早めに戻り、ようやく正しいルートを辿って元の国道に合流したのであった。正しいルートとは・・・国道をそれて間もなくのところにある、「オレは騙されんぞ」と自信満々にパスした狭い枝道だったのでした。よーくナビを見ると、確かに国道に通じている!あーもぉ、私ったら!

 でも、知らない道を見て、「この道、どこへ続いてるんだろう?」と思うことはありませんか?高くそびえる山々を見て、「あの山の向こうには何があるんだろう?」と思うことはありませんか?ナビを見たり、地図で調べれば「なーんや、高知か」などということなんですが。また、山を越えたくらいじゃ景色も風俗もそんなに変わらない、というのも現実ですね。それでも、私は知らない道を見ると探検したくなるわけです。

 考えてみれば、子どもの頃から「知らない道探検」が大好きで、自転車で田んぼや山の中に消えているような道にばかり入り込んでいました。その後、自転車は原付になり、オートバイになり、やがて自動車になりましたが・・・基本的には成長していないんでしょうね。さて、探検用に、質実剛健だった頃のジムニーが欲しくなってきたゾ。

 ・・・全く懲りてませんな。




追伸:
やっぱ、あれは国道じゃないですよねぇ・・・何で国道だと思い込んだんだろ?狸にでも化かされたかな。