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てっちゃん

2002.6.4

 本当かどうか知らないが、熱烈な鉄道ファンのことを「鉄ちゃん」と呼ぶらしい。「てつろう」さんとか「てつじ」さんなんていう人も、愛称で「てっちゃん」ということがある。ただ、鉄道ファンの「てっちゃん」には、独特のアクセントがあるらしい。私の住んでいる辺りでは、人名の「てっちゃん」は「て」にアクセントを置いて発音する。対して鉄道ファンの「てっちゃん」は「ちゃ」にアクセントを置くらしい。関西では人名もこう発音するのかな?

 そんなことはどうでもいいのだが(ええんかい)、鉄道はなぜ「鉄の道」なのだろうかと考えたことはないだろうか。ま、そういう私もコラムのネタのために今初めて考えているのだが。これが銅道とか金道でないのは何故か・・・アホらしくて考える気にもならないが、当たり前に「鉄の道」なんだよなあ。あの赤錆びて、車輪と擦れる部分だけ地金の色が出ているレールを、誰もがすぐに思い出せるだろうと思う。

 当ホームページのタイトルにもあるように、私はこの「鉄」という金属が大好きなのである。正確には、一口に「鉄」といっても、実際には無数に種類がある。炭素の含有量で硬度が変化するし、不純物(というか添加物というべきか)が入ることによって、性質が大きく変化する。ステンレス等の合金まで含めると、同じ鉄の仲間とは思えないぐらいだ。・・・専門家から見れば「同じ」ではないのかもしれないが、そこは素人のウンチクなのでディテールの甘さは許してほしい。

 鉄、といえば、恐らく身近な金属の中で最も錆びやすいものというイメージがあるのではないだろうか。真っ赤に錆びたクギ、サイドシルに大穴が開いたイタ車(苦笑)、熱と錆でポッキリ折れちゃったマフラーのボルト・・・。クルマ好きならゾッとする状況にも錆はつきものである。錆びた状態(酸化鉄)が金属としては安定しているのだから、放っておけば錆びていくのは仕方がない。しかし、本当に純粋な鉄(純度100%に限りなく近い、ということ)は、意外なことに錆びないという話を聞いたことがある。色も、銀よりも品がある銀色らしい。ホンマかいな?

 とはいえ、純鉄では色々と不都合もあるので、現実の世界では様々な不純物が混ざった状態で使用することになる。もちろん、錆対策を講じてだ。一般的なのは、ペンキを塗ること。空気を遮断するわけだ。錆=酸化鉄だから、酸素と接触できなければ錆は発生しないという理屈になる。メッキも同様の考え方だと思う。錆びにくい金属で錆びやすい金属を覆うわけだから。変わったところでは、黒錆をわざと表面につくり、被膜として活用する方法もある。

 銃器の世界では、ガンブルーと呼ばれる薬品を使って表面に酸化皮膜を作ることが多い。さっきの黒錆と同じように、赤錆と違って表面の薄皮一枚だけ酸化して安定するのがミソである。鉄の種類や下地の仕上げ、ガンブルーの成分(メーカーによって異なる)、あるいは処理温度などの環境条件によって、微妙に仕上がりが変わってくる。銃器といえば「黒」というイメージがあるが、光に透かしてみると美しい青みがかった色に見える。この、色味等が微妙に変化するのである。他にも熱しておいて油に浸けることで「オイルヒート仕上げ(いわゆる『油焼き』・・・正式名は知らない)」とか、テフロン等の樹脂を表面に焼き付けることもある。火薬カスや高温の燃焼ガスにさらされ、終始人間の手の脂や水分、汗の塩分などが付着するので、環境としてはかなり厳しい。しかも、微妙な摺り合わせで作動するから、厚みのある塗装は使えない。そんな訳で、銃器の世界の防錆方法は特殊な方向に発展したわけだ。

 錆、といえば「電食」という言葉を聞いたことがあるだろうか。簡単にいうと、種類の異なる金属を接触させると電気がなんたらかんたらして、その、つまり・・・錆が発生するの。よくわからんが、例えば鉄とステンレスを接触させると、鉄の側に錆が発生するというわけ。なので、ステンレスのモールを使用しているクルマでは、モールとボディ本体が直接接触しないように、絶縁体のシートが何かを挟んであるはず。古いクルマでは、これがいつの間にか抜け落ちちゃって、錆の大発生!てなこともあるらしいから注意すべし。古いクルマといえば、ボディ全体に微弱電流を流して錆を防ぐシステムもあるが、これもよくわからないな。

 さてさて、クルマに使用される「鉄」はもちろん「鋼鉄」の方。焼き入れや焼き鈍しができて、粘りもあって・・・という優れもの。最近では「ハイテンション鋼」なんていうものもあって、薄くても非常に丈夫なんだとか。何でも、プレスの圧力で硬化する鋼板を使用しているメーカもあるかもしれないという。ううむ、ベンツなども板厚自体は国産車と大差ないのに、非常に丈夫だった時代があった(現在は設計思想が変わったので・・・)。これも、材質や部品の製造過程に秘密がありそうだ。まさに現代テクノロジーの進歩の象徴かもしれない。

 とホメた直後にいうのもなんだが、こと「鉄」に関するテクノロジーについては、現代が過去に敵わない場合がある。例えば、日本刀。青白く光る刃は見飽きることがないのだが、現実には殺戮用の武器である。「いかに効率よく殺すか」を追求する人間の欲望は恐ろしいが、できあがった作品には魂が震えるような美しさがある。特に、戦国刀といわれる古いものには。

 日本刀というのはよく知られているように、柔らかい鉄と刃の部分の固い鉄とを組み合わせて打ってある。さらに、焼き入れの際に土(粘度)で刃を部分的に覆うことで、焼き入れ処理の進行と範囲を意図的にコントロールしているのである。これらの微妙なさじ加減は刀匠によって異なるし、いくら完成した刀を材料分析しても分からない。それが「技」というものだ。この「技」の部分で、現代の刀匠には再現不可能な部分があるのだという。現代の刀は錆び始めると芯まで錆びてボロボロになってしまう。が、戦国時代以前(もっと古かったかも)のものでは、錆の進行が表面で止まり、完全に錆びることがないのだという。何か特殊な表面処理を施してあるのかもしれないが、不明である。時々、古墳から錆びた鉄剣が発見されるが、もし現代刀だったら果たして残っているだろうか・・・?

 そんなこんなで、鉄の魅力は語り出すと限りがない。柔らかくもあり硬くもなり。強さも出せれば美しくもなる。溶接もできるし、その気になればどんな形のものでも作れてしまう。真っ赤な錆の塊からだって、復活することも可能だ。これは、単なる鉄の地金に生まれ変わることだってあるけどね。ともかく、私は鉄が、鉄でできたものが大好きなのだ。

 銃もそう。アルミやプラスティックの銃器は、たとえ性能的に優れていても「愛着」感じることは少ない。クルマもそう。外板はアルミやFRPでOKだが、中にはちゃんと「鉄の骨」があってほしいのだ。最近、妙にアルミやらカーボンやらのモノコックボディをもつクルマが増えてきているが、「すげぇ」とは思っても欲しいとは思わない。アルミの溶接は難しく、歪んだボディの矯正は困難だと聞いた。カーボンのボディは、亀裂が入ってしまうともう元の強度には戻せない。

 「精度と強度が落ちる」からと、極力溶接をせず、極力板金の技術だけでクルマを修理する職人の話を読んだ。鉄のボディだからこそ、という事はあると思う。そういう人たちの「愛情」と「技」を注ぎ込めるクルマ作りであってほしい。多分、私は「鉄のクルマ」だけでなく、それに愛情を注ぐ頑固な職人の「技」も愛しているのだと思う。

 さて、21世紀、クルマはどうなっていくのかな?