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ひやあつ

2002.3.31

 それにしても、最近の「さぬきうどん」の露出ぶりはどうしたことだろう。テレビや雑誌などなど、頻繁に取り上げられている。マスコミの方達も、よほどネタに困っていると見える。まあ、いまだにグルメ特集といえば「寿司とラーメン」で、それに温泉がプラスされたりされなかったり。超高級だったり。こんなんでネタ組んでいけば、行き詰まるのも納得である。ラーメンといえば、「壮絶苦労話」か「超絶ガンコ親父」、あるいは「行列のできる店」・・・それはそれで面白いんだけど、いつまでも同じ切り口では、視聴者には飽きられてしまう。で、制作者側としてはさらに刺激の強い店を紹介する。視聴者は驚く・・・けどすぐに耐性ができる。そこでさらに刺激の強い店を紹介して・・・。こういうのを「穴場店のインフレーション現象」という。名前は今、私が付けた。

 子ども番組のヒーロー物では、シリーズ後半になるに従って敵が強くなっていくことがある。主人公が一度敗北したりして、特訓しリベンジを果たすことで1ランク強くなる。基本的にはこのパターンの繰り返しなので、物語の後半では、普通の強さの敵では主人公のライバルとなりえないのだ。昔の学園物などでは悲惨で、最初は同じ学校の生徒と番長(なつかしい!)の座を争っていた主人公が、最後は国家の陰謀と戦ったりすることになる。さらに、その戦いで間違って生き残ってしまったりすると、古代の神々とか宇宙の意志とかいう、ワケのわからないものと戦わされてしまうのだ。ね?こういうストーリーって、誰でも1つや2つは心当たりがあるのではないかな?極端な例だが、こういうインフレーション現象が、グルメ番組でも起こっているのだ。

 さぬきうどんでも、切り口を間違えるとインフレーションに陥る可能性はある。香川県で約700件のうどん屋があるというが、紹介に行き詰まるのも時間の問題だ。が、そうなる危険性は、ラーメン等に比べれば多少低いのではないか、とも思う。何故か。それは「穴場」といわれる名店群の、個性の強烈さのためである。

 700件ほどのうどん屋が、すべて「うまい店」というわけではない。当然。200件・・・ここでは堅実に100件は「本当にうまい店」があると推測しておこう。その、うまい店の中でも、超A級とされる店がある。いわゆる「穴場」店だ。人によって多少推薦店が違うが、誰もが推す店というのが何軒かある。穴場の条件として、一般的には次の2つのポイントが挙げられる。

 ○ うどん自体が極めてうまい店
 ○ 驚くべきシチュエーションに存在する店

 最初の「うどんのうまさ」は基本中の基本。それも奇抜なメニューではなく、麺と出汁(だし)の味だ。だから、評価の対象は「かけ」が一般的。ま、基本ができてる店だから、奇抜なメニューもうまいのだけどね。有名な「釜玉」だって、店によって雲泥の差がある。で、うまいうどんを、すごいシチュエーションで食べれば、さらにおいしくワクワクしながらいただけるではないか。それが、穴場とか秘境とかいわれる店である。

 ただ、この「すごいシチュエーション」というのを未経験者に理解してもらうのは難しい。ヒントとしては、そうだなぁ・・・「汚くて、見つからないような場所にひっそりとある店ほど、うまい」と言えば、多少は想像しやすいかな?たとえば、農家の納屋みたいなところで、看板も出さずにばーちゃんが1人でやってるとか。うどん玉しかないので、自分で丼と箸と醤油持っていって、軒下で立って食べるとか。あるいは、もとは鶏小屋の汚い小屋でやってる店で、客がネギがないと文句を言ったら、主人に「裏の畑にあるけん勝手に持ってこい」と言われたという噂のある店とか(これは有名ですね)。路地の奥にあって、隣の家からしか見えない店とか。田んぼの真ん中にあって、客はその辺の地面に座ったり立ったりして食べるところとか。

 自分で書いててムチャクチャなシチュエーションだとは思うが、こういう所がハッとするような麺を出すのである。そのうまさも、方向性はバラバラ。ひたすら腰が強いのや、絶品に喉ごしが滑らかなの。グミのような不思議な押し返しの腰をもつもの。太いのや細いの。熱いのや冷たいの。シチュエーションも、そう。ひたすら田舎だったり、やたらゴミゴミした町中に隠れていたり、山中(笑)だったり。個性を系列に分類することもできるだろうが、それにしても統一性がない。いや、個性的すぎる。なのに「うまくて、楽しい」という部分だけは共通しているのだ。だからこそ、1日に10件近くも回る「うどんツアー」が成立するのだと思う。飽きないからね。だって、店によって全然味も雰囲気も違うんだから。「世界各国の美人と仲良くする」楽しさに似ていると言ったら、不謹慎だろうか。

 個性、といえば注文方法(というかメニューの呼び名)もユニークなものがある。こんぴらさんで有名な琴平の某名店では、「あつあつ」「ひやあつ」「ひやひや」などと注文する。

 ・「あつあつ」は、麺も出汁も熱い、いわゆる普通のかけうどん。
 ・「ひやあつ」は、冷たく締めた麺に熱い出汁をかけたもの。当然ぬるい。
 ・「ひやひや」は、冷たく締めた麺に冷たい出汁をかけたもの。つめたいかけうどん。

どう?この店では、大の男が大きな声で「あの・・・『あつあつ』の大ください」なんて言うのだ。恥ずかしがっていてはうまいものは食えん、というわけで勇気を出してチャレンジして欲しい。個人的に上のメニューを分析すると、

・「あつあつ」
 せっかくの堅腰系の剛麺なのに、温めたせいで腰が少なくなり普通の柔らかくてもろいうどんになってしまっている。人によっては「やさしいうどん」と表現するかもしれないが、私には物足りない。
・「ひやあつ」
 冷たく締めた麺は、しっかりした本来の腰がある。それは熱い出汁をかけても変わらない。「ぬるい」と表現したが、旨味を味わうのに最適の温度かもしれない。「あつあつ」が放置されて冷めかけたものとは、当然ながら完全なる別物。この「ぬるさ」は計算された確信犯である。私の一押し。
・「ひやひや」
 冷たい麺なので当然ものすごい腰がある。出汁も冷たいので、その腰が失われることはない。ただ、あまりの剛麺ぶりに、初心者には「重い」と感じさせるかもしれない。ストレートに麺のすごさを味わいたい、そのためには優しさなど不要である、というプロ(何のや)の客のためのメニュー。

 同じ麺を使った「かけ」のバリエーションなのに、こんなに印象が異なるのだ。食べ比べてみたいでしょ?これもさぬきうどんの懐の深さ。客のプロがいて、店を育て守っている。これもさぬきうどん文化の、懐の深さ。そう、単なるグルメじゃなくて、文化なのである。・・・と大上段に振りかぶるのは間違いで、単に「みんな、うどん好きなんやなー」ぐらいに考えるのがエエと思います。

 さて、では本題に入るとするか。さっきの「あつあつ」「ひやあつ」「ひやひや」って、クルマ造りにも共通するものがあると思いませんか?たとえば・・・

・「ひやひや」なクルマ
 スポーツカーをはじめとする「剛」なクルマ。硬派なクルマ、という表現もできるかも。走行性能や、クルマとしての本質にこだわり、ユーザーフレンドリー=快適性・扱いやすさ等に背を向けた、クルマのためのクルマ。

・「ひやあつ」なクルマ

 「剛」の本質をもちながら、表面上ユーザーに優しい素振りをしているクルマ。隠れ硬派、といえば理解しやすいだろうか。一度ムチを入れれば、スポーツカー顔負けの走り。入り口は優しげだが、限界性能を発揮させようとすれば厳しい素顔を剥き出しにする。いわゆる「羊の皮を被った〜」の類で、私の最も好きなタイプ。

・「あつあつ」なクルマ

 ユーザーにとっての扱いやすさ、安楽な快適さだけを重視して造られた、クルマのカタチをした家電製品。


さて、あなたならクルマを買う時にどう注文しますか?「あつあつ」?それとも・・・?


 どう、納得した?うどんシリーズも、パート2になるとネタのふり方が難しくて苦労するのだ。取りあえずまずまずの結論に達したということで、めでたしめでたし。

わたし    「ま、ワシのウデを持ってすれば、うどんだろうが大根だろうが、
       クルマのコラムに仕立てるなど造作もないこと。どっからでもかかってきなさい!」

麺通主婦T松 「ナニ偉そうにしとるんよ(睨み)。前フリばっかりで中身が無いやん、このコラム」

わたし    「・・・すんません。うどんの話を書きたかっただけなんですぅ」

大先輩には頭が上がらない私。怖いお姉様が苦手なんですぅ。ということで、T松姉さんも登場したことだし、彼女を団長とする「○×麺通団、秘境一撃記」を近々執筆予定です(笑)。