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クルマ変態・変態グルマ(その2:変態グルマ編)

2002.2.23 相変わらずの内容で後編行きます(苦笑)。疲れてると筆が荒れますね。

 さて、前回はフツーのクルマに対する変態愛について語ったので、今回は変態なクルマの話である。

 変態的なクルマ(ほめてるんですよ)といっても、連想される車種は様々で、人によってもかなり差があるのではないだろうか。カウンタックなんかは、明らかに変態(ほめてるんですってば)。1番目立つガルウイングもそうだが、コクピットからの眺めは常軌を逸している・・・らしい。空間が歪んだような、というか空間をグサグサに切り込んだような、というか。座っているだけで妙な気持ちになりそうだ。そして背後にはゴージャスかつ荒くれたエンジン。この状況は、多少便利になったとはいえ後継のディアブロでも変わらない。デザインや配色が、ケバいんだけどセンスのいい内装(私の好み。オーダーの仕方によっても変わるよね、こういうクルマでは)。なんだか、「妙にマツゲが長いんだけどマッチョなお兄さん」を連想する。何という例えだ。

 他にもデザイン的に変態なクルマは多い。私の1番好きなアルファロメオSZ(ES30の方)は、醜いことが格好いいという、自分でも理解に苦しむ感情にさせてくれる。そういう意味ではR34GTRもいいセンいっている。現行プリメーラも、最初見た時は「げげっ」と思ったが、すぐに気持ちいいと感じるようになった。特にワゴン。なぜだか、恐竜の化石の頭蓋骨を思い出すんだよな。それも草食のヤツ。そういう意味では、復活の日産は恐るべき地力を身につけつつあるのかもしれない。

 しかし、そういう変態デザインのクルマ(しつこいようだけど、ほめてるんです)は、やはり国産車には少ない。こういう分野はラテンの独壇場だといっても過言ではないだろう。ただ、デザインだけで変態グルマを語るのは少々危険でもある。

 たとえば、フェラーリ。時々迷いも出るようだが、どの時代においても世界で最も美しいクルマを造るメーカーとして認知されている。が、フェラーリは代表的な変態グルマであることも事実である。あんなに美しく、驕慢なまでに奔放なクルマが、変態。

 デザインだけが変態の条件ではない。もっと別の、匂いというか空気というか、もっと便利な言葉で「オーラ」とでもいうか。そんなものを感じさせるクルマが変態クルマ。そして重要なことが1つ。変態グルマの放つ「変態のオーラ」は、変態でも何でもない普通の人を虜にするのだ。実はこれが変態グルマの最大の条件だと考えている。オーラというよりも「病原菌」に近いかも。

 さて。話は変わるが、多種多様なクルマの装備品の中で、どうにも私の感性に合わないものがある。それは、本革シート(あるいは本革内装)とウッドパネルである。クルマの内装というのは、非常に過酷な環境にさらされる。日本における年間の寒暖の差、湿度の変化、直射日光・・・などなど。革が劣化するのに、これ以上の条件はない。銃器のホルスターなどは革製のものを好む私だが、あれは厚くて重く、そして頑丈な革本来の特長を生かしたもの。一方のクルマの内装用の革は、薄く削ぎ、表面にペイントを施した、革とは名ばかりの別物。

 ウッドパネルにしても、ムクは割れや反りが出やすい。なので、最近は合板や樹脂等のベースにスライスした天然木を貼り付ける手法が主流になっているという。確かに狂いは出ないだろうが、1ミリ以下にスライスしたシートを「木」と言えるのだろうか。もちろん、プリントによる木目「調」は問題外。私は昔から「〜調」というのが苦手なのである。チェイサーにしてもカーボン「調」内装だったら、今ほどの愛着は感じなかったかも。

 そんな好みを抱いていた2001年のある日、輸入車ショーに行く機会が訪れた。暇つぶしがてら覗いてみたが、お目当てのアルファ147はまだ展示されているわけでもなく、ボクスターを見ながら「50歳になったらポルシェでも買うか(ガソリンエンジンがあればの話)」なんて思いつつブラブラしてたわけ。ふと、ジャガーのブースが目に入った。あんまり興味はなかったけど「『英国車ならジャガー』って人、けっこういるんだよな。どれ、ひとつ見てやるか」という気になった。英車好きの好む革&ウッド内装を批判するチャンスだという思いがあったことは否定しない。

 車種は忘れたが、ロングノーズのクーペ。お値段1000万円オーバーなり。のデカいドアを開けて運転席に滑り込んだ。こういう時、ジャージ(スポーツ用のアレ)が役に立つ。柔らかくて滑りが良くて、革のシートには優しいのだ。ディーラーからは冷やかし客として扱われがちだけど。ジーンズは硬いし、色移りもあるからやめた方がいい。ま、高級車を、シートの痛みを気にせず普段着で使い倒すというのも格好いいとは思う。

 で、だ。ジャガーの運転席に納まって最初に感じたのは、フワッとした革の香りだった。最近の国産車は、革をしなやかにするための油に、匂いのしないものを使っていると、ものの本で読んだ記憶がある。以前は魚油を使用していたために、革からは強烈な匂いがした。革の匂いは、実は油の匂いだったのである。ジャガーだって、昔はもっと強い匂いがしたのかもしれないが、今だって充分革っぽい匂いが満ちている。そして、目に触れるところ、手の触れるところ、ありとあらゆる部分が上質なレザーで覆われているのだ。ベージュのような、クリームのような・・・なんとも言えない色。

 視覚的にも嗅覚的も革に包まれた状態で、ふと思った。革でできた胃袋に納まったような感じだな・・・いやいや、この安心感というか居心地の良さを語るには、この表現では不十分だ。そうだ、「母親の胎内にいるかのような安心感」とでもいおうか。いや、もちろん記憶はないんですけど。

 そう思うと、ウッドとの調和も好ましく思えてくる。なぜだか、「女性の水着は黒の革製に限る」という某友人の言葉が納得できたりして。関係ないか?ともかく、本革内装の魅力に目覚めた瞬間であった。ただし、上質で、しかも徹底した「革尽くし」に限る。上質であればそれだけデリケートであるともいえるのだが、それでも大金をはたいて革内装のクルマを選ぶ人の気持ちが少しだけ理解できた。

 でも、ジャガーは変態クルマメーカーではない。少なくとも私好みの変態グルマは造っていない。そんなことを思っていたら、とうとう出会ってしまったのだ。究極の変態グルマに。それは、まさに私の理想とするクルマであった!

 マセラッティ。それも最近の3200GTや最新のスパイダーのように、「いかにもスポーツカー」という艶っぽい姿のものではない。アレはあれでいいのだが、私の好みは少し違う。少し昔の、ビトルボとかクワトロポルテのような、4枚ドアの何の変哲もないセダンがいい。

 極めて地味なセダン。だが、ディテールを細かく見ると、「おおっ!?」と唸らせる造形が溢れている。そして、いったん走り出せば、本格的なスポーツカーも顔負けの走り。トライデントのエンブレムさえなければ、あるいはよほどのクルマ好きでなければ、正体を見破ることは難しいかもしれない。まさに「羊の皮を被った狼」の究極のモデルの1つだ。

 さらに、ドアを開ければ。何とも言えない豪奢な内装。上質の革とウッドをふんだんに使ったインテリアは、英車とはまた違った趣である。造形なのか色合いなのか。はたまたメーターやスイッチ、例の時計も含めた小物のせいなのか。この上なく色っぽい。ただ色っぽいのではなく、「淫靡なほどに」色っぽいのである。いんび・・・普段の会話でこの言葉を使うのは、私ぐらいかな。

 ともかく。マセラッティの地味系セダンを女性に例えるなら(非常に問題のある行為だとは承知しています)、「外見は地味で清楚だが、中身は淫乱」・・・文字にしてしまうと味気ないですが。そういえば以前の職場の先輩F原氏は、理想の女性像を「昼は淑女、夜は娼婦」と語っていたが、その後家庭内はどうですか?ま、荒れてるなら荒れてるで面白いんですけど。

 マセラッティに興味を持ったのが最近のことなので、細かいことや歴史的なことはよく知らない。だが、こいつがとびきりの変態車メーカーだということは少しずつわかってきている。これまで、クルマに「淫靡さ」や「腐る寸前の円熟」を感じることなどなかったというのにね。こいつの前では、愛するアルファも小娘にすぎない。いつかは・・・のフェラーリだって、多少高慢なお姫様にすぎない。そういうヘビーな毒に、すっかりやられてしまったようだ。ビトルボなんて100万円ぐらいからあるし・・・いやいや、カネ払って苦労を背負い込むことはない、とはわかっちゃいるんだが。

 何しろ元々が「変態」の私のこと。普通のクルマを変態的に愛するだけでも危険なのに、それが変態グルマに手を出すとどうなってしまうのか。やはり、変態グルマは常識のある正常な人にまかせておくほうが賢明かも。クルマ変態と変態グルマのペアって、想像するだけで恐ろしいし、あんまり聞かないでしょ?

 ・・・そんなことを思いつつ、ネットで検索していたら、あるマセラッティオーナーのホームページに、こんなコーナーを発見した。「Cピラーフェチ」・・・なになに、美しいCピラーをこよなく愛する人のコーナー!?これぞ変態の中の変態(ほめてるんですよ)。まいりました!!。

注:ピラーってのはクルマのボディで屋根を支えている柱の部分のこと。100系チェイサーのようなピラードハードトップの場合、フロントウインドウのところがAピラー、前後のドアの間がBピラー、リヤウインドウのところがCピラーとなる。「Cピラー好き」とは、つまり足フェチのようなものか・・・。リンクしよーっと。