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たまTのローリングサンダー

(「友よ」シリーズA) 2002.1.23

 私の友人に、たまTという男がいる。学生時代からの付き合いだから、もう14年にもなるだろうか。いわゆる腐れ縁というやつである。今でも年に一度は顔を合わせる機会をもつようにしている、というか私が彼の家に転がり込んで、タダ飯タダ布団にありついているだけなのだが。この関係は学生時代から同じだったりする。

 このたまTという男、実に温厚な人物である。どれくらい温厚かといえば、学生時代には「眠れる牛」と言われていたぐらいだといえば、ご理解いただけるだろうか。いや、言っていたのは私だけなんですが。また、何事にも裏表がないのも好感が持てる。少なくとも同性には。いや、本当に。

 ともかく、(見てくれは置いといて)好青年のたまTと、私は同学部同学科ということもあってすぐに友達になった。わりと恥ずかしがり屋で人見知りが激しい私は、友達を作ることが苦手なのだが、不思議とすんなりと友達付き合いが始まった。お互い地方出身ということもあって贅沢な遊びも知らず、割と価値観が近かったというのもあるかもしれない。

 ただ1つ、たまTが私と違っていた点。それは、彼が極度の乗り物好きだったということである。高校時代には原付、大学に入ってからはバイク、そしてクルマへと手を広げた。私がクルマの免許を取ったのはハタチの時だったので、大学入学当時の私にはほとんどそういった方面の知識はなかったのである。

 たまTが最初に買ったのは、EP71スターレットSi。いわゆる「かっとびスターレット」と宣伝していたモデルのNA番だった。小さくてキビキビ走る、若者が最初に買うクルマの定番だったように思う。それを選んだたまTの趣味が何だか初々しくて、好ましく思ったものである。で、来たばかりのそのクルマでドライブに行こうということになった。助手席に乗り込み、スタート。その直後。

 し、死ぬ!

 クルマに乗せてもらって真剣にそう思ったのは、それが初めてだった。前が空けば即全開。スピードメーターは私の未経験ゾーンを指す。身近に慎重派ドライバーだけしかいない環境で育った私には、初の恐怖体験だった。たまTよ、君の出身地には牛ばかり通ってて信号もないというのは本当なんだな。それにしても、昨日今日免許を取った人の運転ではないぞ。君の故郷には法律がないという噂も、本当に違いない。

 それはともかく、このスターレットというクルマ、決して豪華ではなかったが、楽しいクルマだった。過不足ない「等身大のクルマ」といえばいいだろうか。時々、ふっと思い出して乗ってみたくなる。私の中でそういう存在になっているのだ。ちなみに、たまTのスターレットは、購入後それほど時間が経たないうちに、雨の峠道で同乗の女の子にいいところを見せようとして横転。炎上のうえ大爆発を起こし、消防車10台が駆けつける大惨事となってこの世から消えた。・・・という噂がある。

 不死鳥は炎の中から蘇り、永遠に生き続けるという。懲りない男たまTも、炎上事故から蘇った。すぐに新しいクルマを手に入れたのである。今度はTE71のトレノ。バイトの先輩から3万円で手に入れた。当時すでに10年選手で、ベージュのボディカラーが印象的。えらく古めかしいのだ。当時でさえ「一昔前のクルマ」という感じがして、かっこいいとは思えなかった。安いとはいえ、自分のクルマとして所有するのは、ちょっと・・・。

 そこまでしてクルマが欲しいのか?私には理解できなかったが、同時に「クルマって、そんなに人を引きつけるものなんだな」という素朴な感動を覚えたのも確かである。そして、このトレノがまた楽しいクルマだったのだ。乗ってみるとインテリアも年式相応に古めかしいのだが、何とも言えない味がある。走り出すと、これが元気良く走るのだ。クーラー(この時代のはエアコンじゃないよね)も、異常なぐらい良く効く。古くったって、ミシミシいってたって、楽しいクルマってあるんだな。でも、やっぱり「死ぬ!」という思いをしたけど。

 最近、自分のクルマの好みが、「小さくて軽くて、車重に対して程良いパワーのあるやつ。旧車もエエな」だということがわかってきたのだが、そのルーツはこのあたりにあるのかもしれない。もっとも、このトレノはバッテリーが弱っていたらしく、某店の駐車場で押し掛けするハメになったのも、今となってはいい思い出・・・かもしれない。

 その後、「真夜中のメインライトのバルブ爆発&ハザードの明かりだけを頼りに必死の帰還」というアポロ13号も顔負けの冒険の後、しばらくして路線バスに突っ込み爆発炎上。消防車10台が出動する大惨事となりこの世から消えた。・・・という噂がある。

 不死鳥は何度でも炎の中から蘇るという。たまTも三度よみがえることになった。今度は大学何年の時だったか。当時絶大な人気を誇っていた「アートフォース」シルビア。いわゆるS13のNAモデルであるQ’s。それまでスタイリッシュクーペ(軟派カーともいう)の雄であったホンダのプレリュードを押しのけて、デートカーの王者となった名作である。しかも今度はAT。サンルーフ付き。さすがたまT、何だかイヤらしいぞ。

 しかし、新車の納車を待てない人が中古に走るという人気車である。中古車とはいえ随分高価だったはず。一介の学生に払えるのか?と思っていたら、案の定たまTのやつは学校に来なくなった。さては夜逃げしたか。面白がる気持ちが心配に変わるころ、彼が必死でバイトしているのを知った。あなた、一戸建てを買う時のローンと同等の金額じゃないの。そりゃ学校行っている場合じゃないよね。ということで、彼のためにせっせとノートを取ってあげるのであった。私じゃなくてUちゃんのノートだったんだけどね。

 このシルビアでもやっぱり「死ぬ!」という思いをしたのだが、性能はともかく「クーペはかくあるべし」という感じで、古典的スポーツカーの匂いがぷんぷんする名車だというのは本当だと思う。

 その後、私自身色々なバイクやクルマ(数は多くないが)に乗る機会があったのだが、あの時のような「死ぬ!」という思いをすることがないのが、少し寂しいような気もする・・・わけはない。だって本当に怖かったんだからね。

 たまTも、いつの間にやらR32GTSの4ドアなんぞというスポーツセダンに乗るようになって、落ち着いたのかなーと思っていたらマフラー換えたりして、ちっとも落ち着いていない。のだが、これまたいつの間に知り合ったのか、賢い嫁さんと結婚して元気な男の子まで生まれたので、そうそうおバカなことはせんだろう。大体、「天は二物を与えず」というように、あまりにも完璧な私は独り者で、不完全なたまTには良きパートナーが現れているので、このことわざは本当かもしれないと思う今日この頃なのである。

 そんなことを思っていたら、最近この男、スカイライン好きが高じて、ハコスカの購入を真剣に目論んでいるらしい。嫁さんのブレーキが勝つか?たまTの熱意が勝つか?家庭内では嫁さんの安定優位は動かないのだが、事がクルマのことになると、どう転ぶかわからない。

 たまTとはそういう男なのである。そんな男と友達になったことが、私の車人生の運の尽き、ということか。クルマ好きは誰でも、この趣味に深入りするきっかけになった友人なり知人なりがいる、ということで。私にとっては、たまTこそがその人なのである。感謝してよいのやら、恨んだ方がよいのやら・・・。

 たまTの「ローリングサンダー」て何かって?いやぁ、たまTの人生はローリングしっぱなしだし、常にスパークしてるってことで。今回の駄文で、好き勝手にイメージをふくらませていただければ、当の本人も本望でしょう。