remove
powerd by nog twitter

トヨタ・ヴェロッサは名車か

 トヨタにヴェロッサというクルマがある。どうも今、巷のクルマ好きの間で、「いい」「いや、好かんぞ」と論争が起きているようなのである。実際のところはどうなのであろうか。

 クルマとしての成り立ちは、「現行のJZX110マークUに、スタイリッシュなボディを着せたスポーツセダン」と、簡単に説明することができる。しかし、その「スタイリッシュさ」がただごとではないのだ。ほとんどグロテスクといってもいい造形は、大胆な面の使い方が印象的。好きな人にはたまらない形かもしれない。実際、開発者側からは「ごく一部の人であっても、本当に好きになってくれればそれでいい」という趣旨の発言があったという。内装もマークUとはまるで違い、悪趣味なまでにスタイリッシュ。あっさり味が多いトヨタ車の中にあって、このクルマ確かに華がある。それも、とびきりの毒花だ。ただし、個人的には濃色に限る。淡い色だと、なぜかカタツムリとかの軟体系の生物を思い出してしまうのだ。

 走りも侮れない。基本的にはJZX100までのツアラー系が独立車種になったようなものなので(あくまで例え。トヨタ社内での位置関係とは関係ない)、ごくごくまっとうなスポーツセダンに仕上がっている。さらに、人間の感性を刺激すると謳われている、各種の演出がトヨタとしては目新しい。大トヨタが、ついに本気になったか!?と思わせてくれるクルマなのだ。

 じゃあ、おまえはヴェロッサが好きなのかと聞かれたら、答えはノーである。私はどうしても、あのクルマが好きになれない。なぜなら、あのクルマを見た瞬間に、「ああ、トヨタさん、アル○ァロメオになりたかったのか」と感じてしまったからだ。それほど、トヨタの演出(売り方)は露骨だったのだ。大体、ヴェロッサというネーミング自体が、イタリア語のrossoに関係あるらしいし。あえてボディカラーに赤を入れなかったのも、裏から見ると・・・である。では、「トヨタ製イタ車」としてのヴェロッサに、少々ケチをつけてみよう。

 まず、最大の魅力となるエクステリアのデザインだが、個人的には好きな部類に入る。ただ、致命的な欠点がある。それは、ボディの大きさだ。もし、これがカローラクラスであれば・・・大きくてもアルテッツァベースで5ナンバー枠の比較的小さなクルマであれば、凝った造形によって宝石のようなクルマになっていただろう。凝った造形は、小さいクルマに凝縮してこそ輝く。そんな気がする。マークUクラスになると、もっと大らかに、クルマ全体で面を考えた方がよい。その方が、クラス感というか上質感が生まれる。ただし、大らかな面にアクの強さを盛り込むのは至難の業なのだろうが。そういう意味で、166にはデザインの本家たる格がある。ヴェロッサのボディカラーに濃色を押すのは、ボディサイズに合わぬディテールや面構成からくる間抜けな印象を、少しでもカバーできると考えるからだ。

 インテリアデザインについても、そう。色気のある演出は、度を超すとただの「下品」。そのぎりぎりのところをいかにして攻めるかが、デザイナーの腕の見せ所なのだが・・・。

 これまで散々ケチをつけてきて、こういうのもなんだが、ヴェロッサそれ自体は良いクルマである。クルマを購入する予定の友人がいたら、推薦の筆頭候補に挙がるだろう。それもこれも、私自身がイタ車好きゆえの拒絶反応かもしれない。

 ヴェロッサを見ていると、かつて「和製プレスリー」とか「和製マリリンモンロー」と呼ばれた芸能人を思い出す。あるいは、流行なのか、アメリカのダウンタウンあたりの黒人を真似たファッションに身を包んだ若者たちを思い出す。

 和製プレスリーやマリリンモンローは、実力もあってそれなりに人気が出たが、本当にプレスリーやマリリンモンローを愛する人たちには、あまり受け入れられなかったように思う。結局、本物を真似て演出すればするほど、本物との違いが浮き彫りになったからだろうか。いくら黒人のファッションを真似てみても、やっぱり日本人だ。「なりきれない存在」というのは、ある意味オリジナルから一番遠い存在となる。似ているだけに拒絶反応が起こる。これも、一種の近親憎悪といえるかもしれないね。 ともかく、私の場合ヴェロッサの登場が、本気で「アルファが欲しい」と思うきっかけとなった。うちの近所では、たまたまビスタとアレーゼが隣り合っていて、ヴェロッサと156を並べて見ることができるのだ。「遅いかもしれない。FFしかない・・・けど、本物が欲しい」と思ったね。

 今、ヴェロッサを購入しようと思っている人がいたら、どうぞ自分の意志を大事にしてください。きっと、期待を裏切らない最高の相棒になってくれるはずだ。ただし、「トヨタのクオリティをもったイタ車」だとは思わないこと。あくまで、スタイリッシュでスポーティな「トヨタ車」だと考えて欲しい。そこさえ間違わなければヴェロッサに対する愛情も、薄れないと思う。

 ねえ、トヨタさん。あんまりイタリアイメージで売らない方が、結局はヴェロッサというクルマのためだと思うんだけど。