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剣客風説草紙

一之回
牙神 幻十郎
 覇王丸との果たし合いの最中、幻十郎は子供に背中を刺される。
「お前がお父をっ…」
子供が声を震わせて言う。
背中の古傷が開き、自分の身体を血で紅く染めた幻十郎の脳裏には、母の顔が浮かんでいた。
幻十郎は子供を睨み付け、張り倒す。しかしそれ以上何もしようとはしなかった。

 夕映えの紅のなか、幻十郎は覇王丸の肩を借り石段を降りていた。
「よぅ…生きてるか?」
「ふん…」
覇王丸の問い掛けに幻十郎が答える。
そして沈黙……。
「酒が…飲みたい」呟く幻十郎。
それを聞いて覇王丸が答える。
「…今夜は…飲むか」
覇王丸の眼は潤んでいるようだった。
「阿呆ゥが…」
幻十郎は閑かに目を閉じ、微笑んだように見えた。

 次の瞬間、覇王丸を突き飛ばすと腰の梅鶯毒を抜いて眉間に突き付けた。
「殺し合う相手に情け…甘いぞ、覇王丸!!」
蒼白になり、血を吐くような声で幻十郎は言う。
「お前のそんなところが…昔から…。」
刃が覇王丸の額に小さな紅い玉を作る。
しかし、それ以上刀は進まなかった。
「幻十郎…おめぇ……」
覇王丸を睨み付けたまま、幻十郎は二度と動かなかった。

(終わり)
引用元:芸文社「月刊ネオジオフリーク」2000年3月号
イラスト:北千里 画伯

 これは「SAMURAI SPIRITS2 アスラ斬魔伝」の幻十郎エンディングの直後でもある。

---エンディング引用開始---
果たし合いの時は来た。幻十郎の刀が覇王丸の刀を弾き、振り上げられる。
梅鶯毒が光を放った。
「覇王丸、殺す!!」
瞬間、熱く重い衝撃が幻十郎の背を貫く。
振り向くと、子供が幻十郎の背へ短刀を突き立てていた。
「お前がお父をっ……」
薄れ行く意識。背中の傷が開き、身を染める血煙の中で幻十郎は母の顔を見た。
落日。幻十郎は覇王丸の肩を借り、境内の石段を降りていた。幻十郎がつぶやく。
「酒が……飲みたい」
「……今夜は……呑むか」
夕陽が、覇王丸の眼を潤ませているようだった。
「……阿呆ゥが……」
微笑むと、幻十郎は閑かに目を閉じた。

---引用終了---

 シーンが大幅にかぶっているが、文章は微妙に違っており、受ける印象も少し違う。
 幻十郎はこのまま息を引き取ったらしく、「剣客異聞録 甦りし蒼紅の刃 サムライスピリッツ新章」の覇王丸エンディングでは、覇王丸が「……九鬼刀馬。あの男……何処かオマエに似ているな……。幻十郎……。俺たちが目指した侍の道は、一体何処へ向かって続いているんだろうな……」と呟いている。

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