『 歩き出す力 』
そっと目を閉じる。
右の瞼、左の瞼。右の頬、左の頬。・・・鼻先に。そして唇に。
羽根のように軽く、次々と触れていく柔らかな感触。
「さあ、もう大丈夫。目をあけてごらん」
ゆっくりと目を開くと、視界に広がる太陽のように温かい笑顔。
「怖くないだろう?」
わたしはこっくりと頷くと、しゃがみ込んでいたロイ兄様の首筋に思いきりしがみついた。
***
そっと目を閉じる。
右の瞼、左の瞼。右の頬、左の頬。・・・鼻先に。そして唇に。
確かめるようにゆっくりと、自分の指先で触れていく。
優しく触れる唇も、受けとめてくれる腕も、もうここにはないから。
目を開けて息を吸い込んだ。
そして、全てを拒絶するかのように背を向け歩く男に向かって駆け出す。
「セラ!!」
大きく叫ぶと、ぴたりと歩みを止め、憮然とした表情で彼は振り向いた。
何か言おうと開きかけた唇に、思いきり背伸びをしながらそろえた指先を押し当てる。
「き・・・さま、何を・・!」
初めて見る動揺したセラの顔に、思わずくすりと笑みが洩れた。
「勇気のおすそわけ」
笑顔で言うわたしに、セラは呆れたようにひとつ息をつき、再び黙って歩き出した。
大丈夫。きっと見つける。あなたのお姉さんも、ロイ兄様も。
だからそんな風に、一人で行ってしまわないで。
私は絶対についていくと決めたから。
強くなりたい・・・そう心の中で呟きながら、わたしは今はついていくことしかできない背中に向けて歩き出した。
*間接キス??ロイ兄×ミイス主かと思いきや一応セラ×主。ロイ兄は恥ずかしげもなく笑顔でこういうことやりそうです。