『 冷たい約束 』のど元にぴたりと剣を押しつけられても、 その男は相変わらず皮肉気な笑みを浮かべたままこちらを見ていた。 隙を見せぬようにゆっくりと剣を下ろすと、男は冷たく嘲るように笑う。 「はっ。殺さないのか?」 「死にたがっている悪人を殺してあげるほど暇じゃない」 男は一瞬口元を引き結んだが、次の瞬間には一層酷薄な笑みを浮かべて言った。 「今殺さないなら、俺はまた君を狙う」 「その時はまた戦うだけ」 男は無言で剣を鞘に戻した。私もそれに連動するように、細身の剣を腰に戻す。 その時だった。 ふいに胸元を掴まれぐらりと体が揺れる。 しまった。 そう思った時にはもう、男の腕の中にいた。 衝撃に備えて、ぐっと身を縮める。 ・・・しかし、いつまでたっても予想していた痛みはやってこない。 その代わりに、頤を持ち上げられたところを唇に冷たい何かが触れていくのを感じ、思わず目を見開いた。 驚くほど近くに、整った鼻梁と冷たい光を放つ薄い硝子がある。 そして、その奥には今まで見たことのない真剣な光が。 「この世界が終わる前に、きっと君を殺しに来るよ」 まるで愛の言葉を囁くような声音で、男はそう言った。 咄嗟に腰の鞘を勢いをつけて突き出すと、予想していたように飛び退く。 「今のは、その約束の証だ」 そう言葉を残し、そのまま黒い霧に包まれてその姿は消える。 私は呆然と立ち尽くしたまま、まだ冷たさの残る唇に指先で触れた。 「・・・ジュサプブロス・・・・」 きっと次に会ったときは避けられない。 わたしは彼を殺すだろう。 凍った唇に熱を戻しながら、静かにそう思う。 胸にかすかに宿った痛みを、約束の証のその奥に、深く沈めよう。 あなたは私を殺しに来る。わたしは次に会ったときはあなたを殺す。 それが、冷たい約束のくちづけ。
*ジュサプー×女主。きっとジュサプーは執着しすぎて片思い。
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