「ねぇ・・・本当にやるの?」 残暑というには早すぎるとある真夏の日。都会から遠く離れた山奥に、明らかに場違いな少女たちが四人楽しそうに話し込んでいた。 「やっぱり夏は山だよねぇ〜」 「山の涼しさは心地よいでござるよ」 「あ・・・あぅ〜・・・ 無視しないでよぉ〜・・・」 少々古風な作りの服を着た少女が二人。頭からしっぽが二つ飛び出ているのがもう一人と、肩からストールを掛けている繊細そうな少女が一人だった。四人とも歳は十代前半のようで、いまだ幼さが漂っていた。 「それにして、外出許可が下りたよね」 「確かに。いずみ殿は身体がよわ・・・」 「忍ちゃんっ!?」 「・・・申し訳ないでござる」 「ううん、いいの。自分でも病弱なのは分かってるから」 いずみと呼ばれた繊細そうな少女の声は澄みきった山の空気にとてもよく響いていた。 「そうそう! 話を戻すけど、さっきの話・・・。本当にやるの?」 無理をして笑ういずみちゃんの姿に耐えられず、少女が話題を変える。 「もちろん! アタシ、楓ちゃんの修行してるとこって見たことないもん。でもどうせみるんだったら自分もやってみた方が面白いじゃない?」 「うむ。海羽殿の意見にも一理あるでござる」 「もうっ! 忍ちゃん、その気にさせないでよね。ただでさえ、忍者の修行って厳しいんだから・・・」 「大丈夫でござるよ。海羽殿の身体能力は目を見張るものがあるでござるから」 「そうそう! バッチリだいじょーぶよ」 「でも・・・」 楓は油に火を注いでしまったかもしれないと、今更後悔した。海羽の性格からして「厳しい」とか「難しい」とか言うと反発するに決まっているのだ。忍ちゃんは忍ちゃんでお気楽だし。こーゆー時はいずみちゃんがそれとなーく二人を諫めて・・・。 「面白そうね」 「・・・え? ・・・えーーーっ!?」 てっきり反対してくれるとばかり思っていたいずみまで賛成の意を漂わせる発言をされてしまった。 「で、でもでもっ! 修行するにも、海羽ちゃんの修行服ないし。第一いずみちゃんを放っておけないよ!」 頑張って言いたいことを整理しつつ、発言をしたつもりなのだが、本来言いたい事の六割程度しか言えなかった気がする。 「あー・・・」 「確かに、いずみ殿を放って置くわけには行かぬでござるな」 「ほっ・・・」 よかった。二人とも諦めてくれたみたい。 「ねぇ・・・。忍ちゃん、分身の術とかで何とかならないの?」 「む・・・。ぶ、分身の術でござるか・・・? 確かに、分身の術を使えばいずみ殿の世話をしつつ修行に参加することは可能かもしれぬが・・・」 「無理よ」 「どうして?」 「分身の術っていうのはね。全身から集めた気を丹田に留めて、それをきっかり二等分して形を固定しながら外に出す術なの。この術を使うと体力も全部二分の一になっちゃうのよ。そんなんじゃ修行できないし、それに熟練した忍者でも一時間も保てないんだよ」 「えー。お手軽にボン!って増えるんじゃないの〜?」 「無理だよ。マンガじゃないんだから〜」 「ちぇーっ」 「ふっふっふ・・・ お困りですかな?」 「ですかな?」 「な?」 三人で呻っていると、どこからともなく怪しげな声が響いてきた。 「む。何奴!?」 「敵!?」 「・・・(ニコニコ)」 「・・・うわー アタシすっごい聞き覚えあるわ。コイツらの声」 ぽとっ 四人の前に何かが落ちてきた。それを視界に止めた時には、それは鈍い音を立てて白い煙を巻き上げていた。 「ふ、不覚! 煙幕でござるか」 「みんな気を付けて! いずみちゃん、頭を低くして!」 「あー・・・大丈夫だよ。たぶん」 視界が戻っていくと同時に楓は先程の煙幕が上がった場所に誰かが立っているに気が付いた。 「誰!?」 『じゃーん!』 見事なまでにハモった声があがる。 「・・・え?」 「なんと」 「・・・やっぱり」 現れたのはこれまた海羽と同じ頭からしっぽが二本生えた少女が三人だった。背の高い桃色の髪をした少女と金髪の少女はしっかりポーズまで決めていた。 「・・・あれ? 璃璃夢と苺だけじゃないのか?」 海羽はお決まりの二人の後ろで恥ずかしそうにモジモジしている少女に目がいった。 「・・・誰? その娘」 「新しいメンバーなのだ!」 しゃきーん。 すかさずポーズを取るアホ娘。 「新しいって・・・」 「ちなみにこの衣装を作ったのは彼女よ」 璃璃夢に自分の事を言われた少女は恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。 「あーっ! かわいーっ!」 突然声を上げたの楓だった。 「え〜っ? この服手作りなの〜? すごーい!」 「か・・・楓ちゃん・・・?」 「にゃはは♪ これは全部花雪ちんが作ったのだ。花雪ちんはお裁縫が得意なのだ!」 「えへへ」 「ホント、器用よね。というか、苺のあの絵からここまでの服を作るなんて神の為せる技よ」 金髪の悪魔っ娘が神を語りつつ、紙切れを一枚取り出した。 「・・・何コレ?」 「・・・これは珍妙な」 「イカさんかな?」 「うさぎさんじゃない?」 「失礼なのだ。これは衣装デザイン画なのだ!」 ・・・・・・。 みなの間に沈黙が訪れた。 「ま、まぁ、とにかくアタシらがいずみちゃんと遊んでるから、海羽、アンタは修行でも苦行でも行ってきなさいな」 「いや、苦行はイヤだな・・・」 「で、でも海羽ちゃんの格好じゃ危ないよ。枝とかで足切っちゃうよ?」 「あ、大丈夫です。海羽さんの分の衣装も作っておきましたから」 「えっ、でもこれって大事な衣装なんじゃないの?」 「これは忍装束なのだ! ニンニン!」 「む。忍装束にしては少々派手すぎではござらんか?」 「派手じゃないとステージ映えしないのだ」 「・・・根本的に忍装束の意味が分かってないんだな、お前は」 「ニンジャの服じゃないのか?」 「や、もういい」 海羽は花雪から服を受け取り側の木陰で素早く着替えた。フリルが付いている割に、見た目程重くなく動きやすかった。 「・・・花雪ちゃん、あなた天才よ。こんなアホ、さっさと見限った方がいいわよ?」 「いえ、私なんてまだまだです。それに苺さんのデザインはとっても斬新で勉強になります」 「とっても・・・斬新・・・ねぇ・・・?」 あれを斬新というならもはや何も言うまい。 「それじゃ、アタシはちょっくら修行体験してくるから、くれぐれもいずみちゃんをよろしくね。特にそこのアホ。バカなことやっていずみちゃんの病状が悪化したら、竹箒でちくちくの刑だからね」 「おー? 苺は海羽たちと一緒に付いていくからいずみちゃんとは遊べないぞ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「ねぇ、楓ちゃん、気のせいかしら。なんかあのアホが一緒に修行するみたいなことをのたまったような気がするんだけど」 「拙者にもそう聞こえたでござる」 「私にも・・・」 「どうしたのだ? 三人とも」 パチン! 「は、はいっ!」 璃璃夢が指を鳴らすと花雪が素早くウエストポーチから糸を取り出し苺を側の木に縫いつけた。 「今のうちだ。三人とも」 「璃璃夢、さんきゅ!」 「恩に着るでござる!」 「それじゃ、行ってくるね〜」 三人は常人離れした跳躍力で枝と枝を渡り、あっという間に山の奥へ消えてしまった。 「あーっ! 待つのだ! 苺ちゃんも行くのだーっ!」 「やれやれ・・・」 「あ、いずみちゃん・・・これ」 「あっ、かわいい・・・ これも花雪ちゃんの手作りなの?」 「気に入って貰えると嬉しいんだけど・・・」 「うん、ありがとう・・・」 「えへへ」 |
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山の奥へやってきた楓・忍・海羽の三人は早速修行を行っていた。 「これはどんな修行なの?」 三人は池から飛び出た竹の上に片足で立っていた。 「精神統一とバランス感覚を養う修行でござる」 「ちょっとでもバランスを崩して竹を揺らすと危ないから気を付けてね」 「・・・揺らしたらどうなるの?」 「振動が水に伝わり、奴が寄ってくるでござるよ」 「や、ヤツ・・・?」 「ワニだよ」 「わ、ワニっ!?」 「あっ、ダメだよ、揺らしちゃ!」 海羽はなんとか崩れかかった体勢を直すも微妙に竹を揺らしてしまった。 「・・・今のマズかった?」 「・・・楓殿」 「うん」 「えっ? えっ? えっ?」 ガバッ 三本の竹の上から人影が消えた瞬間、海面から大きな口が竹の上の空間に噛みついていた。 「あ・・・危なかった・・・」 全身で息をする海羽とは対象に二人の少女は平気な顔をしていた。 「龍之助もまだまだだね」 「忍鰐ならもうちょっと気配の消し方を覚えるべきでござるな。あれでは接近が分かり易すぎるでござるよ」 「まぁ、龍之助はまだ子供だし、しょうがないよ」 「・・・あの〜 タツノスケって言うのはどちら様のこと?」 「あぁ、先程海羽殿に襲いかかろうとしたあのワニのことでござるよ」 「龍之助は龍之進の一人息子なの。あっ、龍之進っていうのは私のお師匠さまの忍鰐だったのよ」 「へ、へぇ〜・・・」 |
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「・・・あれ? 苺ちゃんは?」 いずみちゃんの言葉に先程まで木に縫いつけられていた苺の姿が、いつの間にか消えていた。と、いっての衣装は縫いつけれたたままだった。 「まぁ、服を脱げば簡単に脱出できるわな」 「璃璃夢さん・・・放っておいて大丈夫でしょうか?」 「気にしないでいい。いつものことだ」 「そうなんですか?」 「花雪もそのうちわかるさ・・・アイツの扱い方は・・・イヤでもな」 「ふふ」 |
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「曲者!」 次の修行場で手裏剣投げの修行をしていると、突如忍が海羽の背後の茂みに向かって手裏剣を投げた。 「ど、どうしたの?」 海羽の質問には答えず茂みに近寄る忍。 ガサッ 「なっ!?」 茂みの中には手裏剣の刺さった、わざわざ墨で苺と書かれた半紙の張り付けられた丸太が転がっていた。 「かっ、変わり身の術!」 「ていっ!」 背後に何かがいると気づいた時にはもう遅かった。不覚にも忍は背後からの急襲に対応できずに敵の毒牙に掛かってしまった。 むぎゅ 「忍ちゃんは柔らかいのだ〜」 「う、うわーっ!」 「し、忍ちゃん!」 助けに行こうとする楓を海羽が咄嗟に止める。 「やめておいた方がいいよ。今近づくととばっちりを受けるから」 「と、とばっちり・・・?」 「苺の抱きつきは攻撃力が高いんだ。あれはもうベアーハッグより危険だな。忍ちゃんには悪いが、ここは生け贄になって貰おう」 「・・・ごめんね忍ちゃん。忍ちゃんの分も、私強くなるからね・・・」 ホロリ 「ぐっ・・・、せっ、拙者はまだ死んではござらんよぉ〜 楓殿ぉ〜・・・」 「にゃはは♪ よいではないか、よいではないか」 「い、いい加減にするでござる! ハッ!」 ボン 白い煙とともに忍の姿が先程の丸太に変わる。 『おー・・・』 ぱちぱちぱち 思わず拍手を贈る楓と海羽。 「まったく・・・って、うわー!」 「にゃはは♪」 「き、キサマは不死身かーーっ!」 『あはははは・・・』 「か、楓殿ぉー 海羽殿ぉー 助けるでござるぅ〜!」 真夏の静かな森の中、二人の笑い声と忍の悲鳴はいつまでもこだましていた。 |
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thauks 楓ちゃん (double bells*) 忍ちゃん (陰陽龍) いずみちゃん (Augurio) 海羽ちゃん (Milky Love) 苺ちゃん (JOKER VOICE) 璃璃夢ちゃん (ナルラトホテプ) 花雪ちゃん (SPRING WINDY) |
あくまでシスプリメの外伝としてお楽しみ頂ければ幸いです 2004/10/3 楓ちゃんの益々の活躍を祈って JOKER VOICE おにやん |