勝利のポーズ <前編>
「まさか………」
私の名前は鈴凛。メカいじりの好きなごくフツーの可愛い女の子。そう思ってた。
…少なくとも、数分前までは。
明日は大好きなアニキと電気街にショッピング♪
ウキウキしながら着ていく服を選び、見せたい発明品のチェックをしていた私のもとに1通のメールが届いた。
「へぇー、またロボコンが開催されるんだ」
メールの内容はロボットコンテストの広告メールだった。
近いうちに都内で開催されるらしく、前回の参加者に送られているらしい。
「前は…、失敗しちゃったしなぁ〜」
思わず棚に飾られているくまぽんを見やる。
前回は開催日当日にくまぽんの調子が悪くなり、折角のアニキの援助も無駄になってしまったのだ。
「一応は直してみたんだけどなぁ…」
棚に手を伸ばし、くまぽんを引き寄せ、軽く頭を撫でた後、くまぽんの顔を覗き込んだ。
くりっとした二つの丸い目。ちょっとバランスの悪い耳。
こーんな可愛い子が出たら、絶対みんなの注目の的よね♪
「また頑張ってみよっか?」
軽く首を傾げくまぽんに尋ねる。
くまぽんは何も答えない。答えるワケはないのだが、私はくまぽんの目に決意の炎が見えたような気がした…、たぶん。
「そんじゃ、ま」
そうと決まれば早速メンテ&チューンアップをしなくっちゃ!
ラボの明かりをつけると、部屋の中央にはシルクの掛かった何か。
言わずと知れた私の分身、メカ鈴凛である。
「やっほ〜♪」
布を取り、分身に挨拶。
「あんたのメンテも一緒にやっちゃおっか?」
11時を回った時計を伏せ、作業に入る。
慣れたと言えば慣れた作業なのだが、気を抜いてはいけない。
「〜〜〜〜っ!」
背伸びをして体をほぐと、小気良い音が背中から響いた。
一体何時を回ったのだろうか?
そんなことを考えながらコーヒーを一口すする。
「…まず」
完全に冷えきったコーヒーは眠気を完全に消し去ってしまった。
分身の具合は上々、くまぽんも問題なく大会では存分に力を見せ付けてくれるだろう。
「よし!さすがにもう寝ないとね。明日はアニキとの…、だし」
翌日、電気街でのラブラブデートの最後に寄った喫茶店(ここ、最近のお気に入りなのよね♪)で昨夜のメールについてアニキに相談してみた。
「という訳だからさぁ…、ねっ?ねっ?ねっ?ア・ニ・キ♪」
アニキは仕方ないなぁ、とか言いながら頬を掻き援助を了承してくれた。
さっすが私の自慢のアニキ♪
これで準備はバッチリ!
あとはくまぽんに前々から考えていた新機能を搭載するだけだわ!
あはっ。これで優勝は私とアニキのものよ!
大会当日。
予想を上回る人ごみに、私とアニキは空いた口が塞がらなかった。
「うわ〜…」
みんなちゃんとロボコン主旨を理解しているのかな?
なんか、ビル並みの巨大ロボットが数体見えるんですけど…
あっ、変形失敗してる。……け、煙が。…あっ、かわいそ〜。怪我人出てるよ。
まぁ、ともかく参加登録しないとね!
どうせ私とアニキのくまぽんが優勝するんだからっ!
「鈴凛様。パートナーは、くまぽんで宜しいですか?」
「はい♪」
「では、こちらが参加証になります。一時間後に組み合わせが決まりますのでそれまで控え室にておくつろぎ下さい」
「はーい。じゃ、行こっ!アニキ!」
アニキの腕を引いて参加者の控え室に向かう。
「ん〜♪」
ご機嫌で控え室へ向かう途中…、
「あてっ!?」
曲がり角で人とぶつかってしまった。
「チッ。ここは子供の遊び場じゃないんだぞ」
嫌なヤツ。変なヒゲはやしてさ。
ぶつかったオジサンはシルクハットを被って片目にだけ鎖付きの眼鏡を付けていた。
いかにもイヤミな感じがぷんぷん。
「ごめんなさいっ!」
不注意はこっちだもんね。ちゃんと誤るのよ、鈴凛。
って思って頭を下げたのに…、
「フンッ」
行っちゃった。
何よー!ちゃんと誤ったでしょ!
ぴんぽんぱんぽーん!
「参加者の皆様に申し上げます。組み合わせが決定致しました。ご確認の上、指定の待機室へ移動下さい」
「さーて、くまぽん!頑張ろうねっ♪」
リュックからくまぽんを取り出して両手で顔を覗き込む。
調子はバッチリ!秘密機能の調子も大丈夫そう。
組み合わせ表のある参加登録をした部屋では参加者で溢れていた。
「………えっ!?」
私、結構ツイてないみたい……。
ここのロボコンは1回戦目は5チーム(個人出場も1チームと数える)で直前に決まる種目で得点を競う。
その5チームの中に、さっきのオジサンが……。
「はぁ……。なんかなぁ〜」
ガラにもなくちょっと落ち込む。
種目、なんだろ?
「運搬」「バランス積み木」「風船割り」「空手」「相撲」「歩行」「障害移動」「浮遊移動」「高速移動」………。
くまぽんは軽量タイプだから、細かい作業とかは得意なんだけどなー。
ま、私にはアニキがいるし。なんとかなるでしょ。
<続く>
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