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異聞妹姫伝・外伝 『春ノ歌 -harunouta-』






―――私は今、何をしているのだろうか。

動くたびに顔に返ってくるモノが私から感覚を奪っていく。

いつもそうだった…。

あの人は自分でなんでもこなし、私を必要としていなかった。

そのくせ、呆れるくらいのお人好し。他人の為に喜んで谷底へ落ちる、そういう人だった。

どうしてあの人に仕える気になったのかは、正直なところ私にも、こうなった今でも理解出来ずにいる。

所詮は機械人形と言ったところか…。

私のコード・ネームは「SUPR07型-SOG」。短期殲滅用生体戦闘アンドロイドの初期型、…いやテスト用プロトタイプの消耗品だ。

耐久性や臨界率を測る為に壊れるまでボロボロにされ、捨てられる。その捨てられた機械人形の墓場に私は横たわっていた。

体は再起不能、修復不能の状態まで壊し尽くされた私は幸か不幸か培養脳だけは無傷であの人に拾われた。

なぜ、数千体以上の廃棄処分された機械人形の中をあの警備網をかいくぐってまで私だけを回収したのかをあの人に聞くと、「一目惚れかな?」などと臆面もなく言い放った。その時はあの人の真っ直ぐな瞳によって上昇した体内温度を押さえるのに必死で、今思うと上手く話をそらされてしまったものだ。



―――座標229に反応アリ。エネルギー値、パターンX2。

内部にあの人がわざわざ付けてくれたセンサーが反応するよりも疾く私は動いていた。

あの人と追われる日々は、そう悪くなかったと思う。

多少なりともあの人に惹かれていく自分もそんなに嫌じゃなかった。

だから、あの人が……。



「…すま…ない」

ドクン。

存在しない心臓が跳ねる。

血液のように全身に力が満ちていくのを感じた。



私はあの人が体温を失っていくのを、黙って見ていることしか出来なかった。

流れ出る血液を、消えていく命の灯火を、ただ黙って見ていることしかできなかった。

遅かれ早かれ、この結末はやって来ただろう。

そんな事は判りきっていたことだ。ただ、唐突すぎた。それだけ。



「おーい、春歌ァ〜」

あの人は私を「春歌」と呼んだ。「名前は?」と聞かれ「SUPR07型-SOG」とコード・ネームを答えた時、あの人の可笑しそうにお腹を抱えて必死に声を抑えていた。ちょっと、むっとしたのを覚えている。

「SOLDIER UVERSION PROTOTYPE 07機 SOG」だ。

だから、改めて嫌味を込めて答えてやった。

すると、あの人はあごの無精ひげを右親指と右人差し指で触りながら何かを考え出した。

「SOGってのは?」

暫く考えた後、私にそう問いかけて来た。

「整備区分の記号だが…」

わけもわからず答えると「そうか」とつぶやき側にあった椅子に座り、また何かを考え出した。

時間にして137秒。およそ3分で彼は口を開いた。

「よし、じゃあ『春歌』にしよう」

「……なぜだ?」

「へ?」

暫く黙っていた私から出た言葉は、私にも意外な言葉だった。

「いや、いい…。…なんでもない」

自分の言葉に驚き、即座に発言を取り消す。

「『春歌』か? そーだなァ〜…」

私の2つ目の発言はあっけなく無視された。

「宿題だ」

口の端をわずかに上げ、子供が悪戯をしたときのような彼の顔を見た瞬間、不覚にもドキっとしてしまった。

なにはともあれ、私は生まれて4年と3ヶ月で初めて名前を手に入れた。

後でヒントをもらったのだが、それは「僕の趣味を考えれば割と簡単だと思うよ」という言葉だけだった。

彼の趣味は、読書と機械いじり。読書は主に専門書と推理小説をよく読んでいた。



全身が研ぎ澄まされていく。

既に活動限界は過ぎている。これ以上活動を続ければ、あと数十分で私は二度と動かないガラクタに戻ってしまうだろう。

でも、止まらなかった。

許せなかったから。

あの人を奪ったコイツらではなく、守りきれなかった自分が許せなかった。

「春歌…」

最後の最後まであの人は私を「春歌」を呼んでくれた。

守りたかった。

でも、守れなかった。

飛び散る鮮血は私の涙。

涙を流せない私の涙の代わり。

あの人は最期に笑っていた。私のせいで灯火を狩られたというのに、笑っていた。

笑いながら私の頬に触れ、名前を呼んでくれた。

私は、一体これからどうすればいいのだろう。

―――私は今、何をしているのだろうか。















あとがき


本当は連載目的で考えた構想でした。でも、時間取れるか微妙だったんでちょいとひねって外伝という形で(ぇ
…ね? 読まない方が良かったでしょ?
春歌じゃない!とか言われても、私は謝りませんからね!!
私の春歌のイメージは、一般的な「文武両道才色兼備な大和撫子」ではなく「とにかく強くて気高い」なんですから(待
ここまで読んで下さって、尚且、本編も読んで見たい!と言う方が5人いれば連載も実現するかもしれません。数字が具体的すぎて信用できませんか(w
ホントに外伝なんで実際は主人公も全然違うんですよねー(爆
あ、ワザとらしく残した「なぞなぞ」は、暇な人は考えて見て下さい(ぉ

04.05.16. おにやん