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東京

 ジルル君のことならよく知ってるから、ジルル君 のことを少し話そうかと思う。ジルル君はもともと 廃棄されたペンキを盗んで、瓦礫の街の片隅で壁 に絵を描くだけの子供だった。ジルル君は筆も使わ ず、直接手にペンキをつけてそれを毎日夢中で塗り たくっていた。でも、ジルル君が青年になる頃に転 機が訪れたんだ。  名高き画家ラッド・マスラート。彼がその壁の絵 を移動中の車から見つけたのだ。 「あの絵を描いた人間を探し出しなさい」  ラッド・マスラートは側近に言いつけジルル君を 探し出した。そして自分のアトリエに呼んで、壁で はなくキャンバスに絵を描くように言った。ジルル 君はそのキャンバスにペンキを塗りたくった。そし てその絵を見たラッド・マスラートは涙を流し神に感 謝した。  アート界の一大センセーションとしてジルル君は 迎えられ、ジルル君は瓦礫の街を出て花の都の豪 邸へ移り住んだ。無数の賞賛がジルル君を包み、 その絵の全てが莫大な金を産み、都の女たちはジ ルル君を追いかけた。そして一年が過ぎたとき、ラ ッド・マスラートは近々完成する予定の、都で最も 大きな時計台の外壁のペイントをジルル君に依頼 した。するとジルル君は言った。 「僕にはもう、絵が描けません」 「なぜだ?体の調子でもおかしいのか?」 「毒にやられました」 「毒?何の毒だ?」 ジルル君はラッド・マスラートの家を飛び出して、 そのまま行方知れずになった。完成を控え布がか かった時計台を眺め、ラッド・マスラートはため息 をついた。  その数日後、都に空前の大火事が起きた。ジル ル君の豪邸が業火をあげたのだ。豪邸の中には美 しい宝石と、豪奢な調度品と、そしてジルル君の 愛する女もいた。出火の原因は放火だと警察は断 定。そして容疑者にジルル君があげられた。ひと 月ばかりの捜査が過ぎたころ、ジルル君は警察に 自首してきた。それもなぜか血だらけで。とてもシ ョッキングな事件だった。ラッド・マスラートは時計 台完成をジルル君に賭けていたが、一連の事件で 絶望的とみなし、外壁のペイントをせずに時計台 を完成することを決断した。完成披露式の際、ラ ッド・マスラートがその時計台の布をはずさせると、 群集は声を上げておののいた。そこには凄まじく 美しい絵が描かれていたんだ。血のように美しい 絵が。  ねぇ、ジルル君。僕はあの日以来、嬉しいこと があった時のは必ず、小指の骨を折るようにしてる。


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