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田町

 もともとはひとつの生命体だった。人造人間ネル ス13ーQは他の多くの人造人間と同じように、赤 い細胞と青い細胞の混ざったマーブル状の体をして いた。しかし、そういったマーブル状の人造人間は、 現在の世界においては不良品と見なされて廃棄され る。単色の細胞を持つものだけが完成品として出荷 されるのだ。ネルスは廃棄されてはいけないと思い、 体の背後に青い細胞を集めて隠した。ネルスの計算 は見事に功を奏し、赤い細胞の多い人造人間として 高値で出荷されることになった。しかしネルスの計 算以上に事態は進んでいった。赤い細胞のみを持つ 人造人間用の薬品を大量に投与されることで、隠し ていた青い細胞は悲鳴をあげ、ついには分離してし まったのだった。そうして体の中身をすっぽりと失 った赤い細胞の人造人間と、隠れよう隠れようとし て凝縮しすぎた小さな青い細胞の人造人間ができあ がった。地上の世界に出た赤いほうはそこの住人に ヒナタと名づけられ、地下の世界に潜り込んだ青い ほうはヒカゲと呼ばれるようになった。そうして、 ふたりは別々のものとして、それぞれの戦争に巻き 込まれていった。水源戦争だ。砂漠化した街が広が る地上世界。もはや水はかつてのどんな宝石よりも 稀少なものになってしまっていた。生命の根源であ る水を奪い合うために、赤い人間たちは巨大な機械 を身にまとい、水源地の確保をめざして日夜殺し合 いをしていた。シマの奪い合いである。一方、青い 人間たちはそういった巨大な機械を持たないがため に、地下で汚染された廃水をなんとか浄化しながら 飲んでいた。腐臭のする地下世界からの脱出をはか り、赤い人間たちと各地でゲリラ戦を繰り広げてい た。ヒナタは体の中の空洞が日に日に大きくなって いるように感じた。巨大な機械を操縦するには、ヒ ナタの体は衰弱しすぎていた。ヒカゲは光におびえ ていた。自分がヒナタの一部であったことがばれた らヒナタは迫害されてしまうだろうということ。そ して、自分などいないほうがいいのではないか、殺 されてしかるべき存在なのではないかということに、 おびえ震えていた。ヒカゲが、自分の命を絶つため に、浄化されないままの廃水を震える手ですくった とき、声が聞こえてきた。それは聴覚で感じるもの ではなく、細胞と細胞の共鳴のような、かすかな伝 達だった。「たすけてくれ。僕は、君がいないと僕 じゃないんだ。」自分に再び出会うための、長い旅 の始まりだった。


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