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品川

慶太郎は激痛に悲鳴をあげながら、夢を見ていた。 それは正確には夢ではないのかもしれない。幻覚 だったのかもしれない。とにもかくにも見ていた。 円形の部屋。円筒形といおうか。天井は高すぎて よく見えない。ぐるりと取り囲む壁に13のドアが ある。ここはどこなんだろう。生温かい空気が心 地よくもありながら、少し嫌悪感も覚える。 ここはどこだ。ふと気づくと、上品な赤いシルク ハットをかぶり黒い毛皮のコートを着たウサギが こちらを見て、立っている。二足歩行のウサギだ。 ずいぶんと、偉そうだなと感じた。なんだあいつ は。ウサギは何か言っている。よく聞こえないが、 おそらく何かを言っているのだろう。 そんな力を持った覚えはないが、不思議と理解で きる気がした。どこかのドアを開けろと言ってい るのだ。なるほど。なるほどドアをね。とそこで、 自分が何かを探していることを思い出した。ウサ ギに、どこにあるのか聞いてみたが、聞きながら 自分でも何を探しているのかわからずに聞くこと の矛盾は感じた。ウサギは答えない。 しかたがないのでどれかドアを選んで開けなくて はいけないなと思った。そういうルールなのだな と。そして、どれを開くかがおそらく大事なのだ。 ドアにはプレートが張ってあり1から13のドアまで ある。4…。4のドア。はどうだろう。4は好きな数 字だからな。いや、でもなんだか違うか。どれだ ろう。1からずっと見ていくと13のドアだけ少し雰 囲気が違うか気がした。何が違うのか。違和感。 乱雑な部屋の一部分だけが妙に片づいているよう な、違和感。あるはずのものがないような。ない はずのものがあるような。そんな違和感にひきず りこまれるように、そのドアの前に立っていた。 ドアノブをつかむ。手にびっしょりと汗をかいて いることに気づく。なんだっていうんだ。おそる おそるノブをひねり、少しずつ、あくまでもゆっ くりドアを開ける。そのドアの先に何があるのか。 隙間から覗き込んでやろう…と思ったその時だっ た。 「アアッ!!」 体が恐怖で反射的にそこを飛び退いた。その隙間 から、そのドアの向こう側から同じように覗き込 もうとする顔と、目があったのだ。息が上がる。 誰だ?誰だったんだ今のは。息が上がる。今至近 距離で僕を覗き込んだのは…。冷静になれ。そう だ。冷静になって思い出しわかった。覗き込んだ のは、自分自身だった。そう。なんのことはない。 ドアを開けたところに鏡があっただけだ。