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新大久
  保

「だから、お前じゃ無理なんだよ!」 「なんでっ!なんでバンドに入れてくれないんだ よお!新しいギターメンバーが欲しいって張り紙! 掲示板にしてあったのに!」 「だってお前、ギターできねえんだろ?」 「だから言ってるだろ?僕はギターを奏でること はできないけど、ギターそのもの的な存在として がんばりたいって!」 「なんなんだそれは!ギター練習すんのかしねえ のか!」 「しない!しないよそれは。いいかい?僕は幼少 の頃、ワイヤーにからまって死にかけたことがあ るんだ。だからそれ以来、ワイヤーっぽいものは さわれないの。エレキはおろかアコースティック だってダメ!っていうか弦楽器全般ダメ!」 「じゃあなんでバンド入りたいのそもそも!」 「わからないやつだなあ。あのねぇ…僕、童貞な んだよ!?」 「…だからなんだよ!」 「高校三年の夏を迎えようかというのに童貞なん だよ!?」 「…だからなんなんだって!それと学園祭のバン ド大会とどう関係が…」 「バンドやってキャーキャー言われりゃセックス できるでしょうが!!」 「死んじゃえよ!」 大久保慶太郎は美しいハイキックによって吹っ飛 び、音楽室のドアをつきやぶり、廊下へと転げ出 た。蹴られた衝撃で割れたメガネの破片が宙を舞 う瞬間、夏の光を乱反射してスパンコールみたい に見えた。セミの鳴き声。女子の悲鳴。ざわめき。 集まる野次馬の中に、牧英理子の姿が見えた時、 その視線が自分に突き刺さっている!感じを覚え た慶太郎はそれだけで白く濁るような絶頂に達し た。 「英理子ぉー、あれ見てよ。三組の大久保。なん か虫っぽくない?」 英理子は慶太郎を一瞥すると「きもちわり」と低 くつぶやいて立ち去った。 五文字…!五文字!五文字!慶太郎は思った。五 文字も、あの子が俺についてコメントを残した! これは月面着陸なみの大きな一歩と見ていいだろ う!よし決めた。あの子の処女は俺がもらう!い や、最悪処女じゃなくても、なにかしらもらって やろうじゃないか! 慶太郎は跳ね起き、その勢いのまま学園祭実行委 員会のところへバンド参加の申請を出した。 メンバーはひとり。楽器はギター。 「ふうん…。弾き語り?」 「歌なんて歌いませんよ。」 「え?ギターだけ?…ていうか大久保くん、ギター ひけたんだ?」 「ギターをひくっていうか、ギターになろうかな って思ってますけどね。ええ、ギターをアカペラ で。」 夏だ。今年は最高の夏になる。慶太郎は太陽をに らみつけた。(つづく)