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巣鴨

「いいかい、この世で最も恐ろしい敵は“自分の 中の弱さ”だよ。それはいくらなぎ倒しても完全 に掃討し終えることがない。不滅のしぶとさをも って襲い掛かってくる。しかしその敵との戦いか ら逃げてしまえば、手に入れることはできないの だ。誇り高き人生を」 沢村はそう語った上でもう一度問うた。 「君は、本当に生まれ変わりたいのか?」 慶太郎は深く深呼吸した上で言い放った。 「僕が欲しいのは青い鳥なんかじゃない。僕が欲 しいのは、火の鳥さ」 「…その言葉を、1世紀待ってた」 手術を始めよう。まず腹部に空洞を作り、その上 に神経で弦を張る。神経弦は耳と足に巻きつけて テンションをかける。上半身と局部にヤスリをか け、毛細血管が浮いて見えてきた段階でニスを塗 る。麻酔などかけない。かけぬことに意味がある のだ。全身をめぐる激痛。激痛。激痛。改造とは そういうものなのだ。Just哀love勇。慶 太郎の悲鳴は空気を裂き、人間が聞き取れる波長 を超え、超音波の域におよんでいた。その超音波 に引き寄せられたコウモリたちが、改造屋の上空 に集まってくる。 数日間、その超音波は続いた。そのあいだに、コ ウモリはおびただしい数になり、青空を黒く覆い 始めた。さらには、そのコウモリが町の電線を噛 み千切るという事故が相次いだ。町の住民はコウ モリ退治に乗り出したが、どのような手段をもっ てしてもコウモリを追い払うことはできなかった。 警察でさえもさじを投げた。そうして完全に電気 が不通になり、町の住民はその場所を出て行くこ とを余儀なくされた。空の光、電気の光、人々の 目の中の光、それら全ての光を奪われて、町は完 全な闇に包まれた。その頃からである。土黒町 (つちくろちょう)は人々から「ドクロ町」と呼 ばれるようになった。一方その頃、隣町の大きな ビルの会議室で、老紳士が部下を呼び出して相談 を始めていた。 「木崎君。土黒町のコウモリ異常発生を、なんと かできないか」 「ドクロ町ですか。あそこは国も手を出せないほ ど、コウモリの巣が物凄いことになってまして…。 非常に難しい状況でございます」 「ドクロ町ではない。土黒町だ。私のふるさとを 侮辱するな。」 「申し訳ありません、会長」 「…国に頼らず、原因究明とその対策にあたるチ ームをわが社で編成しろ。コブタクル社の総力を あげてあの町を救うのだ」 「…かしこまりました」 「QZ五号を出せ」 「…!?」 木崎専務はわが耳を疑った。