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ねえ、お兄ちゃん。わたしのベティーナスベティーはど こ? マリスは言ったが、トオルは返事をしなかった。意地悪 をしたわけではない。ゴーヤーのデコボコの数にはどれ くらいの個体差があるのかを調べるのに夢中だったのだ。 袖を引っ張られたせいで、野鳥の会がカチカチするアレ が床に落ちてしまった。 なんだい、そのベティーナスベティーってのは。 あら、わたしのお友だちよ。前に紹介したでしょ? ああ、あの熊のぬいぐるみのことかい? ばかね、それは倉田ひろのぶよ。倉田のことをぬいぐる みだなんて言わないで。そうじゃなくてベティーナスベ ティーよ。 うん… ほら、また聞いてない。 そこへ、執事のムラサキがふいと顔をだして言った。 マリスお嬢様、ベティーナスベティーならほら、ここに。 ムラサキはしわしわの手のひらの上に乗せた消しゴムの カスをさしだした。 え?なんで?なんで消しゴムのカスがベティーナスベ ティーなわけ? おやおや、違いましたか。 おやおやじゃないわよ。百歩ゆずってそれベティーナス ベティーだとして、なんでそれをわたしが汗だくになっ て探すわけ?ねえ、なんで? いやはや、困りましたなあ。 困ったのはわたしよ。 ちょっともう、二人とも静かにしてくれないかな。ゴー ヤーを扱うときに最も重要なのは精神的なバランスを保 つことなんだ。 禅だよ。ニッポンという国でいうところの禅の発想なん だよ。 そよ風が窓の外から吹き込み、白いカーテンを揺らしている。 もう、知らない。お兄ちゃんもムラサキも、ポップコー ンみたいになっちゃえばいいんだわ。 なんだと?僕とムラサキが何者かに加熱されたあげく、 はじけとべばいいってのか? それは言い過ぎでございますねお嬢様。 違うわよ。ポップコーンみたいに白くなっちゃえばいい ってことよ。 え?色?色に着目した比喩なのそれ? そうよ。 そのとき、ムラサキが叫んだ。 誰かが見ています!私たちのことを。 そしてムラサキは直観した。自分たちがその者によって 今しがた作られた文字上の生命であることを。 マリスはうれしそうに言った。 そこにいたのね、ベティーナスベティー。わたしたちを いつもそうやって遊び半分に、粗雑に創造しては放棄し て。かわらないわね。でもひとめ見てみたいわ、あなた のこと。 そいつは無理なお話さ。でも、僕も会いたいよ。マリス。 そうして次の瞬間、三人のいた部屋はポップコーンみた いにはじけとんだ。僕の目の前で。


コピペ元 「変人ラジオ書き起こし
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