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神田

 サッカリーニはつぶやいた。「バルシアム病の正 体は、無数の羽虫!」その羽音の不協和音で神経 を揺さぶり、羽に乱反射する光が幻覚をみせるの だ。なめやがって。厄介なのは羽虫を焼き払えば 済むというわけではないことだ。バルシアムの森で は体温の高いものめがけて永遠に羽虫が寄って来 続けるので、自分の周りを少し焼き払ったことでき りがないのだ。だから最も効果的な方法とは。遥 か遠くに視線の焦点を合わせて羽虫を見ないよ うにすることなのだ。しかしそれがまた難しい。一 部に甘い匂いを発するものもいて、それにつられ てふと視線を移してしまう。そして視線を移せば 最後、脳髄がバウバウなってしまうわけだ。たま に無害なのもいるがそれは羽虫の成長過程にすぎ ず、安心しているとそのうちに成虫してどうしよう もなくなる。成すすべなし。この森で成すすべな し。だいたい焼き払うためのものないし。ナイフ 一本しか持ってないし。とにかくバルシアムの森 はムチャクチャ。畜生、誰なんだお前は。誰なん だお前は。神だ?味方だ?虫め!あれ?もうバル シアム病にかかっているんじゃないか俺はさっきから 支離滅裂なことばかり考えているけれどあれ? それともハナから錯乱系?手のひらを見るとメモ。 自分の筆跡。「ナイフをただ、研ぐこと。」そうだ。 そうだ忘れるところだった忘れやすいから俺メモ しといたんだった。ナイフ、ナイフをただ研ぐしか ないんだもうこの森に入った以上。それ以外のこ とはもうわからなくなっちゃうからやめたんだ。俺 が自由に使えるのはこの右腕だけ。もうこの右腕 だけ。あとはわけのわからない糸で動いてる。あ あ、また羽虫見ちゃった。体温に寄せられてきや がって。虫のくせ偉そうに。羽音がうるせえから どっかいってくれ畜生。ああ、ポケットに入れて いた仏像。小さな銀の仏像。これだけが心癒し てくれるんだようこれだけが。でも俺わからなくな っちゃってだめになっちゃってこの仏像をいつかナ イフで傷つけちゃうかも。それが怖いよ。という か、満月。銀の仏像に満月映ってる。  サッカリーニは空に向かってナイフをひゅういひ ゅういと振った。それが綺麗な音をたてていた。 涙がぽろぽろ出てきた。涙の温度は、なんという か最高にいい具合の温度だ。満月に研いだナイ フを刺して、そこから出てくるジュースがこの温 度だったらいい。そしてそのジュースをたくさん飲 める人生だったらいいと、サッカリーニは思った。


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