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第十九話
イタンジノジンタイ
異端児の人体
(回文)

ミミオはピコル君の体の中を、心の中を、依然として 彷徨っていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 「いや、でもマジで本気出したら、グーにだって負け る気、しませんよ。」 チョキは言った。かなり酔っているようだった。 向こうの方が1年半くらい先輩ですけど、偉そうにされ るのは正直ムカつきますよ、 と言ってテーブルの足を蹴った。 彼の気持ちはわかる。私から見ても最近のグーの態度 には やや増長したところがあると思うからだ。 仕事の現場にもシャリで乗りつけてきて、 まるで自分がスシネタにでもなったかのようなチャラ チャラした振る舞い。 売れっ子のパーの前ではヘコヘコしてるくせに、 グーやその後輩の前では長々と説教をかます。 「いいか?てめぇら。この世にはな、二種類のジュー スしかねえんだよ。 『あったか〜い』か『つめた〜い』かだ。」 そんな台詞は、キャリア30年超の大師匠じゃないと言 えない言葉だ。 若手へのイジメは昔から酷かったが、最近はさらに酷 くなっていると聞く。 ワンタンの中に入れられた。ウェットティッシュを勝 手に乾かされた。 陰毛をむしり取られたあげく、褒めちぎられた。 など、枚挙を挙げればいとまがない。他人には厳しい くせに自分には優しい。 そして地球にも優しい。それがグーの正体だ。 確かに、グーはなかなか仕事がデキる男ではある。 だけど、あるがままの心で生きられぬ弱さを誰かのせ いにして過ごしてる。 それでは仕事ができても他からの人望に厚くはなれな い。 「まあ、そのうちヤツも痛い目に会うさ。チョキ、女 紹介してやっから元気出せよ。」 私が言うと、チョキはコロッと機嫌を直して、どんな 女っすか?と聞いてきた。 「んー、まあ、普通にカワイイ子かな。でも性格はど うかな。 俺もよくわかんねえけど、スロバキアでは英雄って呼 ばれてる。」 「マジっすか!?俺、そういう子にウケ、いいんすよ。 写メとかあります?」 あるよ、と言ってチョキに見せた。 「これ。ちょっと写り悪いけど、実物はもっとカワイ イよ。」 「あー・・・。いい・・・じゃないですか。でもなん で頭にウ冠、乗せてるんすか?」 「なんか漢字系の企業の面接だったんだって。彼氏は 2年くらいいないみたいよ。どう?」 「いや、マジでいいっすよ。なんかこの子といろんな とこ行ってみたいなー。 厄払いとか。あーなんかテンション上がってきたっ。」 そう言ってチョキが自分の手首を切ろうとしているの を見て、微笑ましくなった。 「この子、インドア派だけど、意外とお前みたいなト ランクス派とも相性いいと思うよ。」 チョキは、へへへ、と笑ってビールを飲み干した。 まあ、チョキは酒に弱いので、正確には飲み干したと いうよりも、 飲んだ後で干しただけだったが。 「なんか、今日はありがとうございました。 俺の変な愚痴、聞いてもらった上に、女の子紹介して くれるとか言ってくれて。 なんつーか・・・ホント、集団で辱めた後に皮を剥い で塩漬けにしたいくらいっす。」 「バーカ。俺はただ先輩としてお前のこと評価してる から、 力になりたいって思っただけだよ。なんかあったらい つでも電話して来い。 すぐかけつけてお前の前歯折ってやるから。そんでそ の後チーズでフォンデュしてやる。両親の目の前でな 。」 「あはは、冗談キツイっすよ先輩。マジで、あんたが 生きてること自体、 法律で禁止されてるんすよ。」 「なんてな。だからお前は自分の力信じてがんばれっ て。 てめえがゴキブリ野郎だってことは科学的に証明され てんだから。」 そんなことを言いながら、二人で首を絞めあって笑っ た。 こんな時間が、結構楽しかったりする。家に帰って思 い出すと虫唾が走るくらいだ。 そして二人は別れ間際に互いの人生観を徹底的に否定 し、国交の断絶をした。 マスコミを通じて以後はエビ及び綿製品の輸出入をス トップしたことを伝え、 それが事実上の宣戦布告となり即時開戦となった。 両国の軍隊はインド洋沖で衝突。チョキが化学兵器を 用いていることが発覚し、 国際的にそれが取りざたされ国連軍が大爆笑するとい う事態に陥る。そして・・・ 「チョキに告ぐ。貴殿とこのような関係になってしま ったこと極めて遺憾である。 しかし我が国はこれからも総力をあげて睡眠をとりた いと思うので、 決して部屋を覗かないで欲しい。」 この通達を最後に、私は鶴となって空へと羽ばたいた。 そしてこの戦争は幕を閉じ、私は一人で亀と寿命を競 い合い死亡した。 ああ・・・俺の人生もこれで、終わりか。あっけねえ もんなんだな。 ごめんな。チョキ。俺、素直になれなくて。 もっと早く言うべきだったんだ。 そうさ。 お前はチョキなんかじゃなかったんだ。 お前は、ピースだった。 最高にピースだったよ。 大山田・ビッグ・孝弘。享年35歳。 電気シェーバーが発明されるのは、この4年後の話であ る。