第十
八話
空
中
の
イシナシ
「会長、今日は・・・2つ、でいいですね。」
イシナシ君は紅茶に角砂糖を2つだけ入れた。
会長はニッと微笑んで、うなずいた。
イシナシ君は心を読んだのだ。
「イシナシ。ミミオ・ハナオの兄弟はどうなってんの
?今、あいつらの心も読める?」
イシナシ君は目を閉じて遠くに意識を移した。
「・・・ミミオ・・・ミミオの意識は今・・・
あれ?おかしいな・・・ピコルの、ピコルの中にいま
す。」
「やっぱりね。」
会長はため息をついて紅茶を一口飲んだ。
会長は知っている。ピコル君とイシナシ君が同類であ
ることを。
同じ種類の力を持つ、悲しき玩具であることを。
イシナシ君はなにが「やっぱりね。」なのかさっぱり
だったが、
やっぱり、会長は凄いと思った。
この人の考えていることは計り知れない。
イシナシ君は知っている。
会長のこの妖怪のような容姿が生まれた時からのもの
ではないことを。
会長の部屋である日、美しい女性の写真を見つけた。
それは会長の姿とは似ても似つかぬ美しさだったが、
イシナシ君は直感したのだ。
「これは会長だ。」
会長はわざと、自分の顔を醜くしたのだ。
それがなぜなのかという理由は、なんとなく想像がつ
く。
一度、イシナシ君は会長に言われたことがある。
「イシナシ。人間に最も必要なものが何だかわかる?
それはね。欠陥よ。」
その言葉を賜った時、イシナシ君の中で何かがはじけ
た。
救われるっていうのはこういう事なのかもしれない。
それからイシナシ君は会長とのプレイが楽しくてしょ
うがなかった。
イシナシ君は知っている。この気持ちが愛に限りなく
近いことを。
ポケットの中の、会長の美しかった頃の写真の裏に、
イシナシ君は詩を書いた。
あなたのことを考えると
スプーンが曲がるんだ
あなたのことを考えると
スプーンがぐにゃって曲がるんだ
これって超能力?
それとも恋?
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